Wind-Up Bird Books (兵庫県豊岡市の本屋的なるもの)

兵庫県豊岡市の古民家の蔵で本屋的なことをしています。主に海外文学・村上春樹作品など人文…

Wind-Up Bird Books (兵庫県豊岡市の本屋的なるもの)

兵庫県豊岡市の古民家の蔵で本屋的なことをしています。主に海外文学・村上春樹作品など人文系の本を置いています。兵庫県豊岡市但東町矢根1076(営業時間13:00~18:00)

最近の記事

『アメリカン・スクール』小島信夫 (新潮文庫)

小島信夫は、戦後に出てきた吉行淳之介、遠藤周作、安岡章太郎らと一緒に「第三の新人」と呼ばれた作家の一人です。 表題作の『アメリカン・スクール』で、芥川賞を受賞しました。 この小説以外に、デビュー作の『小銃』や村上春樹さんが『若い読者のための短編小説案内』で紹介している『馬』など、8つの小説が収録されています。小島信夫の初期の短編作品を楽しむにはとてもいい1冊です。 村上さんが『アメリカン・スクール』は手放すことができない小説の1つと言っているように、面白い短編小説でした。こ

    • 『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ

      ヘルマン・ヘッセは、20世紀ドイツの作家です。 『車輪の下』は彼の代表作品の1つになります。この小説は、ヘッセ自身の若いときの経験が反映されている、自伝的なものです。 村上春樹さんの『ノルウェイの森』で、主人公のワタナベくんが友人の緑の家で夜中に『車輪の下』を読んでいて、この作品の印象が残っていますね。 主人公のハンスは、勉学に励んで神学校へと合格します。入学後も勉強に打ち込みますが、友人ハイルナーとの出会いや神学校での生活が彼の人生を大きく変えていきます。 ハンスの人

      • 『さようならウサギ』ジョン・アップダイク

        20世紀後半のアメリカを代表する作家の一人であるアップダイク。 『さようならウサギ』は、彼がウサギこと、ハリー・アームストロングを主人公として描いてきたウサギ四部作の最終作品です。 本作では、1980年代後半のアメリカを背景に、1980年代後半のアメリカを背景に、ウサギは50代になって孫が生まれています。ただ、心臓の持病を抱えながら社長業を引退して余暇を過ごしています。 本作も含めて、ウサギ四部作は、アメリカという国の1950-90年の状況とそんな中で過ごす中産階級の人々

        • 『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ

          マヌエル・プイグは20世紀のアルゼンチンの作家です。 彼の名前を知ったのは、実は最近のこと。 10-15年前の村上春樹さんのロングインタビューをたまたま眺めていたら、村上さんがプイグの小説を絶賛されていたのでした。 プイグは、若い頃にはもともと映画製作を目指していました。その後、小説家への道を歩み始めたため、その経験が彼の小説にも大きく影響を与えているようです。 彼の代表作の1つである『蜘蛛女のキス』も、映画の脚本を読んでいるような感じでした。文章の99%が会話(というか

        『アメリカン・スクール』小島信夫 (新潮文庫)

          『ピアノ・レッスン』アリス・マンロー

          アリス・マンローは、カナダの小説家です。 数多くの短編小説を書いてきて、「短編小説の女王」と評されています。 世界的にも影響力のある作家でノーベル文学賞も受賞されましたが、2013年作家としては引退しました。 『ピアノ・レッスン』は、アリス・マンローが初めて書いた短編集です。 15の短編ストーリーが収録されています。 田舎で生まれ育った彼女は、成長して結婚・出産・母の死・子どもたちの子育て・豪邸の大変な家事といった経験をしてきました。そうした中で書かれたのがこの1冊です。そ

          『ピアノ・レッスン』アリス・マンロー

          『夜想曲集』カズオ・イシグロ

          カズオ・イシグロは、世界的にも評価が高いイギリスの現代作家です。 僕もとても好きな海外作家の1人です。 彼の作品をすべてはまだ読めていませんが、『わたしを離さないで』『クララとお日さま』など僕が読んできた作品は、毎回作風が変わるにもかかわらず、どれも心にくるものがあります。また、どれも非常にスラスラと読みやすいですね。 村上春樹さんも、カズオ・イシグロの小説は出版されるたびにすぐ手に取るぐらい好きらしいです。 『夜想曲集』は、現時点でカズオ・イシグロが書いた唯一の短編小説

          『われらの時代 男だけの世界』ヘミングウェイ

          ヘミングウェイは、20世紀のアメリカの偉大な作家です。 代表作の『日はまた昇る』や『武器よさらば』を読んだことはあるのですが、短編作品を集めた本作は初めて手に取りました。ヘミングウェイの初期の作品の1つになります。 村上春樹さんの短編集『女のいない男たち』の1冊では、タイトルも似ていることから『われらの時代 男だけの世界』について言及されています。 この本は、31の短編小説が収録されていますが、同じ主人公が何度も登場したりします。特に、ニック・キャラウェイという青年を主人

          『われらの時代 男だけの世界』ヘミングウェイ

          2024/4から本格的に本屋(的なるもの)を始めます

          4月から毎月6-8日間ほど本屋(的なるもの)をします。 場所は、兵庫県豊岡市の但東町にある大石家住宅内の蔵の中です。 大石家住宅は、約150年前に建てられた庄屋さんのお屋敷です。国登録有形文化財にも指定されています。 ありがたいご縁で、この蔵をお借りでき、2年ほど前からすきま時間で蔵の片付けや掃除、工事など準備してました。 改めてですが、店名は「Wind-up bird」です。由来は、またどこかのタイミングでゆっくり書けたらなあと思います。店名を邦訳したときにどこから名

