小関武史

大学教員。18世紀フランス文学・思想史、とくに『百科全書』を中心に研究しています。ここ…

小関武史

大学教員。18世紀フランス文学・思想史、とくに『百科全書』を中心に研究しています。ここでは研究から一歩離れて、本、演劇、映画、美術などについて書いてみようと思います。

記事一覧

毎週一帖源氏物語 第二十二週 玉鬘

 「玉鬘十帖」や「玉鬘系」という言い方があるらしい。この玉鬘巻から真木柱巻までは一つのまとまりを成すと考えられている。物語がここから新しい局面に入ると言ってもよ…

小関武史
5日前
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毎週一帖源氏物語 第二十一週 少女

 この巻で六条の院が落成するが、その模型が宇治市源氏物語ミュージアムにあるらしい。見たことがあるはずだが、記憶にない。私のもとの実家から歩いて五分とかからない場…

小関武史
12日前

毎週一帖源氏物語 第二十週 朝顔

 事情があって、宇治の実家に一泊二日で弾丸帰省してきた。用事そのものは初日で片がついたので、二日目の午前に宇治十帖の石碑をめぐってきた。いずれその時が来れば、写…

小関武史
2週間前
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毎週一帖源氏物語 第十九週 薄雲

 物語が大きく動くところは、やはり読んでいてもおもしろい。中だるみの危機をひとまず乗り越えられた。 薄雲巻のあらすじ  若君の袴着を立派に執り行いたいと願う源氏…

小関武史
3週間前
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毎週一帖源氏物語 第十八週 松風

 今学期は「フランス語圏文学」という科目を受け持っている。安易な比較は慎みたいが、『源氏物語』を頭の片隅に置きながらフランス文学に接することが多くなりそうだ。 …

小関武史
1か月前
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毎週一帖源氏物語 第十七週 絵合

 新学期が始まった。私も今日から授業である。先週はプロ野球が開幕して大変だと書いたが、あれはもちろん冗談であって、本当に大変なのはこれからだ。 絵合巻のあらす…

小関武史
1か月前
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映画『ノルマル17歳。―わたしたちはADHD―』

 愛媛での先行上映に続き、東京でも公開された映画『ノルマル17歳。―わたしたちはADHD―』(2023年、日本、北宗羽介監督、80分)。公開二日目の2024年4月6日、アップリン…

小関武史
1か月前
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毎週一帖源氏物語 第十六週 関屋

 プロ野球が開幕した。それがどうしたと言われそうだが、阪神ファンの私は試合中継のテレビに吸い寄せられてしまうので、『源氏物語』を読む時間が減るのだ。夏になると週…

小関武史
1か月前

毎週一帖源氏物語 第十五週 蓬生

 源氏が須磨と明石での不遇の日々を乗り越えて都への凱旋を果たすと、物語としても山を一つ越えたような感覚がある。それでちょっと気が抜けたというか、続きを読む意欲が…

小関武史
1か月前
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毎週一帖源氏物語 第十四週 澪標

 ここから第三分冊に入る。すでに読んだ箇所の記憶をたぐりながらでないと、理解が追いつかない。大事な場面を素通りすることも多くなりそうだ。 澪標巻のあらすじ  須…

小関武史
2か月前

毎週一帖源氏物語 第十三週 明石

 このシリーズ第二週の「帚木」で、私は現代語訳で『源氏物語』を読もうとした過去の取り組みに触れて「須磨・明石くらいまで辿り着きはしたものの、帚木巻で勢いをそがれ…

小関武史
2か月前
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毎週一帖源氏物語 第十二週 須磨

 小学校高学年の頃、同い年のいとこと須磨・明石方面に遊びに行ったことがある。そのいとこ一家がもともと神戸市垂水区(まさに須磨と明石のあいだ)に住んでいて、当時は…

小関武史
2か月前
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毎週一帖源氏物語 第十一週 花散里

 私は大学教員なので、あるテーマについて週に一度のペースで話すことには慣れている。「毎週一帖源氏物語」と題してnoteに連載を書くことは、講義ノートを作る作業に似て…

小関武史
2か月前
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毎週一帖源氏物語 第十週 賢木

 あらすじはなるべく簡潔にまとめたいのだが、その後の読書メモが唐突に映らないようにするには、どうしても一定の分量が必要になる。触れておきたいことが多いと、あらす…

小関武史
2か月前
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毎週一帖源氏物語 第九週 葵

長めの前置き~天皇号と院号  私がまだ大学院生だった頃、中央公論社(当時)から『日本の近世』というシリーズが刊行された。「天皇と将軍」と題された第二巻(1991年9…

