わたしたち人間は本来自由だから、
好きなものを身に着け、好きなものを食べ、好きなところに住む。
好きなように選択し、好かないものを選択しない。

わたしたちは本来自由だから、
善良であると思うところを信じ、心地よいと感じる営みを生業として生きることができる。そしてそれは誰にも干渉するところを許さない個人の根幹をなす価値観となって、わたしという個人を造形していく。
誰もわたしの自由を脅かすことはできない。誰もわたしの自由を奪うことは許されない。最大公約数的なルールに従ったうえでなら、わたしたちは互いに干渉することなく自由に生きることが、できているとされる。

しかし野球のボールはバット、サッカーボールはスパイク、ホッケーパックはスティック、テニスボールはラケットで打たなくてはならないように、ルールの上で成り立つゲームには何事にも「やり方」が存在する。

年長者は立てる、上位の指示に従う、お客様には失礼のない態度で接する。印鑑はここに捺して毎月の報告はメールでこの宛先に何時まで次の会議はこの場所でロゴは必ずこの色とサイズで。
これを運ぶこの服装でこの荷物をここで受け取ってこう運んで気温は何度で固定してインターホンの前ではこう挨拶してこういわれたらこう返して。
ぶつけるな汚すな余計なことは言うなこう扱えこれはするな考えて動けどうすべきかを考えて動けわかっているのか何を求められているのかとにかく考えて動け。

そのルールの間を縫って自由に生きる。
誰かの決めたルールを守りながら余力を振り絞って自由に生きられるスペースを探すことができる。その上で幸せを探したければお好きにどうぞ。あなたは自由なんだから。それがあなたの権利なんだから。

でもさ。

でも、もしもだよ？
自由に生きるのって難しくないかい？疲れてしまわないかい？

差し出してしまいたくないかい？

もし本当に疲れてしまって幸せを自由に考えたり行動するのが辛いなら、
考えることをやめてルールだけを守りなさい。
そうすればあなたは守ってもらえるんだから。そうすればすべて導いてくれるから。そうすればあなたはもう悩まなくていいんだから。

私の成そうとしている事業には人手がいるんだ。
私の幸せを実現するために、理想の世界を造るために。それは多くの人を、あなた自身を幸せにするためでもあるんだ。
だから私は計算しなくてはいけない。だからあなたたちを管理しなくてはいけない。あなたがいつまでに完成させられるか。あなたたちが均一に仕上げるためにどう導けばいいか。
機械は優秀だけれども融通は利かないし温かみもない。
あなたが必要なんだ。私のために考えて動いてくれるあなたが必要なんだ。

腐臭を放つ有機物の山に、すべてを手に入れた「男」がひとり笑っている。
かつて国と呼ばれたその場所で自由に生きた。
多くの者たちが彼を慕い、幸せの中で死んでいった。