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『無名』にみる、”映画の自由”の終わりの始まり

楽しみにしていたトニー・レオン氏最新作は中国製スパイ・ノワール。 純粋なエンタテイメントとはちょっといえない赤に染まった観ある、かなしい出来映え。 このままいず…

耳
16時間前
1

『辰巳』にみる、引き留める心

これ、すごくよかった。 三十歳半ばにして、よくぞこれほど昭和チックな顔面のヤクザ役をキャスティングしてきたものだと、感心しきりの小路紘史監督、長編第2作。 くそ…

耳
15時間前

豪華絢爛『プロスペーローの本』にみる、ピーター・グリーナウェイの偏執

 ”ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ”と題したリバイバル上映が、ここ札幌にもやってきた。 どれも未見の4作品のなか、ずっと気になっていた『ZOO』観られ…

耳
2週間前

『ノマドランド』にみる、現代(いま)を生きる答え

この感慨はなにかに似ている。 ずいぶん前に観て動揺を覚えた『イントゥ・ザ・ワイルド』だ。ジョン・クラカワーの原作『荒野へ』もすばらしかった。 原作はジェシカ・ブ…

耳
2週間前

整形した殺人鬼が、『夜歩く』

 初めて読むディクスン・カー(1906~1977)で、記念すべき処女作。 『It Walks by Night』1930年刊行。 翻訳によって随分印象の違うらしい本作。最新のものでも読みにく…

耳
2週間前

『アネット』にみる、滾り

鬼才レオス・カラックス作品をこれほどすんなり好きとおもえたことに驚く。 もちろん主演のアダム・ドライヴァーとマリオン・コティヤールの魅力が大きく、初期のあまりに…

耳
3週間前

ミステリ作家による本のススメ、『米澤屋書店』

ミステリー作家・米澤穂信氏が様々な媒体に書きためてきた書評やお勧め本、対談を一冊にまとめた、デビュー20周年記念エッセイ。 ミステリ好きでなく疎いのになんとなく手…

耳
3週間前
12

ウラジーミル・ソローキン『テルリア』リプス!

 『青い脂』の凄まじい読書体験が忘れられないウラジーミル・ソローキンの描く、”ユートピア的多島海(アーキペラゴ)”と化した近未来ロシア。 なんというイマジネーシ…

耳
3週間前
3

『オッペンハイマー』にみる、世界を変えた核兵器のコワサ

クリストファー・ノーラン監督最新作は“原爆の父”、天才理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの実像に迫る伝記ドラマ。 3時間と長いが1ミリも退屈させない演出の妙と…

耳
1か月前
2

『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』にみる、南仏の風と人の優しさ

冒頭、いきなりの姥捨てに笑ゲキ。 一文無しのおばあちゃん(シュザンヌ・フロン)を迷わず助けたのはロバンソン(ヴァンサン・ランドン)。彼は幼いころ母親に捨てられて…

耳
1か月前
1

『BLUE GIANT』にみる、ジャズ魂

石塚真一氏の人気コミックスをアニメ映画化。 世界一のジャズプレイヤーを目指す主人公・大(山田裕貴)が、音楽への情熱を力に、仲間とともに駆け抜けた熱き青春の日々を…

耳
1か月前
2

さようなら石川、こんにちは愛知。

 娘氏の学位授与式を終えて、石川から愛知へ。 鉄道でも飛行機でもない、乗り捨てレンタカーにて。 途中、白川郷を散策、寄り道しながら、一路南へ。 富山から岐阜へ入る…

耳
1か月前
2

作家にしておくのにはもったいない、イケオジ島田雅彦著『君が壊れてしまう前に』

いつか教育テレビで見かけた島田雅彦氏が、作家にしておくにはもったいないほどの私的イケオジすぎて、著作を手に取ったのはかれこれ7年も前の話。 島田作品はぜんぶいい。…

耳
1か月前
4

『ヴァチカンのエクソシスト』にみる、職業としての悪魔祓い師

長年にわたってヴァチカンの正式な悪魔祓い師=エクソシストとして活躍した、実在の神父ガブリエーレ・アモルトの自伝を映画化。 1987年7月。ローマ教皇から直接依頼を受…

耳
1か月前
2

ゴシック小説の誕生『オトラント城奇譚』ウォルポール

 1764年、ホレス・ウォルポール(1717~1797)によってイギリスで発表されたゴシック小説の始祖。 ある日、著者の見た夢の世界を基に描かれた『オトラント城奇譚』解説に…

耳
1か月前
2

『夢みるように眠りたい』にみる、林監督デビューの伝説

私立探偵、魚塚甚(佐野史郎)のもとに、月島桜(深水藤子)と名のる老姿から、誘拐された娘・桔梗を探してほしいとの依頼がくる。 調査を進める魚塚は、依頼主・月島桜が…

