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読書日記

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2020年4月の記事一覧

『コロナの時代の僕ら』。文学と数学のあいだ

発売を楽しみにしていた一冊が届いた。イタリアの作家が書いたエッセイ集『コロナ時代の僕ら』。期間限定で全文公開もされておりその際も目を通していたが、手元に置いておきたいと予約しておいた。 新刊が届くまでの間に作者の未読であった『素数たちの孤独』も読んだ。訳者の飯田亮介さんの言葉を借りれば、特殊な素数の組み合わせである「双子素数」をモチーフにして、限りなく近いのにひとつになれない男女の心情を見事に描いた恋愛小説だ。 私は理系の感性はほぼ持ち合わせていないけれど、「素数」という

人は後ろ向きに未来へ入っていく

少し前の朝日新聞に、『生物と無生物のあいだ』の福岡さんがウィルスについて書いた記事。「ウィルスという存在。生命の進化に不可避的な一部」と題されたその論考は、私の視野をガッツンと開かさせてくれるものだった。 その中の要点をザックリ抜き出すと…… ●進化の結果、高等生物が登場したあと、はじめてウィルスは現れた。行動生物の遺伝子の一部が外部に飛び出したものとして。つまり、ウィルスはもともと私たちのものだった。 ●親から子に遺伝する情報は垂直方向にしか伝わらない。しかし、ウィル

読書は、人生がただ一度であることへの抗い

友人から薦められたオンライン英会話を始めようと思っているが、重い腰が上がらない。腰を上げなくてもいいはずなのに。家でできる気軽さで軽妙に始めてしまえばいいだけなのに、重い腰が上がらない。 動画配信サービスを観る時間が思いっきり増えてしまい、それはそれで疲れるので、積ん読の中から「“今”読みたい!」と思う本をピックアップしたり、amazonでポチッとしたり。 最近読んだ本、読もうとしている本たち。ベストセラーになっているカミュの『ペスト』、“今”が記されているとことあるごと

「ジャムを煮る」というハードル。

気がつけば、苺の旬が終わろうとしている。苺の値段がグンと下がっている。スーパーに行く回数を減らす努力をしている。というわけで、苺をいつもより多めに買って帰ってくる。 平松洋子さんの台所をめぐるエッセイを詰め込んだ『真夜中にジャムを煮る』。果物の食べごろを見極める作業に慎重になり、一喜一憂する“あるある感”。そして、「食べ頃をすぎた果物はジャムにすればいい」という考えに行き着く。静まり返った真夜中にジャムを煮る幸福。できたてのジャムの甘い香り…… そういえば、母も「いたむ、

脳が喜ぶ小さな「喜」と「楽」を集めてみた

脳科学者の先生の取材をした。 人間の脳は、総量では幸せを実感しづらく、実は「差」が重要という話になった。その「差」は極めて小さくてもOK。昨日よりマスカラがキレイに塗れた、とか、昨日より美味しく土鍋でご飯が炊けた、とか。「脳」はいかなる小さなことであっても、その「差異」に対して、幸せを実感するのだそうだ。 以前、『嫌われる勇気』の著者・岸見先生にインタビューをした時にも、同じようなことを言われていた。 成功は“量”ですが、幸福は“質”です。質的なものは、誰も追随できませ

デモはできないこの世の中で

全国的に映画館が休業し、鑑賞が難しくなったということで、配給会社が各種配信サービスでのレンタル配信を開始。映画『白い暴動』。 70年代のイギリスで、移民排斥・白人至上主義を掲げ、支持を伸ばす政党NF(イギリス国民戦線/British National Front)。その中で、人種差別と闘った"ロック・アゲインスト・レイシズム"に迫る社会派音楽ドキュメンタリー! 映画は、数人の若者が呼びかけた運動が最終的には10万人の行進、フェス、NFの選挙大敗までを導いたイギリスを描く。

たまごをかけるだけでも自炊です

自炊生活に入って何日目だろう。社会人になって、帰宅時間が遅くなり、土日以外に自炊をすることなんてめったになかった。いわゆる(惣菜や弁当などを買って帰る)「中食」と「外食」にたよってきた(というわけで自炊のことは「内食」とも言うらしい)。 スーパーでものを買い込み、その食材をアノ手コノ手で使いきり、作ったものを食べきる。豆苗は根を水に浸し再収穫。野菜のハジっこは細かく刻み佃煮のようにしたり、野菜の根っこでベジタブルブロス(出汁のようなもの)を試みたり……京都の方いうところの「

