マガジンのカバー画像

短編小説

18
運営しているクリエイター

#エッセイ

いつか見たあのゴールテープ

いつか見たあのゴールテープ

そんなはずはなかった。

体調も良かった。天候も。モチベーションも。

でも、靴紐がほどけてしまった。

これは運がなかったというべきか。

それとも、手入れ不足というべきか。

ゴールテープが見えたあの直線100メートルを

私は一生忘れないだろう。

いや、忘れられない。

全国に行けたのに。

金メダルだったのに。

最後の最後で、無情にも私は倒れこんでしまった。

前は暗く、一瞬何が起こっ

もっとみる
涙の理由は一つじゃない それが夏なら尚更だ

涙の理由は一つじゃない それが夏なら尚更だ

今年も夏がやってきた。

夏が来れば冬がいい。
冬が来れば夏がいい。

そんな思考がこの先ずっと続けばいなと思う。

その思考はとても有難いことで、夏から冬、冬から夏の6か月間を

楽しく過ごさせてくれる。

何事も、楽しみがないとやっていけないのが僕の性格。

逆に言うと、楽しみがあればどんなことも乗り超えられる。

僕の楽しみはいろいろあるけれど、

やはり大切な人に会えることが僕の幸せなのだ

もっとみる
本が紡ぐ、甘い思い

本が紡ぐ、甘い思い

家の近所の川の橋を渡り、細い道を行ったところにわりと新しめの古本屋がある。本を囲む環境は新しいのに、本自体は古びている。そのどこか不釣り合いなところにちょっとした魅力を感じている。

この古本屋はカフェも併設されているため、よく足を運んでいる。本を買い、そのままカフェで読むことができる。

今日も2冊ほど本を買い、またいつもの席で本を読む。ジャンルはミステリーでも自己啓発でもコメディーでも、何でも

もっとみる
十戒とあと一つ

十戒とあと一つ

ミステリーのルールにはノックスの十戒というものがある。

簡単に言うと、

1.犯人は物語の始めに登場しなければならない

2.探偵の解決方法に事前能力は使ってはいけない

3.秘密の抜け穴などがあってはならない

4.未発見の毒薬、難解な機械を用いてはならない

5.中国人を登場させてはならない

6.偶然や第六感によって事件を解決してはならない

7.探偵自信が犯人であってはならい

8.読者

もっとみる
桜が散るように

桜が散るように

まだ4月になったばかりだが、この公園の桜はよく咲いている。

公園と言ってもここは庭園みたいなもので、この季節になると県外からも多くの人が桜を見に来る。うちの県にとっては観光地みたいなもので、それを紹介できる私は鼻が高い。

そんなちっぽけな自己満足に浸りながら、桜を横目に見ながら、私は歩みを進める。

もう日は暮れ、桜もライトアップされている。人も多くなってきた。

人混みが少し鬱陶しくなってき

もっとみる
誰かの笑顔が、私の笑顔になる瞬間

誰かの笑顔が、私の笑顔になる瞬間

「仕事は慣れたかい?」

私は掃除中で、後ろからいきなり声をかけられため少し驚いた。

「はい。ようやく慣れ始めました。」

その人の顔を見たが、誰なのかは思い出せなかった。男性で、年齢は50代だろうか。バイトの関係上、こういった人たちには1日に何度もお会いする。

まだバイトを始めたばかりの私は、お客様の顔を覚える余裕などなく、ただただ仕事をこなすだけだった。

「そうかい。頑張ってね」

そう

もっとみる
”音”を楽しむ人たち

”音”を楽しむ人たち

私は少しばかり、音楽家や吹奏楽部やピアノの調教師や、そんな音楽に携わる人たちに尊敬の念を抱いている。

単に誰にでもできる訳ではない技術を持っているということだけではなく、誰かを魅了することの出来る人たちだからである。

それならスポーツ選手やアーティストもそうなのかもしれないが、その人たちにはないカッコよさや綺麗さや聡明さがあるのである。

時にその人たちが奏でる”音”は、感動、驚き、楽しさ、哀

もっとみる
鏡は自分の何を「ウツス」か

鏡は自分の何を「ウツス」か

「目は口ほどにものを言う」

人間は、自分を「映す」鏡で顔を確認し、表情を変えてみせる。

そんなに表情が大切なのだろうか?

そんな自分の顔を見るより、自分たちの行動を見てほしいと、私は氷の上で思うのだ。

人間たちが遊びに行くという夢の国には、現実を見せないためにトイレに鏡がないそうだ。

鏡を夢の世界に「移さない」ことで、現実から解放する。

そこまでして現実から目を背けたがるのか。

確か

もっとみる
世界の広さに比べたら

世界の広さに比べたら

「海の広さに比べたら、なんて私は小さいのだろう」

小説やドラマ、演劇でよく使われている言葉だ。

この言葉を実際に使ったことはないが、海は確かに広い。僕なんかを寄せ付けないくらいに。

高校生の時に水泳部だった僕は、学校の小さいプールで泳いでいた。そのプールを何往復しても、海の広さに比べたら、到底敵わない。

海という自然の産物に広さで勝負を挑んでも、荒唐無稽、お門違いこの上ない。

だが、やは

もっとみる
別れと出会いのまにまに

別れと出会いのまにまに

誰にも訪れる別れの季節が、今年もやってきた。

この桜並木の道を歩くのは今日で最後だ。丁度この時期に桜が咲いているのは幸運と言えるだろう。

あの学校に通うのも今日で最後だ。それ自体が幸運なのか、それとも不幸なのか、それは人それぞれだろう。

果たして僕はどっちなのか。

そんなことを思いながら、学校へ歩みを進める。

中学生最後の日にこんなことを考える人は他にいないだろうな。

今までの過程でこ

もっとみる
ネコ故に

ネコ故に

今日も一日、寝て過ごす。

そんな私を人間たちは、微笑みながら覗いている。

私がもし人間なら、私になんて微笑みかけないだろうな。

一日中、餌をもらい、そして寝る。そんなぐーたらな私を。

「ネコでよかったな」

そう思う時がよくある。

ただ、人間になりたい時もあるんですよ。

私は人間としゃべれないし、同じものを食べることもできない。

そんな私はにゃーにゃー言って、自分の願いを訴える。

もっとみる
打ち上げ花火

打ち上げ花火

夏を題材にした映画や小説は、なぜ心をこんなにも揺らすのだろうか。

僕は夏を題材にした小説をよく購入する。春や秋や冬より、圧倒的に。

タイトルから夏を感じる小説もよく買うのだが、やはり表紙が夏模様だと、つい手に取ってしまう。内容もよくは読まずに、そのままレジに並ぶことが、よくある。

近頃は、そんなジャケ買いが増えている。

小説家に知られたら怒られてしまいそうだ。

家に帰って自分の部屋で買っ

もっとみる