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読んだくれ雑記帖(仮)

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本を読むことでふくらませた思考や妄想をまとめたエッセイ集。その本を読んだ人にしかわからない内輪(?)ネタも含みます。 ※記事が増えるにつれて価格を上げていくので、早めの購入がお… もっと読む
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記事一覧

自分を「治す」必要なんてない

『コンビニ人間』(村田沙耶香・著)の主人公は「ふつう」から逸脱した部分をたくさん持っている。話の中で、周りの人間(特に親兄弟)がそれを「治そう」とするのだけど、周りだけでなく本人まで「治らなくては」と感じていることが印象的だった。
 わたしはそこから、かつて「自分は発達障害なのではないか」と考えたときに突き当たった違和感を思い出した。

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常に自由であるためには、臆病な自分を打ち破り続けなくてはならない

 自分の中で自由な人は常にストッパーが外れた状態なんだと思っていた。だから、自分も一度ストッパーを外してしまえば、その後ずっと自由でいられるのだと。

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誰にでも伝わる文、ではなくて。

 これまで、誰にでも伝わる文を意識して書いてきた。書き手として、そうでないといけないと思い込んでいたのだ。

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食生活マイノリティ

 村田沙耶香さんの『コンビニ人間』の中にこんなセリフが登場する。

「私は食材に火を通して食べます。特に味は必要ないのですが、塩分が欲しくなると醤油をかけます」

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自分を「正常」にはめこもうとした先にある不気味な世界

『消滅世界』(村田沙耶香・著)という小説の中に、実験都市というものが出てくる。そこでは、家族という概念を取っ払って、住民全員がみんなの「おかあさん」「子供ちゃん」として存在する「楽園(エデン)システム」が採用されている。

 人工授精によって生まれた子供ちゃんは、「センター」に預けられて、『それぞれの脳の発達に合わせ、また心理学的観点からも十分に配慮して、個性に合わせたカリキュラム』で教育される。

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無知から広がる無限世界

 穂村弘さんのエッセイ『にょにょっ記』を読んで、知識を通さない視点から世界を見るおもしろさを知る。

 たとえば、この本の中に出てくる「ユミコちゃん」の話。彼女は毎日給食のパンを持ち帰って、飼っている金魚に与えていたらしい。
 すると、金魚は仔猫ほどのサイズにまで成長したそうな。
 そこからユミコちゃんは「給食には大きくなる薬が入っている」と導き出す。「だから、みんな大人になるんだよ」と。

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自分の本質を表現するということ

自分の本質を表現するということ

 偉人たちの恋人や伴侶について書かれた『天才に尽くした女たち』という本の中に、ゲーテが恋人のことを語るこんな一文が出てくる。

私としては、彼女のことがまったく気に入っているのであり、彼女は自分の本質のどれもあきらめようとせず、かつての彼女のままであり続けている。

 この言葉と出会って以来、私は、『他者と他者との間に存在しながら、自分自身を損なわない生き方』に憧れ続けていたような気がする。

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本能的な生き方、たとえばそれは「パンと果物だけで過ごす日々」

本能的な生き方、たとえばそれは「パンと果物だけで過ごす日々」

 長年の悩みだった持病を克服するために始めた食事制限は、いつのまにか目的がアンチエイジングにすり替わり、際限がなくなってしまった。今のわたしの目には、パンもパスタもお菓子も毒にしか見えない。ときどき小量を口にすることはあるが、食べたあとは決まって並ならない恐怖心が襲ってきた。

 ときどき、自らをこの厳格な管理下に置く理由がわからなくなる。身体の健康と引き換えに、何か重大なものを失い続けている気が

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