見出し画像

【書店員の私が、2023年に読んだ本で最も衝撃的だった一冊を発表する〜成生賞2023〜】

【成生賞】
私がその年に読んだ本のなかで一番衝撃を受けた作品を発表する企画である。
本当に良かった!読んでよかった!と思う、忖度なしのベストな一冊を完全なる個人的趣向で選ばせていただく。
作品の発売年は不問であり、書店での売れ行きも選考材料とはならない。

「多くの人に本の素晴らしさを伝えたい、ゆくゆくはこの賞をメジャーにさせ、もっと多くの人に感激の輪が広がってほしい。」
という名目で作られた成生賞であるが、この企画によって「少しでも多くの種類の本が売れる世の中になってほしい」というのが真のねがいである。
閉業に追い込まれてしまう書店が生まれたり、給料の関係で辞めてしまう書店員が増えたり、食べていけないからと本が書かれなくなるのはつらく悲しいこと。
私はそれをどうにかして食い止めたい。
暗い話題が少なくなるような業界にしたい。
まだまだ米粒ほどの企画であるが、千里の道も一歩より。昨年2022年から始まった成生賞を大きく育てていくのが書店員成生としての目標である。

ちなみに昨年度の成生賞2022をSNSで発表した際、普段の投稿より多くのいいねがついた。
はたしてあれを見て買ってくれた人はいたのだろうか・・・。
一年経った今も気になっている。

ちなみに成生賞2022の作品はこちら↓

【成生賞2022】
僕のマリ 著『常識のない喫茶店』

【号泣賞】
さだまさし 著『銀河食堂の夜』

【爆笑賞】
清水義範 著『バスが来ない』

【共感賞】
稲田万里 著『全部を賭けない恋がはじまれば』

急遽【号泣賞】【爆笑賞】【共感賞】を作ったのであるが、これは単純に一作品だけを選ぶのが非常に苦痛だったためである。本当はもっと紹介したい作品があったのだが、【〇〇賞】の種類が思いつかなかったので以上とした。
僕のマリさんと稲田万里さんは勤務先の書店へ来てくれた。僕のマリさんは私と同い年の女性だ。彼女の存在がきっかけとなり、私は今年、人生初の文学フリマ出店を果たす。書くことの楽しさ、本を作ることの大変さを知ることができたのは大きかった。
稲田万里さんは新宿のゴールデン街で働いていたのでよく顔を合わせていた。女装男子レポ企画に加わらせて頂いたり、霊視で占ってもらったりと、私に多くの面白い経験を与えてくれた作家さんだ。
ちなみに両者とも「まり」さんなのは偶然。なんとも不思議な縁である。

お待たせした。いよいよ成生賞2023および他賞の発表に移ろう。
今回の他賞は【主人公賞】【エッセイ・ノンフィクション賞】【恋愛小説賞】【特別賞】の四つ。
特に【恋愛小説賞】は死ぬほど悩んだので、また何かの機会に候補作品を発表したい。

では発表する!
今年、私の心に最も色を残した作品たちはこちら!

【成生賞2023】
佐川恭一 著『シン・サークルクラッシャー麻紀』

【主人公賞】
宮島未奈 著『成瀬は天下を取りにいく』

【エッセイ・ノンフィクション賞】
スズキナオ 著『酒ともやしと横になる私』

【恋愛小説賞】
千早茜 著『さんかく』

【特別賞】
成生隆倫 著『終わらない恋の果ての地で、あなたに私を殺してほしい』

成生賞2023は、佐川恭一さんの『シン・サークルクラッシャー麻紀』に決定!
特にこれといった名誉も褒賞もないですが、佐川さん、おめでとうございます。そしてこの作品を生み出してくださってありがとうございます。

こちらの選考理由は、「エネルギーの放出量とその着火剤の存在が、ぶん殴りたいほど素敵だったから」である。
ネタバレになるので詳細は避けるが、とにかく、成生というこじらせ系男子にとっては共感度百五十億%の素晴らしい作品だった。

【成生賞2023】

佐川恭一 著『シン・サークルクラッシャー麻紀』

あらすじ:文芸サークル「ともしび」は、純然たる思いで文学作品の執筆に挑む人間たちの集まりだった。そこにやってきた妖艶な美女、麻紀。彼女の登場によって全てが変わり、そして壊されていく…。

ぼろぼろになった青春の瓦礫の中から埃まみれの情熱を取り出し、そいつをせっせと磨く作業はとてつもなく苦しい。傷を負い、泥だらけになりながらも、愚直にやり続けるのは勇気も根気も必要だ。だが隠しきれない胸の空白感は、そうすることでしか埋められなかったりする。その現実をポジティブに突きつけてくれたのがこの物語。
読み終えた瞬間、私の心は身体を飛び出した。びゅーっと夜空をかけて深夜の三条大橋に飛んでいく。愛を語らうカップルなどお構いなし!ごうごうと流れる鴨川に向かい、あやふやな克己心を明確な言葉に変えて叫んだ。そしてひとしきり叫んだあと、再び東京の自宅にある身体へ戻る。私はパソコンを開いてばたばたとキーボードを叩き、書きかけの小説に取り掛かった。脳みそはあちこちにぶつかって疲弊しているが、勢いはまったく止まらない。
動かなきゃ何も変わらない始まらない。大人になった気になって、物事の意味を気にして中途半端に生きるなんてつまらない。もっと敏感にもっと大胆に。たった一冊の本によって、私の挑戦心はその後も様々な場所で湧いた。
この小説からみなぎる熱は、人を動かす力がある。そう思わずにはいられない。
遥かな夢を追っている人、生きる活力が欲しい人は、絶対に手に取ってほしい。

