鈴木偏一

マインドが大学生。 https://twitter.com/ichi_hen?s=09

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マガジン

  • 小説 開運三浪生活 #3 イーハトーブの冤罪

    プライド高く理系に憧れ続ける元・優等生にて現・劣等生のタサキフミオ(20)。せっかく滑り込むことができた「県大」のキャンパスライフに飽き足らない彼は、相変わらず理系への憧れを捨てきれず、仮面浪人を決意する。

  • 小説 開運三浪生活 #2 モノクロ時代

    プライド高く理系に憧れ続ける元・優等生にて現・劣等生のタサキフミオ(20)。東北南端の農村に生まれた彼は、いかにして優等生としてのプライドを育み、その後劣等生に落ちぶれていったのか。その生い立ちから「県大」に滑り込むまでを描く。

  • 小説 開運三浪生活 #1 三浪前夜

    プライド高く理系に憧れ続ける元・優等生にて現・劣等生のタサキフミオ(20)。せっかく進学した「県大」を休学し、広島大の総合科学部を再受験するまでの孤独で独善的な足取りを描く。

  • 十行日記

    日常まわりの雑感を十行でつづる不定期エッセイ

記事一覧

小説 開運三浪生活 34/88「university of Iwate, by Iwate, for Iwate」

六月に入った。相変わらず週一回の部活に参加していたものの、文生はもはや卓球に熱が入らなかった。部活というよりサークル然とした緩い活動を望む部員に、肩透かしを食ら…

鈴木偏一
6時間前
3

小説 開運三浪生活 33/88「大人の階段、五百円」

岩手で独り暮らしを始めるにあたって、文生にはひとつだけ自らに課したルールがあった。それは、大学の色に染まらないこと。交友関係を広げないこと。なるべくアパートに他…

鈴木偏一
1日前
3

小説 開運三浪生活 32/88「メール大作戦」

県大には公共政策、情報理工、社会福祉、保健福祉の四つの学部があり、一年生だけでもざっと二百人以上の男子学生がいる。それだけいれば卓球経験者も少なからずいるはずで…

鈴木偏一
2日前

小説 開運三浪生活 31/88「幽霊部活」

不本意で入った大学とはいえ、初めて受ける講義は文生にとってどれも新鮮ではあった。全学部共通の情報演習ではパソコンに触れること自体が刺激的だったし、行政学や政策学…

鈴木偏一
3日前
2

小説 開運三浪生活 30/88「退学志願者」

入学式を終えた足で文生と貫介は学食に向かい、昼食をともにした。聞けば、貫介も不本意での入学らしい。 「ほんとは大学に来る気なんて、これっぽっちもなかったっけよ」…

鈴木偏一
4日前
2

小説 開運三浪生活 29/88「村から村へ」

県大の入学式翌日の景色を、文生は忘れられない。四月にしては肌寒く厚い雲に覆われていたその日、公共政策学部の大講義室で新入生オリエンテーションがあった。窓側の席か…

鈴木偏一
5日前

小説 開運三浪生活 28/88「滑り止め滑り込み」

半年後、文生は予定どおり熊本大を受験し、そして大方の予想どおり余裕で落ちた。 例年より難しいと言われたセンター試験の英語で154点というまぐれの点数を叩き出した…

鈴木偏一
6日前
2

小説 開運三浪生活 27/88「適性無視」

文生は三年生になった。高校生活後半からの巻き返しを期したまま、実態は相も変わらず劣等生のままだった。五教科全体の偏差値は毎回40代の前半をさまよい、肝腎の数学と化…

鈴木偏一
7日前

小説 開運三浪生活 26/88「破戒」

高校生になってもテレビを観ない生活を継続していた文生だが、二年に進級してしばらく経つと、ようやくにしてカラフルな二次元の世界への欲求が募り始めていた。 その頃の…