雨音はフィオナの調べ。そして、私は覚悟を決めた

関東は「春の嵐」で「警報級の大雨」の可能性があるとの報道。昼から夕方にかけて、数年に一度の大雨とも。このnoteを書いている今は、比較的、雨音は穏やか。 雨音と言えば、ショパンの調べ……であると相場は決まっているのであるが…… フィオナ・アップルである。 今日の私の気分は、フィオナ・アップルの新譜『Fetch The Bolt Cutters』が断然気分だ。静寂。そして、雨音、そしてフィオナのプリミティブな歌声。とても、合う。今の私の気分に合う。 タイトルである『Fe

「空気を読む」ということ

日本一(世界一?)「空気が読めない男」と「空気が読める男」のコラボ動画。昨日は、1日中、不覚にも何をしていてもフラッシュバック。悶々と考えてしまった。 空気を読む力は、脳の内側前頭前皮質がになう部分が多いらしい。 この部分は、自覚していなくても、自分の周囲で起こっていることを常にモニターしており、自分と関係の深いことであればできるだけ素早くこれを検出して反応させようと準備しています。自分の関連がある一定の値を超えると、そこへ自動的に関心が向くようにスタンバイしているという

時間の使い方に「意味」はなくていい

こんなに時間があるのだから……何か「大作」に挑戦したいと考える。たとえば、『2010s』を読んでから、いつかは観なくてはと思い続けている、動画配信されているファンタジー大作の『ゲーム・オブ・スローンズ』。 「いざ!」と挑んで観たものの、やたらに体力を使う。まったく頭に入ってこない。そうだ、そもそも私は中世ものや、ファンタジー作品を見る素養がないのだった。と、あえなく2話目でストップしている。完走している知人からは、「えー」という声も聞こえてくるが、いたしかたない。なんだか、

『コロナの時代の僕ら』にできる届け方

今月25日に、早川書房からイタリアを代表する小説家パオロ・ジョルダーノのエッセー集が緊急出版される。 世界初のコロナ文学2月末から3月末に書かれたもので、現状では感染被害が最も大きいとされるイタリアの急転ぶりが手にとるようにわかるらしい。筆者は物理学の博士号をもっているということで、科学者視点の冷静な視点でも書かれているようだ。 すぐに、amazonで予約。 都市部で感染者が急増している日本でも学ぶべき内容が多いと判断され、刊行前に期間限定でウェブ上で全文が無料公開され

街と人と生命と。風街ダイアリー

飲食店やショップが集まる人が多く集まる街に住んでいる。スーパーに食材の買い出しに向かう。さすがに人が少ない。 土曜日、日曜日。ショップを中心に、全体で4分の1くらいが臨時休業を選択したようだ。 飲食店は「テイクアウト」を開始した店舗が目立つ。各国のロックダウンのニュースを受け、店舗自らが考え、粛々と動き始めているといった様子。 アメリカでは、グーグルマップに「テイクアウト」「宅配」可能なお店が表示されるようになっている。 日本では、テイクアウトできる店が一覧できるサイ

これまでの行い。これからの行い。

昨日、メイクアップブランドのM・A・C(メイクアップ アート コスメティックス)からニュースが届いた。 ブランディングの答えMACビバ グラム基金より、新型コロナウイルス感染対策として、新型コロナウイルス感染拡大の中、リスクに立ち向かい最前線で働く人々や機関をサポートするため、総額1,000万ドルを寄付することを決定いたしました。 ビバ グラム基金は、チャリティキャンペーンとして1994年にスタート。ビバ グラム リップスティックの売上全額は、健康で安心な未来、そして困難

マスクにまつわるエトセトラ

ポルトガル『VOGUE』の4月号。仕事が早い。数週間から1ヶ月前に最終決断をしないといけないことを思うと(もちろん撮影はその前に)、定期刊行物でこの対応をするのは、「神業に近いな」と思う。出版物は、インターネットとは違いタイムラグができるため、早さでは叶わないことが多いけれど、「メッセージを伝える役割を放棄してはいけない」と出版物に携わる者として、改めて。 4月7日発売の文芸誌『文藝 夏季号』にも同じ気概を感じる。文芸誌でのこのスピード感は大偉業なのではないか、と思いつつ、