【主人公賞】

宮島未奈 著『成瀬は天下を取りにいく』

あらすじ:夢は200歳まで生きること。
そう宣言する成瀬あかりは、少し(?)変わった女の子。突然M-1グランプリに出場したり、高校の入学式で坊主にしてきたり。本人はいたって真面目なのだが普通の人間とはどこか違う。常に堂々と振る舞う成瀬は、いつのまにか周りを虜にしていく…。

滋賀県大津市を躍動する彼女の魅力は、間違いなく天下レベル。惹かれてしまうのは、心のどこかで特別な自分を求めているからだろうか。成瀬あかりになりたい人は少なくないはず。
2024年発売の続編『成瀬は信じた道をいく』も素晴らしい作品だった。個人的には一作目を越えていると思った。
来年はきっと成瀬の年になる。注目するべし。

【エッセイ・ノンフィクション賞】

スズキナオ 著『酒ともやしと横になる私』

あらすじ:スズキナオさんの素敵なエッセイ。…紹介はこれで以上だ。

これを読んだからと言って何か特別なスキルが身につくことはない!しかし、その「無」が素晴らしく心地よいのだ!
天才でありダメ人間。そんなナオさんの独特な感性が我々を虜にする。めちゃ推しの超脱力系エッセイ!
(高円寺の蟹ブックスさんでお会いさせて頂き本当に光栄だった。また一緒に乾杯したいな・・・!)

【恋愛小説賞】

千早茜 著『さんかく』

あらすじ:同居を始めた、デザイナーの夕香とその元後輩である正和。彼らはただ食の趣味が合うからという理由で一緒にいる。正和と付き合っているのは、動物解剖をしている大学院生の華。しかし彼女は正和が女性と同居している事実を知らない。
「食」を軸として、三人の気持ちはめぐる。


自分が求めるものを恋人が持っていないと悟ったとき、つい揺れてしまう心がある。刺激とか安寧とかが欲しくなるのは当たり前だ。三大欲求のどれかが関わればなおさら。
登場人物全員、丸い形はしていない。どこかが欠けていて、それは第三者からしたら嫌悪的に映る。私も誰一人として好きになれない。だがそれは自分も同じように欠けていることの裏返しなのだろう。
この小説の美味しさがとても苦しい。
だが、味わいたくなる己が止まらない。

【特別賞】

成生隆倫 著『終わらない恋の果ての地で、あなたに私を殺してほしい』

あらすじ:「その純白のウェディングドレス姿は、私の目を潰した。」
高校二年生のとき、予備校の階段ですれ違った先輩に一目惚れした主人公。しかし彼女は遠い存在で、上手くコミュニケーションを取ることができないまま時が流れてしまう。
想いを伝えられないまま主人公は地元を離れ、京都の大学へ進学することに。気持ちを振り切った彼は、そこで出会った推しAV女優似の同級生を狙うのだが…。精一杯生きた青春をいつまでも引きずる、三十歳書店員・成生の自伝的童貞小説。

男性からは共感の嵐。女性からは冷ややかな目つき。とにかく気持ち悪いと絶賛の声が上がった。
「ありがとう!」
全身全霊で書き上げたものに対する感想を受け、私は最高に満足している。
これまでにないほど身を削り、倒れるように文章を綴った。文章を綴ることで救われる想いがあると期待していたが、そんなものはなかったと書き終えてから気付く。トゲが残り続けるのも悪くない、そんなふうに格好つけた自分が好きだ。もうめちゃくちゃ大好きだ。だから特別賞だってあげたい。(笑)
青い恋を抱いたことのある全てのひとに読んでほしい。忘れきったはずのあの気持ち、もう一度ふれてみてはどうだろう。
店頭では売っていないので、DM or 直接言って頂ければご用意致します。
どうぞぜひぜひよろしくね。

さて、2023年もいろいろな本と出会った。さらっと読んだもの、何週間もかかったもの、向き不向きの問題で挫折してしまったもの。それら一冊一冊は私に異なる景色を見せ、異なる感情を抱かせた。ほっこりしたり、切なくなったり、勇気をくれたり、気持ち悪くなったり。本を閉じるたび開くたび、めまぐるしく心の模様は移り変わっていく。
ハートにずっきゅーんしたもの、文章が持つ力をダイレクトに感じられたもの。成生賞及び他賞の候補作はどんどん生まれ、私は一作品一作品を吟味する。その行為は自分と向き合っていることと同じだ。私は何を大切に思い、何に感銘を受けたのか。長い人生のなかの一年を振り返るという意味でも、成生賞は私にとって大きな意味を持つ。
もっと早くやっていれば二十代を有意義に生きられたなと思ってしまう瞬間もあるが、それもまたひとつの(  )。
つべこべ言ってもしょうがないので、新しい本に手を伸ばそう。

2024年はどんな本と出会い、それによってどんな事が自分の中で起こるのか。今から楽しみで仕方がない。
魅力ある本を大々的におすすめすることができる未来に、私は胸を膨らませる。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?