鈴木偏一
8日前
2

小説 開運三浪生活 25/88「遥かなり、大学スポーツ」

夏休みが明けると文化祭の準備が始まった。文生が通うH高は三年に一度しか文化祭が行われない。どういう経緯でそうなのったか、市内にある三つの高校での持ち回り開催とな…

鈴木偏一
9日前

小説 開運三浪生活 24/88「宅浪志望」

『竜馬がゆく』で歴史小説の面白さに目覚めた文生が、司馬遼太郎の次に手を着けたのが井上靖だった。『敦煌』『天平の甍』『風林火山』といった薄手の文庫本を、勉強そっち…

鈴木偏一
10日前
1

小説 開運三浪生活 23/88「赤点集合!」

一学期もあと数日で終わる土曜日の午後、追試を受けることになった生徒とその保護者が会議室に呼び出され校長の話を聴く、という場が設けられた。この日に先立ち、文生は自…

鈴木偏一
11日前
2

小説 開運三浪生活 22/88「LAST BANKARA」

成績こそ悪かった文生だったが、クラスの居心地はよかった。中学の時のように優等生扱いされることもなかったし、男子ばかりだったので異性の目を気にせず、ふざけあえた。…

鈴木偏一
12日前
1

小説 開運三浪生活 21/88「燃え尽き小休止」

期待を裏切らずH高理数科に進学した文生に対し、村の人間たちは相変わらず好奇の目を向けていた。 「フミオちゃん、理数科でも一番なのけ?」 言外に挫折を願う響きを…

鈴木偏一
13日前
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小説 開運三浪生活 20/88「高校デビュー」

結果として、文生は念願のH高理数科に受かった。合格発表で自分の受験番号を見つけた文生に、合格を勝ち取ったという感覚はなかった。安堵だけだった。下降気味だった学力…

鈴木偏一
2週間前

小説 開運三浪生活 19/88「竜馬幻想」

その頃、文生の心を突き動かしたのが坂本龍馬の伝記だった。もともと小学生の頃から伝記物が好きで、古今東西の偉人を経て辿り着いたのが幕末だった。坂本龍馬その人だけで…

鈴木偏一
2週間前
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小説 開運三浪生活 34/88「university of Iwate, by Iwate, for Iwate」

小説 開運三浪生活 34/88「university of Iwate, by Iwate, for Iwate」

六月に入った。相変わらず週一回の部活に参加していたものの、文生はもはや卓球に熱が入らなかった。部活というよりサークル然とした緩い活動を望む部員に、肩透かしを食らった気持ちだった。部活への失望も相まって、大学生活そのものに対する期待はさらに薄まっていった。他大学への編入について調べ始めたのもこの頃だった。

この時季、ほかの大学に進んだ高校時代のクラスメイト数人とひさしぶりに連絡をとってみると、それ

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小説 開運三浪生活 33/88「大人の階段、五百円」

小説 開運三浪生活 33/88「大人の階段、五百円」

岩手で独り暮らしを始めるにあたって、文生にはひとつだけ自らに課したルールがあった。それは、大学の色に染まらないこと。交友関係を広げないこと。なるべくアパートに他人を出入りさせないこと。そして自分からもほかの県大生の家には行かないこと――。

文生はハナから、いずれゆくゆくは他大学を受験し直すか、三年次から編入するつもりでいた。もし仮面浪人するとなった時、遊びの誘いは邪魔になる。自分のペースを乱され

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小説 開運三浪生活 32/88「メール大作戦」

小説 開運三浪生活 32/88「メール大作戦」

県大には公共政策、情報理工、社会福祉、保健福祉の四つの学部があり、一年生だけでもざっと二百人以上の男子学生がいる。それだけいれば卓球経験者も少なからずいるはずで、全員に勧誘メールを一斉送信すれば団体戦を組めるくらいの人数、最低でも自分を含めて四人は集まるだろう――。突然卓球部を託された文生は大雑把な目算のもと、部員集めに乗り出した。