耳
1か月前
3
『無名』にみる、”映画の自由”の終わりの始まり

『無名』にみる、”映画の自由”の終わりの始まり

楽しみにしていたトニー・レオン氏最新作は中国製スパイ・ノワール。

純粋なエンタテイメントとはちょっといえない赤に染まった観ある、かなしい出来映え。

このままいずれ香港映画界は中国に飲み込まれてしまうのだろう。それはなんて寂しいことだろう。

中国共産党、国民党、日本軍の名もなきスパイたちが己の信念をかけ敵味方なく欺き合う姿を描く。

日本からは森博之氏が上海駐在の日本将校役を演じる。”満州に夢

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『辰巳』にみる、引き留める心

『辰巳』にみる、引き留める心

これ、すごくよかった。

三十歳半ばにして、よくぞこれほど昭和チックな顔面のヤクザ役をキャスティングしてきたものだと、感心しきりの小路紘史監督、長編第2作。

くそ生意気な葵におなじようにイラつきながら、真っすぐな彼女をどうしても放っておけなくなる辰巳の気持ちが痛いほど伝わる。

それは葵役の森田想さんが魅力的だからにほかならない。

何度もコワイ男たちに喧嘩を吹っかけては唾をひっかけるのだが、持

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豪華絢爛『プロスペーローの本』にみる、ピーター・グリーナウェイの偏執

豪華絢爛『プロスペーローの本』にみる、ピーター・グリーナウェイの偏執

 ”ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ”と題したリバイバル上映が、ここ札幌にもやってきた。
どれも未見の4作品のなか、ずっと気になっていた『ZOO』観られず。
『プロスペローの本』に足を運ぶ。
シェイクスピアの『テンペスト』さえ知らず、簡単なあらすじを頭に入れて、あとは映像の偏執的狂気をたのしみに。

手作り感たっぷり、流動的な画面に繰り広げられる、舞台劇の閉塞を逆手に取った絢爛豪華なシ

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『ノマドランド』にみる、現代(いま)を生きる答え

『ノマドランド』にみる、現代(いま)を生きる答え

この感慨はなにかに似ている。
ずいぶん前に観て動揺を覚えた『イントゥ・ザ・ワイルド』だ。ジョン・クラカワーの原作『荒野へ』もすばらしかった。

原作はジェシカ・ブルーダーの世界的ベストセラー・ノンフィクション『ノマド:漂流する高齢労働者たち』。
『スリー・ビルボード』の好演が印象深い、主演のフランシス・マクドーマンド氏に圧倒される。

最愛の夫を亡くし、家を手放し、キャンピングカーでノマド生活を送

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整形した殺人鬼が、『夜歩く』

整形した殺人鬼が、『夜歩く』

 初めて読むディクスン・カー(1906~1977)で、記念すべき処女作。
『It Walks by Night』1930年刊行。
翻訳によって随分印象の違うらしい本作。最新のものでも読みにくさを指摘されたりしているようだ。
こちらは半世紀前の創元推理文庫版、井上一夫訳。
評価はしらないが、読みにくいことはなくたまにクスッと笑う。

仄かな怪奇趣味と、おもわせぶりの人狼と、密室殺人トリックの甘さ、そ

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『アネット』にみる、滾り

『アネット』にみる、滾り

鬼才レオス・カラックス作品をこれほどすんなり好きとおもえたことに驚く。

もちろん主演のアダム・ドライヴァーとマリオン・コティヤールの魅力が大きく、初期のあまりにフランス的なところの最早ない、ロック・オペラ・ミュージカルは適度にファンキーにダークでたのしい。

挑発的なスタンダップ・コメディアン、ヘンリー(ドライヴァー)は、国際的に有名なオペラ歌手アン(コティヤール)と情熱的な恋に落ち、世間の大い

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ミステリ作家による本のススメ、『米澤屋書店』

ミステリ作家による本のススメ、『米澤屋書店』

ミステリー作家・米澤穂信氏が様々な媒体に書きためてきた書評やお勧め本、対談を一冊にまとめた、デビュー20周年記念エッセイ。

ミステリ好きでなく疎いのになんとなく手に取る推しの推す作家による読書エッセイ。

読みたい本が増えるのではとドキドキしていたわりに、ノート1頁を〆るに留まる。やっぱり私はミステリ好き、ではない。けれども、この本の真摯な良さとは関係がない。おもしろい。

本の話はたいてい映画

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ウラジーミル・ソローキン『テルリア』リプス!

ウラジーミル・ソローキン『テルリア』リプス!

 『青い脂』の凄まじい読書体験が忘れられないウラジーミル・ソローキンの描く、”ユートピア的多島海(アーキペラゴ)”と化した近未来ロシア。

なんというイマジネーション! なんという自由! ワケがわからない面白さ。
『青い脂』でもそうだった、妙味に気づけていないことは読みながらにして明らか。
なのに麻薬のように不思議世界へ引っ張られ、あらゆる手法、あらゆる長さ、あらゆる遊びとイロニーで読まされてしま

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『オッペンハイマー』にみる、世界を変えた核兵器のコワサ

『オッペンハイマー』にみる、世界を変えた核兵器のコワサ

クリストファー・ノーラン監督最新作は“原爆の父”、天才理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの実像に迫る伝記ドラマ。

