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レストラン“予約”はどう拡張するか? (AIが電話をかけたりとったりする世界) 【マーケティング戦略の観察】

『Googleのレストラン電話予約サービスAI「Duplex」がiOS/Androidで使えるように』(2019.04.04 TechCrunch Japan)というビジネス記事をとりあげながら、“最近のレストラン予約市場”についての分析をまとめてみます。

このGoogleのAIボット、「お店に電話をかけて店員としゃべって予約をとっちゃう」という。技術はすごい次元にはいってるが、市場にはどう受け入れられるんだろう、を考察します。

1、“ネット予約”の急成長と課題

まず、背景の話しだが、日本でもレストラン予約は“ネット予約”が一定進んだ。
食べログ、ぐるなび、ホットペッパー、一休、オープンテーブル、等々。

客としての僕はもう、できるかぎりはネットで予約しちゃいたいタイプだ。
空いてる席を事前に確認できるのは精神的に楽だし、電話して予約するのってけっこう億劫。対応が失礼だとイライラするし、満席だとなぜか傷つくし。

だから、全部の飲食店やレストランがネット予約化されてしまえば一番いいんだけど、たぶんそれにはまだ時間がかかりそう
原因はぱっと考えただけでも、4つほど思い浮かぶ。(特に中小飲食店をイメージして)

電話予約方式での運用にお店側が慣れ親しんでおり、よほど送客に困ってない限りは店側にわざわざ無理して変えるまでの理由がない。

⑵ネット予約業者との契約料が見合わない(飲食店の利益からすると)。

⑶すべての予約をネットに一本化はできず、電話や贔屓客による予約、それに当日の飛び込み客との「空席管理の併用」をするのが複雑。(小規模店になるとITリテラシーも高くない)

客側も、電話のほうが「安心」「手っ取り早い」と思っている層が(年配層中心に)まだ多い。

2、“電話予約のネット化”という変化球の策

もちろんネット予約事業者側も、いろいろな戦略は打っていて、予約台帳管理システムとセットで販売契約していたり、送客数に応じたぶんだけの課金制度を提供したり、もっというとレジシステムや決済サービスとの合わせ技で提案していたり、いかに飲食店に導入してもらうかは工夫を重ねている。

それでも進まないネット予約への変化球の策が、“電話予約のネット化”だ
電話予約という習慣が変えられないなら、それそのままをネット化(デジタル化)しちゃえという発想。

前述したGoogleの新サービス『電話予約サービスAI Duplex』もこれに当たる。
レストランの予約がしたいユーザー側は、いきたいレストランの名前と日時を、Googleアシスタントに話しかけたり、アプリ入力をするだけ。すると、Googleの『AIボット』が代わりにレストランに電話をかけ、店の予約をとってしまうのである。

3、日本発ベンチャー、電話予約ならペコッターアプリ

実は日本には先行的にこの“電話予約のネット化”にチャレンジしているアプリがずいぶん前からある、それが『ペコッター』だ。

チャットのように、行きたい店と日時と人数を送信しておくと、ペコッターのマスコットキャラクター“はらぺこ君”が代わりに店に電話をしてくれて予約をとってくれるのである。

このアプリは、数年前の記事によると、バックグラウンド運用は“人力での電話”。
コールセンター運営みたいなもので、アプリに申請があった順に、次々コールセンターがお店に電話をかけていく。返事はアプリ上のチャットで返すので、アプリが予約をとってくれているようにユーザーは体感する。これが“電話予約のネット化”である。
最近は、LINEアプリから使えるようになったり、Slackの機能に加わったり、独自アプリだけでなく入り口の横展開を広げている。
(マーケジンにペコッター運営会社社長インタビューでビジネスモデル解剖の記事があったのでリンクを載せておく)


ただ、運用方法が“人力の電話”だと、どうしても運用人員経費が重くかかるだろう。Googleの前述の記事は、この部分を“AIボットに代替して運用する”というオペレーションモデル(ビジネスモデル)と考えられる。

4、話してる相手が実はAIボットだったら? 倫理問題の浮上

今回のGoogleAIボット「Duplex」のリリース情報は、アメリカ国内のみだ。
先進的なアメリカでも、AIボットについて“倫理的問題”が浮上したという。
前述の記事から引用する。

昨年5月のGoogle I/Oデベロッパー・カンファレンスで披露された最初のデモで、Duplexのシステムがあまり人間そっくりにしゃべったために、AIボットはどこまで人間のように振る舞うべきか、相手に正体明かすべきかについて倫理的問題が直ちに持ち上がった 。デモがニセモノではないかと疑った人たちもいた。

この問題を受けて、リリース時にふたつの改善がされているという。

・通話のはじめにメッセージを追加してGoogleからの電話であることを伝え、なぜかかってきたかを説明するようにした。
・レストランなどの店舗がこの種の自動発信を受け取るかどうかを選択(オプトアウト)できるようにした。

まだ最先端技術といえる。
文化定着するには時間がかかる。
とはいえ、テクノロジーは利便性が高ければ、驚くほどのスピードで生活に浸透をはじめる。スマートフォンがそうだったし、LINEもそう。スマートスピーカーもそう。アメリカの先行導入の動向に注目しよう。

5、逆に店側にかかってくる電話をすべて引き受ける会社も

あとはオマケだが、逆に、「店舗にかかってくる電話を、店舗に代わってまるごと引き受ける業者」もいるそうだ。これはでもビジネスモデルはただのコールセンターだ。
ユーザー視点でいうと、家電とかの「お問い合わせセンター」に電話をするとコールセンター組織に着電している印象はあるが、
レストランに電話をした時にはお店に繋がる感覚があるので考えてもなかったが。

が、まあ、普通に店側からしたらすべての予約作業をアウトソーシングできて席が埋まるならニーズはあるだろうな。ただ、コールセンター側が、小規模店の少数電話を受けるのは儲からなさそうだからあんまり進まないのだろうな。

6、(まとめ)予約の裏には必ずデータ活用が付随する

最後に触れておくと、
これまでの「飲食店自身による電話予約方法」だと、来店者がどこの誰なのかまったくつかめない。顔なじみになってひいき客にできるかだけが接点づくりだったといえる。
これがネット予約を中心とした“デジタル予約化”が進むと、顧客のデータが見えてくる。
ほかにどういう店にいってる人なのか、どれくらいの頻度で来店予約をくれているのか、年齢は、職場はどこにあるのか、ネット予約業者ごとによって保有する情報は違えど、なんらかの顧客情報付加価値をレストランに提供してくれることになるだろう。
顧客データが詳細化されると“営業活動の効率はあがる”はずである。店づくりのアレンジやメニューづくりにも変化を生むかもしれない。
そういうデータ活用の実績が高まれば高まるほど、“レストラン予約のデジタル化”は店舗側からも導入する目的が高まるし、そしてユーザー側の利便性も高まっていくだろう。(おわり)

※他にもビジネス分析の記事を書いてます、こちら↓


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