『北の海』に登場する四高柔道部のような、男子だけのストイックな

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小説 開運三浪生活 31/88「幽霊部活」

小説 開運三浪生活 31/88「幽霊部活」

不本意で入った大学とはいえ、初めて受ける講義は文生にとってどれも新鮮ではあった。全学部共通の情報演習ではパソコンに触れること自体が刺激的だったし、行政学や政策学基礎、憲法学といった公共政策学部の専門科目では、教員一人ひとりの雑談を交えた講義が面白かった。

ただ、その新鮮さは長くは続かなかった。入学する前から判っていたことだが、公共政策学部はやはり文系中心のカリキュラムだった。法学部や経済学部でや

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小説 開運三浪生活 30/88「退学志願者」

小説 開運三浪生活 30/88「退学志願者」

入学式を終えた足で文生と貫介は学食に向かい、昼食をともにした。聞けば、貫介も不本意での入学らしい。

「ほんとは大学に来る気なんて、これっぽっちもなかったっけよ」

一学年二クラスの小さな普通科高校に通っていた貫介は、卒業したらほかの同級生たちと同じように専門学校に進むか就職するつもりだった。ところが三年生の時に県大が開学して、風向きが変わったと言う。

「高校ん時に生徒会長やってて。そしたら先生

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小説 開運三浪生活 29/88「村から村へ」

小説 開運三浪生活 29/88「村から村へ」

県大の入学式翌日の景色を、文生は忘れられない。四月にしては肌寒く厚い雲に覆われていたその日、公共政策学部の大講義室で新入生オリエンテーションがあった。窓側の席から何気なく視線を外に向けた文生は、目を疑った。

「マジかよ、雪降ってる!」

後ろの席から驚嘆とも歓声ともつかぬ声があがった。おそらくは文生と同じように県外からの入学者だったのだろう。外は季節外れの雪が舞っていた。

――すげえとこに来ち

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小説 開運三浪生活 28/88「滑り止め滑り込み」

小説 開運三浪生活 28/88「滑り止め滑り込み」

半年後、文生は予定どおり熊本大を受験し、そして大方の予想どおり余裕で落ちた。

例年より難しいと言われたセンター試験の英語で154点というまぐれの点数を叩き出した文生は(模試でもせいぜい6割しか取れていなかった)、得意の国語ではしっかり八割を得点し、苦手の理系科目はもちろん低かったものの、それでも合計点で七割に肉薄した。同じく劣等生の野田が「予想屋フミオ」と命名し、普段安定して好成績を残してきた木

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小説 開運三浪生活 27/88「適性無視」

小説 開運三浪生活 27/88「適性無視」

文生は三年生になった。高校生活後半からの巻き返しを期したまま、実態は相も変わらず劣等生のままだった。五教科全体の偏差値は毎回40代の前半をさまよい、肝腎の数学と化学と生物に至っては、偏差値30代とまったくお話にならないレベルだった。記述式の模試になると答案に何も書けなかった。試験中は退屈で、苦痛で、やるせない時間だった。そのくせ、センター試験でしか使わない国語と地理は無駄に快調だった。まったく勉強

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小説 開運三浪生活 26/88「破戒」

小説 開運三浪生活 26/88「破戒」

高校生になってもテレビを観ない生活を継続していた文生だが、二年に進級してしばらく経つと、ようやくにしてカラフルな二次元の世界への欲求が募り始めていた。

その頃の文生は、人生で初めて本格的に音楽を聴くようになっていた。後年、CDが一番売れた時代と言われ、邦楽ロックと呼ばれるジャンルが日本の音楽シーンを牽引していた。CDを買う習慣がまだなかった文生は、ラジオから流れる楽曲をテープに録音して何度も聴い

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小説 開運三浪生活 25/88「遥かなり、大学スポーツ」

小説 開運三浪生活 25/88「遥かなり、大学スポーツ」

夏休みが明けると文化祭の準備が始まった。文生が通うH高は三年に一度しか文化祭が行われない。どういう経緯でそうなのったか、市内にある三つの高校での持ち回り開催となっていた。文生のクラスはお化け屋敷をやった。三年生は高校生活最後の大イベントということで連日おおはしゃぎし、共学一期生である一年生は女子がいることで華やいでいた。間に挟まれた文生たちの学年はやや盛り上がりに欠けていたが、それでもクラス内は活

