天網恢恢、疎にして漏らさず

■感想文『なぜ君は絶望と闘えたのか―本村洋の3300日』/著者・門田隆将さん


”天網恢恢、疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず”は、事件後の取り調べの中で、奥村刑事が少年法に絶望していた本村に授けた言葉である。天の張る網は、広くて一見目が粗いようだが、悪人を網の目からもらすことはない。悪事を行えば、必ず天罰を受けるという言葉である。本村はこの言葉を胸に、これまで法廷での闘いを続けて来た。その大切な言葉を今度は本村がFに伝えたのだ

上記は、本文からの抜粋です。

抜粋は、本村さんが差し戻し控訴審でした意見陳述の一部。その全貌は、著者である門田隆将さんが、本書の中で克明に記述しています。奥村刑事とは、事件発生当時から本村さんの取り調べを担当し、その後は本村さんを励まして捜査に全力を注いだ人物です。Fとは、光市母子殺害事件の被告のイニシャルをあらわしています。

光市母子殺害事件とは、1999年4月に山口県で起きた殺人事件です。この光市母子殺害事件を書いたノンフィクションが、本書です。

本の内容は、タイトルの通り。「てんもうかいかい、そにしてもらさず」とは、老子の教えです。天の網は広大で、目が粗いかもしれないが、悪人は漏らさずに捕らえる。悪い事をすれば必ず天罰が下るという意味合いになります。本村さんが、なぜ絶望と闘えたのか、その理由が時系列に沿って、記されています。しかし、それだけではありません。

妻と娘を殺された一人の青年の軌跡と、その青年を支え、励まし、最後まで毅然たる姿勢を貫かせ、応援しつづけた人たちの物語(本書プロローグより抜粋)

でもあります。青年とは、事件発生当時23歳だった、本村さんを指しています。

 ・事件のこと
 ・少年法のこと
 ・悔悟のあり方
 ・司法の意味
 ・メディアの現状
 ・死刑判決がもたらす影響
 ・遺族として生きること
 ・犯罪被害者になること

などなど。枚挙にいとまがないですが、そうしたことを学び知り得たというだけでも、本書の持つ意味は大きいです。また、判決理由、冒頭の本村さんの意見陳述を含め、本書には、詳細な事件の裁判内容も記述されています。

事件内容が大変に凄惨であること、死生観なども書かれている本であるということ、そうした理由から、万人にはおすすめしませんが、私は読むことができて良かったです。



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