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短編

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短編小説 【 溶けた煙 】

短編小説 【 溶けた煙 】

下北沢から和泉多摩川までは、小田急線で約20分ほど。お互いにバイトを終えた夜22時ごろ、私たちは行きつけの居酒屋で待ち合わせをし、明け方まで盃を交わした。朝が夜を飲み込むころには、駅に近づくにつれてスーツを着た者から楽器を背負った者まで、夜通し下北沢の街を彩っていた人々が電柱や道路と一体化し、下を向いて項垂れている。

「水、買ってあげたい。」
「たぶん、この量だとキリがないな。」
彼はそう言って

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短編小説【ナイト・グルーヴ】

短編小説【ナイト・グルーヴ】

東京駅。八重洲中央口を出て右手に、夜になると明るい照明で鮮やかに彩られる、大きな階段がある。
人々はみな、なんの目的もなく、あるいははっきりとした意思を持って、この階段に座っている。
とりわけ僕たちは、この子洒落た街を行き交う人々を見ながら、夜を無駄遣いするのが好きだった。

毎週金曜日のバイト終わり、僕と俊介は決まってここで落ち合う。
半年ほど前、お互いのバイト先の最寄り駅だったこともあり、家に

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短編小説【夏のいたずら】

短編小説【夏のいたずら】

しょうもない時間だった。

でも、どうしようもなく愛おしかった。

彼と一緒にコンビニに入る。

効いているような、いないような、体温に近い冷房が体にまとわりつく。

火照りをとってもらいたいのに、本当に役立たず。

「新発売だって」

彼が立ち止まる。

アイスキャンディーが目につく。

「これ、味違うのふたつ買おう」

私は小さく頷いて、彼からぶどう味のアイスキャンディーを受け取った。

彼は

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