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雑文

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主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
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#小説レビュー

『MONKEY vol.15』

★★★★★

 柴田元幸が責任編集長を務める雑誌MONKEYの最新号です。6月発売なのでわりと時間が経ってしまいましたが、内容がすばらしかったので触れずにはいられません。

 毎号興味深い特集と高い質が保たれている雑誌ですが、今号は群を抜いていました。隅から隅まで読んでしまうほどに。

 特集は「アメリカ短篇小説の黄金時代」です。

 村上春樹訳ジョン・チーヴァー5作品(+エッセイ)と柴田元幸訳の

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Ben Marcus 『stay down and take it』

★★★★☆

 ハーパーズやニューヨーカーなどに寄稿している作家ベン・マーカスの短篇。長篇短篇あわせてこれまで4冊出ているようですが、翻訳版はない模様。
 なお、AirMap社のCEOに同名の方がいるようですが、まったく関係はありません(あたりまえですね)。
 ニューヨーカー2018年5月28日号掲載。

 雨が降ると、すぐに浸水してしまうところ(陸地から切り離されたちょっとした人工の島みたいな場

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マリオ・バルガス=リョサ 『楽園への道』

★★★☆☆

 池澤夏樹=個人編集 世界文学全集Ⅰ-02。ペルーの作家バルガス=リョサが2003年に出した歴史小説です。

 19世紀に社会運動家として活躍したフローラ・トリスタンと、彼女の孫であるポスト印象派の画家ポール・ゴーギャンの二人を主軸にしています。
 一世代跨いでいるため、五十年ほど隔たりのある二人の生涯が、章ごとに交互に展開されていきます。

 ノンフィクションとのちがいがどこにある

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猫田道子 『うわさのベーコン』 後篇

☆☆☆☆☆

『うわさのベーコン』がただの下手な小説に留まらないのはどうしてなのでしょうか?

 ひとつは、とても丁寧に書かれていることです。

 作者は奇をてらうわけでもなく、また読み手を挑発したり、小説を揶揄する意図もなく、ただ素直に書いているようにみえます。自然に書いたらこうなった、という素朴さを感じます。
 です・ます調で書かれているのも、その語法がぴたりときたからでしょう。そうした点も、

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猫田道子 『うわさのベーコン』 前篇

☆☆☆☆☆

 2000年に太田出版から発売された短篇集。高橋源一郎がいろいろなところで絶賛していることもあり、手にとってみた次第です。

 えーと、正直いって、どういえばいいのか困ってしまいます。

 というのも、ふつうに考えるととても読むに耐えないものだからです。誤字脱字はもちろんのこと、言葉の誤用、文法の間違い、視点のブレのオンパレードです。基本はです・ます調ですけど、それすら統一されている

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Robert Coover 『Treatment』

★★☆☆☆

 御年86歳のロバート・クーヴァーの掌篇3篇です。
 ポストモダンの作家、寓話やメタフィクションの作家として知られているそうです。何冊も翻訳されていますが、僕は読んだことがありません。
 treatmentはおそらく「台本、シナリオ」という意味でしょう。
 ニューヨーカー2018年4月30日号掲載。

『Dark Spirit』
 舞台は撮影所です。美女と野獣の焼き直しのようなくだら

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Edwidge Danticat 『Without Inspection』

★★★☆☆

 ハイチ系アメリカ人であるエドウィージ・ダンティカの短篇。
 著者はハイチの首都ポルトープランスで生まれ、12歳のときにアメリカに移住したそうです。何冊か日本語に翻訳もされています。僕は知らなかったのですが、けっこう有名な作家なのですね。
 ニューヨーカー2018年5月14日号掲載。

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 物語は、建築中の高層ホテ

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ERNEST HEMINGWAY 『A FAREWELL TO ARMS』

★★★★☆

 Random Houseから出ているVintage Classicsシリーズで読みました。新潮文庫『武器よさらば』(高見浩訳)も同時に読んだので、読み終えるのにけっこう時間がかかりました。
 具体的には片手に一冊ずつ持ち、英文を何行か読んだあとで日本語訳を確認するという読み方です。最初は立ったまま電車で読むのが大変でしたけど、慣れるとなんとかなるものです。

 高見浩訳のヘミングウ

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J.D.サリンジャー 『ナイン・ストーリーズ』

★★★★☆

 2009年にヴィレッジブックスから出た新訳版(といっても、もう9年も前ですが)。訳者は柴田元幸。
 いまでは文庫化されています。僕は当時買ったハードカバーを引っぱりだしてきて再読しました。

 シンプルな装丁とやわらかいクリーム色が素敵です。サリンジャーは自著の装丁には滅法うるさかったようで、それは翻訳本でも変わりません。写真や絵を載せるのもだめだし、解説をつけるのもNGだそうです

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ジュディ・バドニッツ 『イースターエッグに降る雪』

★★☆☆☆

 ジュディ・バドニッツの長篇処女作。通算二冊目の作品。訳者は木村ふみえ。1999年刊行。翻訳版は2002年。

 祖母、母、娘、孫と四世代にわたるサーガというところが、トンミ・キンヌネンの『四人の交差点』を思い出しました。とはいえ、テイストはかなりちがいます(寒そうなところは似ていますけど)。

 前半部分の祖母イラーナが寒村から亡命してアメリカに行くまでと、子供が産まれ、孫が産まれ

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岸本佐知子 『気になる部分』/『ねにもつタイプ』/『なんらかの事情』

★★★☆☆

 翻訳者である岸本佐知子のエッセイ集。それぞれ2000年、2007年、2012年発刊。俗に言う岸本佐知子三部作です(言わないですね)。
 どれから読んでも同じテイスト、まるで金太郎アメのようです。タイトルが7文字なのはこだわりなのでしょうか? リズム?

 はたしてこれをエッセイと呼んでいいのか、いささか迷います。なんというか、自由すぎる……。
 ふつうはエッセイというと、作者の身辺

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ジュディ・バドニッツ 『空中スキップ』

★★★★☆

 1998年発刊のジュディ・バドニッツの処女作。翻訳版は2007年。岸本佐知子訳。23の短篇が収録されています。
 一つひとつが短めですが、ショートショートやサドン・フィクションとも毛色が違う摩訶不思議な短篇集です。

 3作目の『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』と比べると、良くも悪くも瑞々しさと軽さを感じさせる本作。良い点としては、さらりと読めるところでしょう。悪いところは、いささ

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ジュディ・バドニッツ 『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』

★★★★★

 2005年発表の三作目となる短篇集。翻訳版は2015年刊行。訳者は岸本佐知子。
 なんとも奇妙な味わいのする小説で、岸本佐知子が好きそうです、実に。

 絵本を思わせる寓意性に富んだ話、夢のように奇妙な状況、その反面、現実に準拠した展開と、独自の世界観をもった作家です。
 不穏な空気が漂いつつも恐怖というわかりやすい形には決して着地しない、寓話的ではあるけれど、寓話ではない(教訓を

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チャック・パラニューク 『インヴィジブル・モンスター』

★☆☆☆☆

 1999年に発刊。翻訳版は2003年にハヤカワから出ています。訳者はお馴染み池田真紀子。
 順番としては『サバイバー』の後に出版されていますが、実際は『ファイト・クラブ』よりも前に書かれたそうです。お蔵入りになっていたデビュー作ということみたいです。
 どうしてお蔵入りになっていたのかというと、出版社に持ちこんだところ、〝理解不能〟とリジェクトされたからだそうです……。

〝意味不

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