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ショートショート

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#ショートショート

ショートショート:動く写真

ショートショート:動く写真

その写真は動いていた
誰がなんと言おうと動いていた
動画のようだったので
誰も写真だと思わなかった

ただひとりだけ
写真が動いてると言った少女がいたが
何を言っていると笑って誰も相手にしなかった

壁に掛けられ
額縁に入れられ
飾られているのに
誰もおかしいと思わなかった

もしかして
そういった仕掛けがあるのだろうか
映像が流れるのは不思議ではない
壁にかけるテレビがあるくらいなのだ
額縁に入

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ショートショート:縁切寺に詣でても

ショートショート:縁切寺に詣でても

終わるはずの恋だった
燃え上がるような炎は今はない
もう終わったと言い聞かせて
くすぶる心をなだめるために縁切寺に詣でた

どうせ終わるなら
縁もゆかりもなくなる方がいい

仕事も捨てよう
住んでいた場所も捨てよう
あのひととのなじみの場所も
ぜんぶ捨てよう

そうしてきれいさっぱりしたら
次は縁結びの神様の元へ行けばいい

嫌いじゃない
嫌いじゃない
でももうこれ以上好きになりたくない

これ以

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【ショートショート】闇は吸う

漆黒の闇の中
どちらを向いても黒い
助けを呼ぶ声はとけて消える
どこに行こうか
どこへ行けるのか
さっぱりわからなかった

どうすれば
どうすれば、ここを出られる?

開かずの間の中にいるようだ
自分も外にいる誰かも開けられない
密室ともいえる場所は
あまりに黒すぎて広いのか狭いのかもわからない

どうやって入ったのか
いつから入ったのか
とんと覚えていなかった

待っていれば誰かが助けてくれるの

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おとーた!っぽい!

おとーた!っぽい!

「おとーた!っぽい!っぽい!」

顔を真っ赤にさせた息子が唾を飛ばさんばかりに叫んでる。息子が指さす先には赤いゴミ箱が置いてあった。息子が寝る時も抱きしめて離さない、赤い車と同じ絵が描いてある。

俺は困惑して妻を見た。妻も息子が何を言いたいのか分からないようだ。天井に視線を向けてあれかな、これかなと考えている。その目の動きは振り子時計の振り子のように右に左にさまよう。

朝はとても忙しい。その朝

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石橋を叩いても渡れないならどうしようか

石橋を叩いても渡れないならどうしようか

石橋の前で一人の男が鉄の金づちを持ち、とんとんとんとん叩いている。かれこれ2時間ほどだろうか。石橋のはるか下には川があるが、流れが早く落ちれば泳ぐことも大変そうだ。それよりも近くの岩に頭をぶつけて一瞬でお陀仏かもしれない。

丈夫そうな石橋ができたのは30年ほど近く前。劣化しているとまでは言わないが、ヒビが所々に見えてどうにも不安で仕方がない。向かい側に行くにはこの石橋を渡るしか方法はなく、渡りた

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【ショートショート】近くて遠い

【ショートショート】近くて遠い

いつもひとり。いつまでひとり?恋人つくらないの?

「気が向いたらね」

いつなら気が向くの?

「一生向かないかもね」

じゃあ気が向くまでそばにいて良い?

「あなた酔狂ね」

呆れたような顔で振り向いて面倒くさそうに笑った。

そうかもね

「勝手にしたら」

しばらく黙っていたらうつむいて、しくしく泣きだした。去年の今日、兄貴は死んだ。兄貴の命日。兄貴の恋人。俺の憧れの人。背をなでてやれな

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#幸せをテーマに書いてみよう~休日の休息~

#幸せをテーマに書いてみよう~休日の休息~

「どーぞ」

「ありがとう」

「どーぞ」

「ありがとう」

四階建てアパートの二階、ベランダのある八畳間にはお昼を過ぎたあたりから陽があたるようになる。折り畳み式のちゃぶ台を置き、食事をしたり、ちょっとした作業をすることもあった。今はよちよち歩きの娘、千里と一緒に過ごしている。妻の浩美は久しぶりに友達とお茶をするのだと出かけてしまっていた。

中西健也は区役所の職員として日々働いている。つかの

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『 #同じテーマで小説を書こう ~人守る声~ 』

『 #同じテーマで小説を書こう ~人守る声~ 』

ひゅーひゅーという声がする。いや、声ではなくて音だろう。何十年も前から建っている、古い家屋だから隙間風が吹くのは仕方なかった。暴風雨の中、明かりもない山道をさ迷い歩くよりはましだった。昼間は歩いていれば暑いぐらいの気候だったが、日が落ちるにつれて気温がどんどん下がった。

秋の日はつるべ落としと言うが、茜色の空が浮かび上がった後は凍えそうな冷たい空気に身を震わせた。山奥の秋は多くの実りと豊かさを渡

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少し先の未来

少し先の未来

「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」

大通りから離れた場所に洒落た一軒のブティックがある。町は大きく変わったようには思えないものの、小さな変化が積み重なり、公共交通機関はAIが安全に取り仕切っていた。

普段は家から一歩も出ずに買い物をしていた美恵子は、店舗まで足を運べばもらえるというスカーフを目当てにやって来た。

「本当はいつも通り、家で買い物したかったんだけど」

「大変申し訳

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ピクルスはいらないよ

ピクルスはいらないよ

「先輩の初めてのデートってどうだったんですか?」

肩までのふわっふわの明るい茶髪を揺らして笑う。眼鏡の奥の黒い瞳が好奇心いっぱいに光っていた。

「私の?初めての?」

そうでーっすとイタズラを企むような顔する後輩に、呆れてため息をついた。5階建てのマンションの一室、日当たりの良い角部屋に住めたことは幸運だった。2階だけど上の階に住む人も下の階に住む人も、隣の人も穏やかな性格だ。小さな子どもを抱

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