          2024/4から本格的に本屋(的なるもの)を始めます

          『河童』芥川龍之介

          夏目漱石、谷崎潤一郎、そして芥川龍之介。村上春樹さんが明治の小説家のなかでも特に評価されているのが、この3人です。 表題作の『河童』や同じ1冊に収録されている『歯車』が、『ウィズ・ザ・ビートルズ』という村上さんの短編小説で、話題になります。『河童』や『歯車』含めて8つの短編小説が収録されていますが、これらの作品は、芥川が服毒自殺で命を絶つ直前に書かれました。そのため、全体的にこの1冊は死の暗さようなものを感じさせるので、少し読むのがしんどいところもあるかもしれません。 僕

          『かみそりの刃』サマセット・モーム

          イギリスの小説家サマセット・モーム。『人間の絆』や『月と六ペンス』が彼の作品として有名です。モームのことは以前から知っていたものの、僕はまだこれらの代表作は読んだことありませんでした。 『かみそりの刃』を知ったきっかけは、村上作品の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の主人公が、この本を絶賛していたことです。村上さん自身も『本当の翻訳の話をしよう』でこの作品をすごくいいと言っていたのもあり、僕も手に取ることになりました。一言で言うと、ほんとにいい長編小説でした。ま

          『かみそりの刃』サマセット・モーム

          『大聖堂』レイモンド・カーヴァ―

          『大聖堂』はアメリカの短編作家レイモンド・カーヴァ―の代表作です。 僕個人的にも、カーヴァ―の作品の中で1番好きな1冊をあげるとするなら、やはり『大聖堂』を選びますね。 この本には12の短編小説が収録されていますが、そのなかでも表題作の『大聖堂』と『ささやかだけれど、役に立つことは』は特に好きです。すごくいい短編小説です。 他人の痛みや苦しみを理解するのは簡単ではないものの、人は努めればそれを理解することができるんじゃないのかなと思わせてくれる。僕にとってはそんな小説です。

          『大聖堂』レイモンド・カーヴァ―

          誰かを好きになった記憶というのは、長い歳月にわたって人の心をじわじわと温めてくれる(村上春樹)

          最近フランスの小説家フローベールの恋愛作品を読み続けたこともあり、村上さんのこの言葉が改めてしみじみ心にきています。 『1Q84』や短編の『品川猿の告白』でも似たようなことを言われていましたね。

          誰かを好きになった記憶というのは、長い歳月にわたって人の心をじわじわと温めてくれる(村上春樹)

          『感情教育』フローベール

          19世紀のフランスの作家フローベールの代表作です。 村上作品では『風の歌を聴け』や最新作の『街とその不確かな壁』で主人公が『感情教育』を読んでいるシーンがあります。 フローベールのもう一つの代表作『ボヴァリー夫人』はいかにも不倫小説ではあるのですが、『感情教育』では不倫を含めた主人公フレデリックの恋愛に加えて、彼の成長ぶり(良くも悪くも)や19世紀半ばのフランス政治などさまざまな要素が詰め込まれています。この詰め込んだ感じが、この小説の良さなのかなと思います。 個人的には、

          『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』村上春樹

          ウィスキーの名産地であるスコットランドとアイルランドを旅行された、村上さんのエッセイです。タイトルの通り、ほとんどウィスキーについて語られいる本です。ウィスキーを、願うことならスコットランド・アイルランドで飲みたくなります。 久しぶりにこの本を読みましたが、旅先でのおいしいものを味わうために旅行したくもなりましたね。そうした気持ちを取り戻すのにいい、本なのかなと個人的に思います。 このエッセイで特に印象的だったのは、スコットランドのボウモア蒸溜所でウィスキーをつくる男性の

          『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』村上春樹

          アメリカの3大文学賞を獲得した『金持になったウサギ』ジョン・アップダイク

          アップダイクによるウサギ4部作の3作目です。 今までの2作と大きく異なる状況は、タイトルの通り、40代後半になったウサギは金持ちになったということです。妻ジャニスの亡き父が経営していた自動車販売店の社長になりました。そのため、過去2作のウサギとは異なり、金銭的に余裕があるのか、精神的にもゆとりがあるように感じられます。『金持になったウサギ』は、ピューリッツァー賞、全米図書賞、全米批評家協会賞 の全米三大文学賞をすべて獲得した作品です。 前作「帰ってきたウサギ」では、ベトナム

          アメリカの3大文学賞を獲得した『金持になったウサギ』ジョン・アップダイク

          『西風号の遭難』クリス・ヴァン・オールズバーグ(絵と文)/村上春樹(訳)

          クリス・ヴァン・オールズバーグはアメリカの絵本作家です。彼の絵本の多くを、村上さんが翻訳されています。 『西風号の遭難』は、1人の少年が乗ったヨットが遭難してしまう物語です。 オールズバーグの絵は素敵で、惹かれるところが大きいです。「この本の中心はあくまで絵であるのであって、ストーリーはひとつひとつの絵を導くためのガイドラインに過ぎない。極端に言ってしまえば、字が一字もなくてもこの絵本は成立してしまうのである」という村上さんの言葉に共感しますね。

          『西風号の遭難』クリス・ヴァン・オールズバーグ(絵と文)/村上春樹(訳)