3時間と長いが1ミリも退屈させない演出の妙と、とにかくオッペンハイマーを演じるキリアン・マーフィ氏がヤバい。

広島と長崎に原爆が落とされて、のちにオッペンハイマーは苦難のなか、核軍縮を呼びかけ、赤狩りに遭い、そのキャリアは幸せなものとはいえなかった。

第二次世界大戦下の“マン

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『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』にみる、南仏の風と人の優しさ

『ガスパール/君と過ごした季節(とき)』にみる、南仏の風と人の優しさ

冒頭、いきなりの姥捨てに笑ゲキ。
一文無しのおばあちゃん(シュザンヌ・フロン)を迷わず助けたのはロバンソン(ヴァンサン・ランドン)。彼は幼いころ母親に捨てられて、困った人を放っておけないのだ。
一方、共同で海辺のレストランを準備するガスパール(ジェラール・ダルモン)は、妻が家出して以来、家族の絆にはうんざりだ。

再度姥捨てにかかるガスパール...だがロバンソンの庇護が実を結び、いつしか三人の暮ら

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『BLUE GIANT』にみる、ジャズ魂

『BLUE GIANT』にみる、ジャズ魂

石塚真一氏の人気コミックスをアニメ映画化。

世界一のジャズプレイヤーを目指す主人公・大(山田裕貴)が、音楽への情熱を力に、仲間とともに駆け抜けた熱き青春の日々を、上原ひろみをはじめとする世界的プレイヤーが実際に担当する圧巻の演奏シーンとともに描き出す。

全10巻のコミックスは未読。原作のごく一部を掻い摘んでいるそうだ。
それでも青春のすべてジャズに捧げる熱さは十分伝わる。
同時に、ダイジェスト

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さようなら石川、こんにちは愛知。

さようなら石川、こんにちは愛知。

 娘氏の学位授与式を終えて、石川から愛知へ。
鉄道でも飛行機でもない、乗り捨てレンタカーにて。
途中、白川郷を散策、寄り道しながら、一路南へ。

富山から岐阜へ入るころにはだんだん雪が強くなってきた。
何台もの除雪車とすれ違う。
まだ寒い北国からきたというのに...
ここは北海道ですか?と尋ねたくなるほどの雪景色。
けれど山の木々は珍しい杉が多くてうつくしい。

極私的に喜んだのは敬愛する堀江敏幸

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作家にしておくのにはもったいない、イケオジ島田雅彦著『君が壊れてしまう前に』

作家にしておくのにはもったいない、イケオジ島田雅彦著『君が壊れてしまう前に』

いつか教育テレビで見かけた島田雅彦氏が、作家にしておくにはもったいないほどの私的イケオジすぎて、著作を手に取ったのはかれこれ7年も前の話。
島田作品はぜんぶいい。そんな感想をどこかで目にして、制覇したいとおもったまま、やっぱり7年が過ぎていた。こわ。
『ニッチを探して』以来、久しぶり。1998年角川書店刊行。

ーかつて14歳だったあなたへ。いま14歳の君に。ー (帯)

そんな頼もしいエールを込

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『ヴァチカンのエクソシスト』にみる、職業としての悪魔祓い師

『ヴァチカンのエクソシスト』にみる、職業としての悪魔祓い師

長年にわたってヴァチカンの正式な悪魔祓い師=エクソシストとして活躍した、実在の神父ガブリエーレ・アモルトの自伝を映画化。

1987年7月。ローマ教皇から直接依頼を受け、憑依されたという少年を調べるため、アモルト神父(ラッセル・クロウ)はスペインへ向かう。
少年はシングルマザーの母(アレックス・エッソー)と反抗期の姉と共に修道院に滞在していた。
その尋常ならざる容姿と言動から、すぐに悪魔の仕業と確

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ゴシック小説の誕生『オトラント城奇譚』ウォルポール

ゴシック小説の誕生『オトラント城奇譚』ウォルポール

 1764年、ホレス・ウォルポール(1717~1797)によってイギリスで発表されたゴシック小説の始祖。

ある日、著者の見た夢の世界を基に描かれた『オトラント城奇譚』解説によると、「私は何でもよい政治以外のことを考えられるのがとても嬉しかった…」という。
政治家で小説家でもある伯爵ウォルポールが息抜きのようにして書いた初のゴシック小説はその装丁のこだわり諸々に期待しすぎたのか、恐ろしくも面白くも

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『夢みるように眠りたい』にみる、林監督デビューの伝説

『夢みるように眠りたい』にみる、林監督デビューの伝説

私立探偵、魚塚甚(佐野史郎)のもとに、月島桜(深水藤子)と名のる老姿から、誘拐された娘・桔梗を探してほしいとの依頼がくる。
調査を進める魚塚は、依頼主・月島桜が主演してラスト・シーンを残して未完に終った無声映画「永遠の謎」がこの事件の鍵となっていることを知る。
事件はその映画のストーリーにそって展開し、魚塚は、娘を探しているのではなく「永遠の謎」のラスト・シーンを追っていることに気づくのだった―

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