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小説 開運三浪生活 24/88「宅浪志望」

小説 開運三浪生活 24/88「宅浪志望」

『竜馬がゆく』で歴史小説の面白さに目覚めた文生が、司馬遼太郎の次に手を着けたのが井上靖だった。『敦煌』『天平の甍』『風林火山』といった薄手の文庫本を、勉強そっちのけで次々に読み漁った。本はすべて書店か古本屋で購入した。自分が読む本は常に手元に置いておきたかったし、高校の図書室にはどうしても足が向かなかったからである。一年生の頃に二、三回図書室を覗いてみたが、黙々と自習する上級生たちで室内はいつも張

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小説 開運三浪生活 23/88「赤点集合!」

小説 開運三浪生活 23/88「赤点集合!」

一学期もあと数日で終わる土曜日の午後、追試を受けることになった生徒とその保護者が会議室に呼び出され校長の話を聴く、という場が設けられた。この日に先立ち、文生は自分で招いた事態ながら大いに気を揉んだ。――その日は全学年全クラスの赤点犯の親子が一堂に会する。その中には同じ中学のヤツもいるかもしれない。そんな場に母親を呼んだら、公開処刑に発狂してしまうに違いない――。父親を招集する以外に、手はなかった。

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小説 開運三浪生活 22/88「LAST BANKARA」

小説 開運三浪生活 22/88「LAST BANKARA」

成績こそ悪かった文生だったが、クラスの居心地はよかった。中学の時のように優等生扱いされることもなかったし、男子ばかりだったので異性の目を気にせず、ふざけあえた。教師も男子校出身者が多く、授業中に下ネタが飛び出すのはいつものことだった。

理数科で、文生には特に仲のいい友人が二人できた。

別の村の中学から来た木戸とは、中学時代に卓球の大会でよく顔を合わせていた。親しく会話を交わす仲ではなかった

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小説 開運三浪生活 21/88「燃え尽き小休止」

小説 開運三浪生活 21/88「燃え尽き小休止」

期待を裏切らずH高理数科に進学した文生に対し、村の人間たちは相変わらず好奇の目を向けていた。

「フミオちゃん、理数科でも一番なのけ?」

言外に挫折を願う響きを持たせ、周囲の人間は母親を勘ぐった。その重圧に耐えきれなくなると、母親の感情の矛先は文生へと向いた。

「フミオ、もう、伸びないんでしょ……」

一学期の成績を見てあからさまにがっかりした母親は、我が子が努力しているのにかかわらず

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小説 開運三浪生活 20/88「高校デビュー」

小説 開運三浪生活 20/88「高校デビュー」

結果として、文生は念願のH高理数科に受かった。合格発表で自分の受験番号を見つけた文生に、合格を勝ち取ったという感覚はなかった。安堵だけだった。下降気味だった学力が、合格ラインまで持ちこたえてくれてよかった。親の期待に応えることができた。村の世間からの期待にも応えることができた。文生は心底ほっとしていた。

――これでやっと、解放される……。

静かな城下町の家並みの端に、その男子校はあった。文生は

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小説 開運三浪生活 19/88「竜馬幻想」

小説 開運三浪生活 19/88「竜馬幻想」

その頃、文生の心を突き動かしたのが坂本龍馬の伝記だった。もともと小学生の頃から伝記物が好きで、古今東西の偉人を経て辿り着いたのが幕末だった。坂本龍馬その人だけでなく、時代を動かしていった(と、されている)維新志士たちの潔さに文生はいたく感じ入った。

――カッコいい、こういう人生。

命をなげうって日本のために行動する志士たちの姿に感動した文生は、そこまで劇的な人生でなくても、いずれ広く世の中の役

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