見出し画像

予定を放り投げ、今すぐ海が見たい

明るい昼下がりにのろのろと起きて大学に向かう途中で、急に海が見たいと思った。その考えは強烈にわたしを海へと駆り立てていった。
用事は別に今日じゃなくてもいい。さぼってどこか高いところにでも登ろう。わたしは海がすぐに見えるところに住んでいるから、世界で一番幸福だと思っている。


あたりを見回すと、留学生が暮らす寮の外側に取り付けられた非常階段が目に止まった。灰色で錆びついた螺旋状のあれ、登ってみたい。でも、見つかったらどうしよう。留学生や、管理人のこわいおじさんとかに
「What are you doing here?
"お前、ここでなにをしてるんだ?"」
なんて言われたら、そしたら私は
「I wanted to see the sea.
"海が見たかったの"」
とでも答えようか。
でも私にはseeとseaをうまく発音仕分ける自信はないし、なんて、たいして問題にもならないことを考えていた。
しばらく、非常階段を見上げていた。
寮から出てきた女性が自転車に乗って気持ちよさそうに歌いながら通りすぎる。美しいソプラノだ。編み込まれた髪の毛、チョコレート色の肌に映える、鮮やかなピンクと青々としたボタニカル柄のシャツ。


海を一緒に見れる友達が今いないなら、この先ずっとそんな人いないんじゃないかと思った。
午後3:30のアスファルト上に生き物の姿は私ひとりだけだった。
わたしを生き物と仮定すればの話。

この記事が参加している募集

note感想文

サポートしていただくと、わたしがおいしい食ぱんを食べることができます🍞