小関武史
3か月前
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毎週一帖源氏物語 第八週 花宴

 「花の宴」という音の響きを聞くと、どうしても「荒城の月」を連想してしまう。しかし、土井晩翠の詞に出て来る「春高楼の花の宴」と源氏物語の花宴巻とは、何の関係もな…

小関武史
3か月前
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毎週一帖源氏物語 第二十二週 玉鬘

毎週一帖源氏物語 第二十二週 玉鬘

 「玉鬘十帖」や「玉鬘系」という言い方があるらしい。この玉鬘巻から真木柱巻までは一つのまとまりを成すと考えられている。物語がここから新しい局面に入ると言ってもよい。
 ちょうどよい機会なので、これまで読んできた部分を振り返ってみた。といっても、もう一度原文に目を通す余裕はないので、自分が書いた記事を読み直してみただけである。自分が何を読み取り、何を見逃していたか、とてもよく分かる。

玉鬘巻のあら

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毎週一帖源氏物語 第二十一週 少女

毎週一帖源氏物語 第二十一週 少女

 この巻で六条の院が落成するが、その模型が宇治市源氏物語ミュージアムにあるらしい。見たことがあるはずだが、記憶にない。私のもとの実家から歩いて五分とかからない場所にできたこの施設は、私がフランスに留学しているあいだにオープンした。帰国後に見に行ったものの、印象に残っていないのだ。知識がないと、同じものを見ても感じるところが少ないのだろう。『源氏物語』を通読したあとで見学すれば、きっといろいろな発見

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毎週一帖源氏物語 第二十週 朝顔

毎週一帖源氏物語 第二十週 朝顔

 事情があって、宇治の実家に一泊二日で弾丸帰省してきた。用事そのものは初日で片がついたので、二日目の午前に宇治十帖の石碑をめぐってきた。いずれその時が来れば、写真で紹介してみようと思う。

朝顔巻のあらすじ

 斎院は式部卿の宮の服喪のために退下し、長月には女五の宮が住まう桃園の宮に落ち着く。源氏は女五の宮への見舞いを口実に桃園を訪れ、前斎院と御簾越しに歌を交わすが、前斎院は心を開かない。気が晴れ

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毎週一帖源氏物語 第十九週 薄雲

毎週一帖源氏物語 第十九週 薄雲

 物語が大きく動くところは、やはり読んでいてもおもしろい。中だるみの危機をひとまず乗り越えられた。

薄雲巻のあらすじ

 若君の袴着を立派に執り行いたいと願う源氏は、娘を手放すことになる女の気持ちを思いやりながらも、二条に引き取る。女も、娘のためにはそのほうがよいと自分に言い聞かせて我慢する。姫君は移ってきた初めのうちこそ大井の母君がいないことを寂しがったものの、すぐに二条の院の上になつく。源氏

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毎週一帖源氏物語 第十八週 松風

毎週一帖源氏物語 第十八週 松風

 今学期は「フランス語圏文学」という科目を受け持っている。安易な比較は慎みたいが、『源氏物語』を頭の片隅に置きながらフランス文学に接することが多くなりそうだ。

松風巻のあらすじ

 二条の東の院が造営され、その西の対に花散里が移り住む。東の対は明石の御方のために確保されており、源氏は上京を促すが、女は決断しかねている。親としても悩ましい。大井川の近く、母君の祖父の所領だったところを修理させ、入道

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毎週一帖源氏物語 第十七週 絵合

毎週一帖源氏物語 第十七週 絵合

 新学期が始まった。私も今日から授業である。先週はプロ野球が開幕して大変だと書いたが、あれはもちろん冗談であって、本当に大変なのはこれからだ。

絵合巻のあらすじ

 故御息所の娘である前斎宮が入内することになったが、源氏は院に配慮して、前面に立つことは避ける。前斎宮が伊勢に下向する折りに見そめて以来、院の気持ちは変わっていないのだ。入内に合わせて院が念入りに用意した御櫛の筥(はこ)などを見るに

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映画『ノルマル17歳。―わたしたちはADHD―』

映画『ノルマル17歳。―わたしたちはADHD―』

 愛媛での先行上映に続き、東京でも公開された映画『ノルマル17歳。―わたしたちはADHD―』(2023年、日本、北宗羽介監督、80分)。公開二日目の2024年4月6日、アップリンク吉祥寺で見てきた。
(※ネタバレが気になる方はお読みにならないことをお勧めします。)

途中までのあらすじ

 朱里(じゅり、鈴木心緒)の部屋は散らかっている。整理整頓は苦手らしい。就寝と起床の時間もばらばらで、学校には

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毎週一帖源氏物語 第十六週 関屋

毎週一帖源氏物語 第十六週 関屋

 プロ野球が開幕した。それがどうしたと言われそうだが、阪神ファンの私は試合中継のテレビに吸い寄せられてしまうので、『源氏物語』を読む時間が減るのだ。夏になると週末もナイトゲームになり、「光る君へ」の視聴にも影響が出るだろう。

