ヨシダ

癒しの仕事をしている人の、違う側面。 主に小説を載せています。心に残ったもの、物語にな…

ヨシダ

癒しの仕事をしている人の、違う側面。 主に小説を載せています。心に残ったもの、物語になってしまったものを書いていきます。

記事一覧

これから、猫と彼女と 2

 少し先を歩いている主婦らしき女性のバッグから、財布が落ちた。主婦は気がついていない。悠太は、逡巡したままその財布を眺める。 (どうしよう)  いや、どうしようじ…

ヨシダ
4年前
1

これから、猫と彼女と 1

「人間の価値って、どうやって決まると思う?」  坂本悠太が、タリーズコーヒーでアイスコーヒーを飲んでいると、後ろからそんな台詞が聞こえてきた。悠太はその時、スマ…

ヨシダ
4年前
4

ある日、切れて 5【最終話】

「気を悪くしたら、ごめん」 「……いえ。別に不思議じゃないですし」  章は自嘲気味に笑う。  遠くで、通学中の子供たちの声が聞こえる。昨日見たアニメの話。誰かが見…

ヨシダ
6年前
3

ある日、切れて 4

       * 「……そんなことまで、やってるんですか?」  男が今、口にした言葉に、章は信じられないような思いで小さく叫んだ。男は、相変わらず、無邪気に笑う…

ヨシダ
6年前
2

ある日、切れて 3

           * 「俺が、半ホームレスなのは、風呂のない生活だけは、耐えられなかったからだよ。やっぱり人間は、顔や歯を綺麗にしたり、風呂に入ったりするか…

ヨシダ
6年前
3

ある日、切れて 2

「お腹すいてる?」  章は頷く。すると男は、立ち上がって「こっちにおいで」と歩いていく。その背中について歩く。公園の隣には、神社があった。無人のさびれた神社で、…

ヨシダ
6年前
4

ある日、切れて 1

 田中章は、会社でミスをした。  クレーム処理に追われ、取引先の担当に何度も頭を下げて、青い顔で帰社したが、今度は上司へ説明をしなくてはならない。  部長は気が短…

ヨシダ
6年前
8

テスト投稿

テスト投稿です。

ヨシダ
8年前
これから、猫と彼女と 2

これから、猫と彼女と 2

 少し先を歩いている主婦らしき女性のバッグから、財布が落ちた。主婦は気がついていない。悠太は、逡巡したままその財布を眺める。
(どうしよう)
 いや、どうしようじゃないだろう、と、もう一人の自分が突っ込みを入れる。悠太は慌てて財布を掴んで叫んだ。
「あのっ!」
 主婦は、びくりと体を震わせて振り返った。その様子に、声が大きすぎたと、ひどく反省をした。相手は不審者を見るような目だ。
「財布を、落と

もっとみる
これから、猫と彼女と 1

これから、猫と彼女と 1

「人間の価値って、どうやって決まると思う?」
 坂本悠太が、タリーズコーヒーでアイスコーヒーを飲んでいると、後ろからそんな台詞が聞こえてきた。悠太はその時、スマホで求人サイトを眺めていたが、つい、体を固くしてしまった。
「そりゃあ、やっぱり、どれだけ善いことをしたか、なんじゃない?」
 悠太の後ろで、そんな会話が続く。女性二人組の、その会話から意識を離したくなって、悠太はわざと音を立てて、ストロー

もっとみる
ある日、切れて 5【最終話】

ある日、切れて 5【最終話】

「気を悪くしたら、ごめん」
「……いえ。別に不思議じゃないですし」
 章は自嘲気味に笑う。
 遠くで、通学中の子供たちの声が聞こえる。昨日見たアニメの話。誰かが見つけた綺麗な小石の話。毎日の中にある、くだらないけど、楽しいものを語る言葉だ。
「この生活をする前に、俺にも恋人がいてだね」
 男は、ぼそりと呟く。
「男の?」
「そりゃあ、そうだ。ゲイだもん。年下だったんだけど、頑固な人でね。真面目で、

もっとみる
ある日、切れて 4

ある日、切れて 4

       *

「……そんなことまで、やってるんですか?」
 男が今、口にした言葉に、章は信じられないような思いで小さく叫んだ。男は、相変わらず、無邪気に笑う。
「わりと、面白いよ」
 章は、眩暈を覚えそうになった。いつもより食事が少ないせいかもしれないが、男は、章の予想を超えたところにいる。
「スマホはなんとなくわかりますが……アフェリエイト? 広告収入? それすでに、ホームレスじゃなくて、

もっとみる
ある日、切れて 3

ある日、切れて 3

           *

「俺が、半ホームレスなのは、風呂のない生活だけは、耐えられなかったからだよ。やっぱり人間は、顔や歯を綺麗にしたり、風呂に入ったりするからこそ、人間なんだと思うんだよ」
 次の日。男は章についてこい、と言う。久しぶりに朝日を浴びながら、歩いている。大通りの方で、通勤しているサラリーマンの姿が見えた。章は、男について歩きながら、それを横目で見ている。スーツなんて、どのくらい

もっとみる
ある日、切れて 2

ある日、切れて 2

「お腹すいてる?」
 章は頷く。すると男は、立ち上がって「こっちにおいで」と歩いていく。その背中について歩く。公園の隣には、神社があった。無人のさびれた神社で、男は拝殿の裏に入っていく。章は、戸惑いながらも、その背中についていった。毛布やペットボトルなどがあり、ホームレスの男は、ここで寝泊まりをしているようだった。
「ここが、住まいなんですか」
 章は男の隣に腰掛けて、そんな質問をする。
「ここは

もっとみる
ある日、切れて 1

ある日、切れて 1

 田中章は、会社でミスをした。
 クレーム処理に追われ、取引先の担当に何度も頭を下げて、青い顔で帰社したが、今度は上司へ説明をしなくてはならない。
 部長は気が短いうえに、元々口の悪い男で、しばらくの間、唇を噛んだまま、部長の罵倒を聞いていた。自分を否定する言葉に「おっしゃる通りです」と頷いた時、息の仕方を忘れていた。
 部長の文句を聞いている間、頭の奥で、何かが崩壊した。「ああ、もう駄目だな」と

もっとみる