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小説『衝撃の片想い』シンプル版

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大長編小説『衝撃の片想い』のシンプル版。読みやすく直しました。よろしくお願いします。
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記事一覧

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第五話】②

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第五話】②

【奇跡の光】カバーイラスト 藤沢奈緒



二階のテラス席から、倒れてる涼子の横に飛び降りた友哉。
階段から一段、降りたほどの軽い姿勢だった。
ガーデンが近くにある一階の脇道は、通りかかった人たちで騒ぎになっていたが、飛び降りてきた友哉が表情を変えずに着地したのを見た彼ら彼女らが、「え?」と口にしたまま絶句してしまっていた。
救急車を呼ぼうとした男性が思わずスマホから手を離したほどだ。
松本涼子

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第五話】①

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第五話】①

【帰ってきた夢、涼子】



友哉は、セックスの余韻で深く眠ってしまって起きない利恵を見て、スパの時間にアラームをセットして部屋から出た。
『先に帰る。イベントは間に合わないと思うけど、会場の方の六本木に行く。もし起きたらここに電話をして。スパの時間にアラームをセットしてある。それから部屋は二泊にしておいた。好きな時間に帰りなさい』
電話番号のメモを残し、五万円を置いていった。

【利恵がホテル

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】⑥

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】⑥

【北の海原】



午後六時。利恵が深い眠りに就いたのを確認し、ゆう子に通信してみる。リングを見ながら、話しかければいいのだった。通信を受けたゆう子は、
「今はだめです。もうすぐ帰るから、あとで部屋にきて。副作用なんですか? なんでもするから」
と言っただけで、通信を切った。
――なんでもするとかじゃなくてさ…。
嫉妬して怒っているなら、謝ろうと思っていた。
付き合っているわけじゃないから浮気と

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】⑤

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】⑤

【Rie&Marie】


『あらずじ』
自称未来からやってきた青年トキに、「作家、佐々木友哉の秘書になってほしい」と頼まれた国民的人気女優、奥原ゆう子は、持病の療養も兼ねて、一目惚れした佐々木友哉の秘書になる。
足の大ケガをしていた友哉は、それを治す代わりテロリストや凶悪犯と戦うようトキから言われ、しぶしぶ承諾。ゆう子とワルシャワに行き、テロリストを殺し逃亡した。
警視庁の警部補、桜井真一は、

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】④

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】④

【利恵の利は利用の利。本当の恋人、利恵】



立ち上がった友哉の手にはいつのまにか拳銃が握られていて、彼らはそれにまた驚いた。銃口はまっすぐ桜井の胸に向かっていて、その距離も一メートルほどだ。
「だ、誰なんだ、あんた。こんなことをして、ただで済むと思っているのか」
思わず後退りをした桜井の声は震えていた。部下たちは硬直し、動けなかった。
ゆう子が、
「う、撃たないよね」
と言う。声が震えていた

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】③

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】③

【ある男の運命が変わった日】



――道理で社長さんが落ち着きがないのは、通報したのか。
「運転している男を除くと四人。やっぱり逃げますか、男らしく」
――うーん…。嫌味な女に豹変してる。警察はワルシャワの件は知らないだろうから、架空口座の疑いで、任意で引っ張るつもりか。
――ワルシャワのレストランの時と同じか。判断力がなくなったんだ。こうしているうちに、トラブルに巻き込まれるんだ。それでいい

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】②

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】②

【弱くなった】



――ゆう子
左手のリングを見て話しかける。
「はい。見てます。すばる銀行の友哉さん」
すぐに返答がきた。
今日は父親の介護に行くと言って、「介護と言っても顔を見るだけだから、AZから銀行の様子を見る」と、ゆう子は言っていた。
通信の反応が早いが、お父さんの世話はしていないのだろうか、と友哉はふと思う。だが、気を取り直して、
『妙な奴はいないか』
と、真剣な口調で訊いた。

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】①

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】①

【すばる銀行の花、利恵】



日本最大手のすばる銀行本店の駐車場に、佐々木友哉がポルシェ718ボクスターを停めた。
――高い買い物をしたもんだ。
友哉はポルシェを買った直後に、公園で娘と遊んでいて、暴走する車に跳ねられた。
車の運転手は運転中に心不全で死んでいて、友哉は、公園から道に飛び出した娘の晴香を助けたのだった。
それ以来、一年以上、新作は書いていないから、生活が心配になっていた。
――

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】④

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】④

【ゆう子の母親】

●2023年11月18日誤字修正



ゆっくりと、唇を離したゆう子が、
「ちゃんとキスしたの初めてね」
そう言い、少し笑みを浮かばせると、また涙を滲ませた。
「よく泣く女だ。トキには聞かされてたけど、女優だからさすがの俺も芝居か本物の涙かわからん」
「あなたには絶対に勝てないわたしの武器」
「その武器。プラズマシールドでもプロテクトできない。怖すぎる」
「座布団上げましょう

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】③

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】③

【未来の戦争】



――松本涼子、二十歳。
アイドル歌手。
友哉と出会ったのは十二歳の時。
父親が、出版社の編集者で作家、佐々木友哉の担当。
十四歳の時に、学校の虐めに苦しみ拒食症、失語症になった涼子を、

友哉がそつなく助けた――

十六歳の時に、父親の承諾を得て友哉の恋人となる。
友哉はその頃、妻の律子とは離婚の話をしていた。
だが、高校二年生になった春。
涼子の前から佐々木友哉は消えた。

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】②

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】②

【透明な女――その名は涼子】



成田空港から横浜の自宅マンションに一回戻った友哉は、着替えや電気カミソリなど男の生活必需品だけを鞄に詰めて、新宿の奥原ゆう子のマシンョンに行った。
それにしても疲れがひどかった。旅行の疲れとは違い、まるで寿命がきたような恐怖を伴う疲れだ。
ーー極度の鬱だみたいだ。奥原がスキンシップをしてくれなかったら、どうなってたんだ。本当に女が傍にいないとまずい薬だったのか

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】①

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第三話】①

【人間の本質は偽善】



皇居と国会議事堂を監視するかのような場所にある警視庁。
公安部、外事四課。
「桜井警部補。ちょっと……」
課のデスクに座っていた桜井真一は、若い部下に呼ばれ、会議室の中に入った。
どこか蛙に似た顔の五十歳くらいの長身の男だ。
「佐々木時の件、何か分かったのか、大輔」
新米の伊藤大輔は、テーブルの上に数枚の写真を並べた。
「これが監視カメラに映っていた佐々木時」
「もう

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第二話】⑨

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第二話】⑨

【三年間の記憶】



サンドイッチがきた。
客室係りがコンシェルジュを兼ねているのか、ルームサービスを頼んだだけなのに、「日本人が好む食べ物を買ってきましょうか」と尋ねられた。ゆう子はやんわりとそれを断り、空港までのタクシーの件だけを告げた。
「結局、一泊?」
「ヤバいから帰りましょ」
「店の防犯カメラとかの映像は」
「今、消してる」
せかされたからか、ゆう子は真顔で友哉を睨み付け、AZを操作

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【第二話】⑧

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第二話】⑧

【本当の恋人】



「ルームサービスで部屋に入ってくる女性は、レベル1だから安心してください」
ゆう子はAZを触って、そう教えたが、こっそり『原因』ボタンで、友哉のPTSDについて調べていた。
――病院の水着の写真は誰のこと?
入力で「水着の写真」と入れて、さらにAZに問いかけるように訊く。口には出さない。頭の中で話しかける。
『相手の女性のプライバシーに関わることで答えられません』
――天井

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