関屋巻のあらすじ

 かつての伊予介は、故院崩御の翌年に常陸介となり任地に下向した。妻の帚木は当地で源氏の須磨流謫のことを聞き及んだが、便りを差し上げるすべもないまま年は過

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毎週一帖源氏物語 第十五週 蓬生

毎週一帖源氏物語 第十五週 蓬生

 源氏が須磨と明石での不遇の日々を乗り越えて都への凱旋を果たすと、物語としても山を一つ越えたような感覚がある。それでちょっと気が抜けたというか、続きを読む意欲が弱まっているのを感じる。気をつけないと。

蓬生巻のあらすじ

 源氏が須磨に退居すると、支えを失って困窮する人々もあった。常陸宮の君もその一人である。邸は荒れ放題だが、姫君は亡き父宮の思い出が詰まった邸も調度類も売り払わない。女房たちも少

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毎週一帖源氏物語 第十四週 澪標

毎週一帖源氏物語 第十四週 澪標

 ここから第三分冊に入る。すでに読んだ箇所の記憶をたぐりながらでないと、理解が追いつかない。大事な場面を素通りすることも多くなりそうだ。

澪標巻のあらすじ

 須磨で故院の夢を見たことが気がかりだったので、源氏は京に戻ると神無月に御八講を執り行う。
 帝は心の重しが取れたようになっているが、先は長くないと考えて、二月二十余日、春宮に位を譲る。源氏は内大臣に昇進し、義父は太政大臣に、宰相の中将は権

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毎週一帖源氏物語 第十三週 明石

毎週一帖源氏物語 第十三週 明石

 このシリーズ第二週の「帚木」で、私は現代語訳で『源氏物語』を読もうとした過去の取り組みに触れて「須磨・明石くらいまで辿り着きはしたものの、帚木巻で勢いをそがれた」と書いた。しかし、実はそこまで行かずに挫折したのではないか。しばらく前から、そんな気がしていた。明石巻まで読み終えた今となっては、自分の記憶を上書きしていたことを認めざるをえない。明石の上について、私には何の印象も残っていなかったからで

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毎週一帖源氏物語 第十二週 須磨

毎週一帖源氏物語 第十二週 須磨

 小学校高学年の頃、同い年のいとこと須磨・明石方面に遊びに行ったことがある。そのいとこ一家がもともと神戸市垂水区(まさに須磨と明石のあいだ)に住んでいて、当時は横浜に引っ越していたのだが、夏休みを利用して宇治の私の家に遊びに来ていたのだ。かつて住んでいた辺りを見てみたいというので、電車を乗り継ぎ子供二人で出かけてみた。
 写真を撮ったような記憶がうっすら残っていて、探してみたらポケットアルバムが出

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毎週一帖源氏物語 第十一週 花散里

毎週一帖源氏物語 第十一週 花散里

 私は大学教員なので、あるテーマについて週に一度のペースで話すことには慣れている。「毎週一帖源氏物語」と題してnoteに連載を書くことは、講義ノートを作る作業に似ている。それでも違うところが二つある。一つは毎回の分量にばらつきがあること、もう一つは長期休暇がないことだ。
 夏休みや春休みになると、次の学期で行う授業の準備をする(今はまさにその時期だ)。さすがにすべての回の講義ノートを仕上げるには至

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毎週一帖源氏物語 第十週 賢木

毎週一帖源氏物語 第十週 賢木

 あらすじはなるべく簡潔にまとめたいのだが、その後の読書メモが唐突に映らないようにするには、どうしても一定の分量が必要になる。触れておきたいことが多いと、あらすじも長くなる。結局のところ、自分が何を読み取ったかを端的に表しているのが、あらすじの文章だ。

賢木巻のあらすじ

 六条御息所は、娘の斎宮とともに伊勢に下向するのに備えて、(嵯峨野の)野の宮で過ごす日が増えている。九月七日、源氏は野の宮を

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毎週一帖源氏物語 第九週 葵

毎週一帖源氏物語 第九週 葵

長めの前置き~天皇号と院号

 私がまだ大学院生だった頃、中央公論社(当時)から『日本の近世』というシリーズが刊行された。「天皇と将軍」と題された第二巻(1991年9月)によって、私は天皇の称号には諡号(しごう)と追号(ついごう)の二種類があること、そもそも「天皇」という称号が千年近く歴史から消えていて、その間は「院」が用いられていたこと、などを知った(辻達也執筆第一章「権威と権力の葛藤」、藤田覚

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毎週一帖源氏物語 第八週 花宴

毎週一帖源氏物語 第八週 花宴

 「花の宴」という音の響きを聞くと、どうしても「荒城の月」を連想してしまう。しかし、土井晩翠の詞に出て来る「春高楼の花の宴」と源氏物語の花宴巻とは、何の関係もなさそうだ。

花宴巻のあらすじ

 「きさらぎの二十日あまり」(49頁)に桜の宴が催され、源氏は詩作でも舞でも称賛を集める。頭中将の舞も素晴らしく、帝から御衣を下賜される。
 酔い心地の源氏が内裏・弘徽殿の細殿を歩いていると、美しい声で「朧

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