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「鬼滅の刃」の謎 あるいは超越論的炭治郎

「鬼滅の刃」の謎 あるいは超越論的炭治郎

※ 本論は12月9日に開催されたゲンロンカフェのトークイベント「伊藤剛×斎藤環×さやわか 『鬼滅の刃』と少年マンガの新情勢」で述べたいくつかの論点の備忘録として書かれた。ネタバレについては一切配慮をしていないので、原作未読・アニメ未見の方には注意を促しておく。

「鬼滅の刃」のわかりやすさ

 「鬼滅の刃」(以下「鬼滅」)が空前のブームを巻き起こしている。アニメ「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は公

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エヴァンゲリオン -空虚からの同一化-

エヴァンゲリオン -空虚からの同一化-

 まずはっきりさせておこう、「自分探し」など徒労に過ぎない、ということを。  

精神分析、とりわけフロイト/ラカンの教えによれば、人は「語る存在」であるがゆえに、癒やされない欠如を抱えている。人は自らを語りつくす言葉をけっして手にすることはない。人は他者の言葉のネットワークの中に「存在させられる」、それだけだ。そしてここから、精神分析がはじまる。  「新世紀エヴァンゲリオン」(以下「エヴァ」

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Underdog

Underdog

アメリカ人は「underdog」ものが好きだ。

Underdogとは、「立場の弱い人、(いま現在)負けている人」。

小学館「ランダムハウス大辞典」は、underdogをこう定義している。

1 (ゲーム・試合などで)勝てそうもない人,勝ち目の薄い人;(争いなどの)敗者
2 ((通例 the underdog)) 社会的[政治的]不正の犠牲者;(生存競争の)敗残者,(人生の)負け犬.
3 弱い

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いつものTENET

いつものTENET

Amazonプライムで、『TENET』を観た。
うーん、プロットがややこしすぎて、よくわからないところがあちこちに。でもスッキリしないのはそのせいだけじゃなく。

上映後、うちの青年(26歳)と反省会。
以下、ネタバレはそんなにしていませんが残念な感想。お好きな方にはごめんなさい。豪華で面白い映画ではあるけど、「もっと」面白かったらよかったのになと、期待してしまった。

わたしの結論は、「過剰に複

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自分を罰し続ける人のかすかな救い。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

自分を罰し続ける人のかすかな救い。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

いまさらだけど『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016年)を観た。
 

とてもつらくて悲しい映画だ。胸ぐらをつかまれるほど美しく、じわじわしみる。

東海岸のじめじめした暗い冬を舞台に、深い悲嘆と、人の品性と強さと、ひっそりと目立たない優しさとつながりが、とても繊細なトーンで描かれている。

以下ネタバレ全開です。ちょっと前の映画だけど、とってもおすすめです。

(ネタバレ!)

主人公リ

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神なき国の聖人たち:HBO『チェルノブイリ』とカミュの『ペスト』

神なき国の聖人たち:HBO『チェルノブイリ』とカミュの『ペスト』

2019年制作のHBOミニシリーズ(全5回)『チェルノブイリ』を見た。


日本ではスター・チャンネルで昨年公開され、現在はAmazonのプライムビデオでストリーミング公開中。

すごいドラマだった。
2019年のエミー賞のリミテッド・シリーズ部門で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優・助演男優・助演女優賞を獲得しているのも当然だ。

ドキュメンタリーではなくて、事実にもとづいてはいるけれども、脚色さ

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攻殻機動隊の新作とアニメのランゲージ

攻殻機動隊の新作とアニメのランゲージ

Netflixの新しい『攻殻機動隊SAC_2045』を見た。

それなりには面白かったのだけど、『攻殻機動隊』として、この出来はどうなの?というがっかり感が半端なかった。

『攻殻機動隊』にはコアなファンが世界中にいるはずだし、映画『マトリックス』をはじめハリウッドにも多大な影響を与えてきた伝説のシリーズだけに、Netflixでのオリジナル作品デビューという舞台ならば!もっとこう、有無を言わさない

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暴力的な楽しみの終わり方:ウエストワールド

暴力的な楽しみの終わり方:ウエストワールド

気ままな暴力が君臨する世界
人を殺しても、いたぶっても罪に問われない世界があるとしたら、人はどうふるまうだろう?

HBOのドラマ(日本ではスターチャンネルで配信)『ウエストワールド』をシーズン1(2016年)からシーズン3(2020年)まで一気観して、先日、とにかくビジュアルすごすぎてひっくり返ったという感想を書いた。よろしければこちらからご笑覧ください。

このドラマの中心的キーワードのひとつ

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百聞は一見にしかずの罠:『ウエストワールド』の夢と現実

百聞は一見にしかずの罠:『ウエストワールド』の夢と現実

HBOのシリーズ『ウエストワールド』を3シーズン全部一気に見てしまった。どんだけ暇なのかがよくわかろうというものである。

人間そっくりのアンドロイドが「ホスト」として生活する世界「ウエストワールド」が、お金持ち用のテーマパークとして運営されていて、ゲストはそのホストたちを好きなように虐待したり強姦したり殺戮したりすることが許されている、という、えげつない設定のお話です。

設定にはつっこみどころ

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