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医療情報

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記事一覧

【昭和初期の医療事情①】病魔に襲われると、仕事を失い路頭に迷う

【昭和初期の医療事情①】病魔に襲われると、仕事を失い路頭に迷う

今年の春、祖母がこの世を去った。

両祖父は私が物心つく前に他界しており、もう一人の祖母は学生時代に他界してしまったので、大人になっても元気に生き続けてくれた唯一のおばあちゃんだった。

私の中の「子供の自分」は悲しくてむせび泣いている一方で、「親(大人)の自分」は、世代交代の波がもう足元まで押し寄せつつあることに、静かな覚悟を固める。そんな葬儀だった。

祖母からもらったものの一つに、祖母の父(

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【昭和初期の医療事情②】『医は仁術なり』なんて、もはや昔日の美風

【昭和初期の医療事情②】『医は仁術なり』なんて、もはや昔日の美風

祖母が遺してくれた曽祖父の論文(昭和10年発表)の現代語訳。第2章は、患者と医師の信頼関係が崩れ、互いに疑い腹を探り合うようになってしまった状況について書いている。

第2章 現代の医相最近の開業医の悩みは、薬の購入費を納めない患者が多いことだ。どの地域に行っても未納者が3~4割はいる。

こういった未納者には、社会の退廃に伴って増加した悪徳な人間もいるのだが、一方で生活に追われる無産者(資本主義

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【寄り道】梶井基次郎『のんきな患者』に見る、昭和の結核患者の実態

【寄り道】梶井基次郎『のんきな患者』に見る、昭和の結核患者の実態

曽祖父の論文と同時期に発表された小説で『のんきな患者』という梶井基次郎の小説がある。

吉田という主人公が重い肺結核を患い、療養生活を送る中で遭遇する様々な出来事を回想交じりに綴ったもの。貧しいため、これといった治療を受けることもなく、迷信の療法(メダカ5匹飲む、鼠の黒焼きなどを飲むetc)に、すがって生きていくしかない庶民の物悲しい姿が淡々と描かれている。死と隣り合わせに生きていながら、一見〈の

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【昭和初期の医療事情③】国の貧相な衛生対策に一言モノ申したい

【昭和初期の医療事情③】国の貧相な衛生対策に一言モノ申したい

祖母が遺してくれた曽祖父の論文(昭和10年発表)の現代語訳。

第3章は、「結核」「トラホーム」「らい病」などの感染症が大流行し、早急な対策を求められているにもかかわらず、貧相すぎる国の衛生対策に苛立ちを隠せない筆者(曾祖父)。そもそも医業を個人医師の営利事業に任せ、効果のない衛生対策に税金を浪費していることが誤り。医業は公営化すべき!と主張する。

第4章は、医業を一部公営化するにあたっての全体

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【昭和初期の医療事情④】風月堂の隣の駄菓子屋を彷彿させる小医院

【昭和初期の医療事情④】風月堂の隣の駄菓子屋を彷彿させる小医院

祖母が遺してくれた曽祖父の論文(昭和10年発表)の現代語訳。

第5章は、医業公営化を実現するにあたっての大まかな手順案と手法案を述べている。

「本案のような類は、地方自治団体の自由意志により実現しうる性質のもの」であって「政府はただ一定の方針を定め、この助成に努めれば、自然に発達し得るもの」と本質を突いているのが興味深い。

第6章は、反対勢力となりうる都市在住医師に向けたメッセージ(懐柔対策

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【昭和初期の医療事情⑤】大学昇格熱が大流行、学生はこぞって感染

【昭和初期の医療事情⑤】大学昇格熱が大流行、学生はこぞって感染

祖母が遺してくれた曽祖父の論文(昭和10年発表)の現代語訳。

第8章は、知育に偏った教育を行ってきたがために学者ばかりが輩出され、実践的な医師が少なくなった現状に苦言を呈している。「学者だけが社会の重要人物ではない。社会は学者の充実より良医の充実を望んでいる」と訴え、世の中のニーズに応え得る医育カリキュラム案を挙げている。

第8章 医育について現在の医育は未製品教育である。さらに精製を加えなけ

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【最終章:昭和初期の医療事情⑥】曾祖父と私を繋ぐもの

【最終章:昭和初期の医療事情⑥】曾祖父と私を繋ぐもの

祖母が遺してくれた曽祖父の論文(昭和10年発表)の現代語訳。今回が最終章。最後の機会なので、曽祖父の話を少し…。

実は祖母から伝え聞いていた曽祖父の特徴は、たったの3つだった。

①開業医だった。②身体があまり丈夫でなくよく臥せっていた。③かなりの読書家。ジャンルは多岐に渡り天文学の本なども読んでいた。

なので、私が子供の頃から抱いていた曽祖父のイメージは、和室に臥せっている病弱な老人。けれど

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