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「ポニョ」より圧倒的に面白い「夜明け告げるルーのうた」

今回は、「夜明け告げるルーのうた」について書きたい。
これは2017年に制作された劇場作品で、文化庁メディア芸術祭大賞受賞作品である。
ちなみに原作モノではなく、湯浅政明監督のオリジナル作品だ。
私は初見の感想として、率直に「湯浅さんはオリジナルだと結構POPな作風なんだな・・」と思った。
そう、子供からお年寄りまで、男性でも女性でも楽しく見られる、まさにファミリー向けのファンタジー作品だったんだよ。
とても好感度の高い作風である。

ストーリーは、主人公の少年と人魚の少女の交流を描いたもの。
というと、「それって『崖の上のポニョ』のパクリじゃん!」と思うだろうが、そうではない。
たまたま、設定が似てしまっただけのことである。
湯浅さんがなぜ人魚を題材にしたのかというと、「水を描きたかったから」だそうだ。
なるほど。
水や風といった透き通ったものを表現するのは、アニメーターとして燃えるものがあるんだろう。
案外、宮崎さんが「ポニョ」を作ったのも同じ理由かもしれないね。
ただ、ひとついわせてもらうなら、「ポニョ」よりも「ルーのうた」の方が断然面白い。
なんせ「ルーのうた」は、エンタメ要素テンコ盛りだから。
特に、歌とダンスが楽しい。
なんていうかな、新海誠が「君の名は」以降吹っ切れて作風が明るくなったように、湯浅さんもまたこの作品で吹っ切れた感じがあるよ。
この作品、決してマニアックではない、POPな作風である。
ダンスするルーの可愛いこと!

湯浅さんのデフォルメされたキャラって、めっちゃダンスにフィットするのよ。
それこそ昔のディズニー映画みたく、足がめっちゃ動く躍動感が凄い。
こういうの、小さなお子さんが見ると絶対大喜びだよね。
ただ、これは単に子供向けの映画じゃない。
ちゃんと主力のアニメファン層が喜びそうな、厨二要素も盛り込んでいる。
というのが、
「人魚に噛まれた人間(動物)は人魚になってしまう」
「日光に当たると人魚は発火してしまう」
みたいな設定になっており、これはもう完全にバンパイア人魚じゃないか!
といいつつ、作中には噛まれて人魚化した犬が出てくるんだが、これがもうめちゃくちゃ可愛いんだわ(笑)。

さすが、元「クレヨンしんちゃん」の湯浅さんだね。
よくツボを分かってらっしゃる。
そして、あとエンタメ要素は「歌」。
主人公とルーを最初に繋いだのは実は音楽だったんだけど、このフリが終盤に回収され、最大のクライマックスシーンは主人公の熱唱である。

このシーン、いいんだよな~。
曲は斉藤和義の名曲「歌うたいのバラッド」。
常に斜に構えて全てに無気力だった主人公が、ルーを励ます為に唄い始めたシーン。
ぶっちゃけ歌は大してうまくないんだけど、一生懸命唄ってる感が熱くて、思わず私ここで号泣しましたよ。
ここまでの分かりやすいエモさ、「崖の上のポニョ」にはなかったと思う。
よって、私の中では完全に【ルーのうた>>ポニョ】なんだわ。

とはいえ、興行収入的に「ルーのうた」は大コケだったらしい。
・夜明け告げるルーのうた⇒興行収入1億未満
・崖の上のポニョ⇒興行収入155億
はい、惨敗ですわ。
ここまで大衆ウケしそうな映画作ったのに・・。
つーか、湯浅政明といってもアニメファン以外は知らんもんなぁ。
あまりにも客が入らなかった為、映画館は上映期間を短縮して早々に打ち切ったらしいんだが、しばらく経って仏アヌシー映画祭でこの作品が最高賞を獲ったと聞いて(「この世界の片隅に」「聲の形」を抑えて、である)、急遽再上映をしたんだってさ。
それでも、大して客は入らなかったんだろうね。

この賞を獲った日本人は、過去に宮崎駿と高畑勲のみ

しかし、思うんだわ。
ルーみたいに可愛いキャラ作ったし、可愛い動物キャラまで作ったし、歌とダンスで楽しい内容にしたし、斉藤和義の名曲を主題歌にしたし、これ以上一体何ができるっちゅーねん。
ちなみに、この2017年は同じ湯浅監督作品の「夜は短し恋せよ乙女」もほぼ同時期に公開してるわけで(「ルーのうた」の1ヵ月前に封切)、なぜ敢えてカブらせたのかは知らんけど、別に相乗効果を期待したわけでもあるまい。
ちなみに、「夜は短し恋せよ乙女」の興行収入は約5億とのことで、こっちの方が若干マシだったんだね。
やはり、森見登美彦効果、上田誠効果、「四畳半神話大系」効果だろうか?

「夜は短し」には「四畳半」の歯科助手・羽貫さんや樋口師匠も出てきます

その点、アニメオリジナルの映画は難しいよね。
それこそ、新海誠ばりにネームバリューがないと。
だけど、湯浅さんだって「ルーのうた」でやったことは新海誠と全く同じといっていいぐらいなんだぞ?

<ボーイミーツガール>

「ルーのうた」
「天気の子」

<女の子が特殊な能力を持ってる>

「ルーのうた」
「天気の子」

<異常事態発生、町が水害のピンチ!>

「ルーのうた」
「天気の子」

<ちょっとしんみりしたラスト>

「ルーのうた」
「天気の子」

湯浅さんも新海さんもやってることはほぼ同じなのに、興行収入では圧倒的な差が生じてしまってるという事実。
これはね、私が思うに監督のブランド力、要は作家性の問題なんだよ。
どっちにも作家性はあるだろ?と思うだろうが、いや、ふたりは全然タイプが違う。
新海さんは割とストレートに文学的なニュアンスを作品に込めてくるけど、湯浅さんはそういうのより、アニメーターとしての映像表現が第一で、そこは職人肌なんだよね。
文学性の新海vs映像表現の湯浅というところで、よりブランドとして惹きつけやすいのはやはり前者なんですよ。
と考えると、湯浅さんはオリジナルよりむしろ作家性の強い原作との融合がベストかもね。
「映像研には手を出すな」とか「ピンポン」とか「四畳半神話大系」とか。

とはいえ、「夜明け告げるルーのうた」は大傑作なのは間違いないよ。
まだ見てないという人は、是非見てね!


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