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マリーはなぜ泣く

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パンクロッカーを夢見てライブ活動を続ける哲平。しかし、評価されたのは音楽ではなく曲と曲の合間に入れるMCだった。 大学卒業間近に、地方のラジオ局で出会った売れない芸人「大籠包」か… もっと読む
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記事一覧

マリーはなぜ泣く①~Train in Vain~

マリーはなぜ泣く①~Train in Vain~

 鬱屈した気持ちをマイクロフォンにぶつけ、パンクロックとして昇華させる。ステージに上がると、ファンは代弁者である俺に歓喜の声を送る。ステージの外では美女と戯れる。本当はそうなるはずだった。――そうなるはずだったのに、俺は今、自分より四十キロも重い女房に体当たりされ、ステージの上で吹っ飛ばされている。

「風が吹いても倒れるような体してるクセに、偉そうなこと言ってるんじゃないわよ!」

 他の芸人目

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マリーはなぜ泣く②~White Room~

マリーはなぜ泣く②~White Room~

前回のあらすじ:くそ田舎で育った主人公は大学進学で地方とはいえど、それなりの規模の県庁所在地に出たことにより、バンドマンとして大学デビューを画策する。しかし美しきビジュアルへの憧れも、美しき歌詞を愛する心も持ち合わせていなかったため、当時の流行と相容れず、メンバー探しは難航する。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 バ

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マリーはなぜ泣く③~The Wind Cries Mary~

マリーはなぜ泣く③~The Wind Cries Mary~

前回のあらすじ:苦戦するメンバー探しを経て、ベースと作曲にハゲなのにポニーテールという変わった髪形をした「伊東さん」。ドラムは「ジンジャー」と名付けたリズムマシン。ギターとボーカルを「俺」が担当するという、ロックなトリオ編成のバンドが誕生した。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

「やっぱり、マリーが泣いている」初ライブ

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マリーはなぜ泣く④~Hurricane~

マリーはなぜ泣く④~Hurricane~

前回のあらすじ:精力的なライブ活動をスタートさせたものの、客ウケの悪さに嫌気が差した主人公「俺」は、ある日MCで自嘲的なことを口走る。それがややウケしたので、調子に乗ってその後のライブではよく喋るようになる。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 ステージで喋るようになると、俺と伊東さんはやりがいを取り戻した。人を笑わせ

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マリーはなぜ泣く⑤~がんばれいぼやーるー~

マリーはなぜ泣く⑤~がんばれいぼやーるー~

前回のあらすじ:大学生でありながら、売れないバンドマンと地方局の深夜ラジオパーソナリティという三足のわらじを履く主人公「俺」は就職活動をサボっていた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 四回生の夏、大小籠包の二人に呼び出されて喫茶店で会った。三人ともアイスコーヒーを注文した。二人の間に、妙に改まった空気を感じた。それ

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マリーはなぜ泣く⑥~風に吹かれて~

マリーはなぜ泣く⑥~風に吹かれて~

前回のあらすじ:「普通の男の子に戻る」という小柄な小籠包の決意のもと、お笑いコンビ『大小籠包』は解散が決まっていた。そこで小籠包と同じように小柄な主人公へ後釜となる話しが回ってきた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 結局、話は一旦持って帰った。芸人になるつもりはなかったが、なんとなくキッパリと断ることが出来なかった

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マリーはなぜ泣く⑦~Take It Easy~

マリーはなぜ泣く⑦~Take It Easy~

前回のあらすじ:本来ならば就活をしなければいけないはずの主人公は、喫茶店で、冷コと紅茶のシフォンケーキを奢ってもらったことにより、大籠包の新しい相方として芸人になることに決める。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

「なにかと忙しいやろうから」という大籠包の気遣いで、初舞台の予定は俺が大学を卒業したあとに入れることにした

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マリーはなぜ泣く⑧~Who Would've Thought ~

マリーはなぜ泣く⑧~Who Would've Thought ~

前回のあらすじ:大学卒業間際に無事芸能プロダクション所属の芸人となった主人公に対し、相方の大籠包は大阪の街を案内しながら、「この街で暮らせるか」と問いかけた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 愛媛を去る日は意外と早く来た。その年の冬には、新しい芸人が派遣されてきた。このまま愛媛に残ってローカルな活動を続けることも出

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マリーはなぜ泣く⑨~Run-Around ~

マリーはなぜ泣く⑨~Run-Around ~

前回のあらすじ:住み慣れた愛媛を離れ拠点を大阪へ移した大小籠包。小籠包こと哲ちゃんは漫才もバンドも器用にこなすが、それだけでは足りない、爆発的な何かが必要だと焦る。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 二十八になったときに、傍からはどう見えていたか分からないが、自分では芸人としてもミュージシャンとしても、何かを作る人間

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マリーはなぜ泣く⑩~ 風の中のマリー~

マリーはなぜ泣く⑩~ 風の中のマリー~

前回のあらすじ:「なにか経験値の上がることをしたい」と思い迷走していた主人公哲ちゃんは、彼女と結婚するという行動に出る。そして彼女との出会いを回想しだした。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 店員が接客を放棄した代わりに、家庭用ゲーム機を置いてある店に入り、大籠包はビール。俺はコークハイを頼んだ。素知らぬ顔してレトロ

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マリーはなぜ泣く⑪~風流線~

マリーはなぜ泣く⑪~風流線~

 この頃には、年始に年賀状代わりの軽いチャットを交わすだけになっていた伊東さんから、十ヶ月ぶりにLINEが来た。「ジンジャーが死んだ」という内容だった。十四年も前、俺がはじめてバンドを組んだ当時から、すでに型遅れだったあのリズムマシンが、ウンともスンともいわなくなったらしい。むしろ今まで動いていたことが驚きだ。

 なんで今更そんな連絡をよこしたのか。俺は伊東さんの真意が分からなかった。瞬間的に思

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マリーはなぜ泣く⑫~Caravan~

マリーはなぜ泣く⑫~Caravan~

前回のあらすじ:はじめて組んだバンドはトリオ編成だった主人公のもとへ、当時ドラムを担当していた「ジンジャー」が死んだとの連絡が入る。追悼ライブをやろうとの誘いと共に、ベース担当だった伊東さんが作曲家として一旗あげている事実を知る。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 クソ田舎の実家へは、たまに顔を出しに帰っていたが、松

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マリーはなぜ泣く⑬~振り向くな~

マリーはなぜ泣く⑬~振り向くな~

前回のあらすじ:元バンド仲間ジンジャーの追悼ライブをやるため、主人公は相方大籠包と共に久しぶりに松山へ帰った。再会した旧友達の幸せそうな現状を見て、二人はそれぞれに取り残されたような感傷を持つ。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 しばらくギターを弾いてなかったことはすぐにバレた。そりゃそうだろう。自分でもビックリする

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マリーはなぜ泣く⑭~Get Lucky~

マリーはなぜ泣く⑭~Get Lucky~

前回のあらすじ:酔っ払って寝た先代の小籠包を、会計の済んでいないまま牛丼屋に置き捨てて、みんなで走って逃げた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/m1008d63186fe

 ホテルのロビーで、朝食バイキングに行く満里の姿が見えた。大籠包は、

「せっかくやから俺も少しだけ食っていくわ」と言った。
「今さっき牛丼食べてたやないけ」職業病ともいえる

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