三谷 晶子

作家。東京出身、1979年生。ライター、キャバクラ勤務を経て『ろくでなし6TEEN』で…

三谷 晶子

作家。東京出身、1979年生。ライター、キャバクラ勤務を経て『ろくでなし6TEEN』で小説家デビュー。他、著作に『腹黒い11人の女』。2012年より加計呂麻島、2022年より奄美大島に移住。90年代の渋谷のクラブ(踊る方)を舞台にした小説『MIDNIGHT PARADE』公開中。

マガジン

  • 【小説】it's a beautiful place

    「雪の降らない場所に行きたい」   そう願って奄美群島・沖永良部島に三ヶ月のリゾートバイトに来た奈都。  美しい海、気の置けない仲間、新たに始まる恋。  けれど、奈都には、ひとつ、忘れられない思い出があった。  自分の夢を叶えることは誰かを傷つけるの?  綺麗な海があって、友達がいて、ほかに何が必要?   けれど、このまま、悔んでいることに蓋をしたままで本当にいいの?    せめぎ合う心、忘れたい傷、諦めきれない夢、逃げたい過去と見えない未来。   それらを抱えながら眺めても、いつだって、この島の海と空は突き抜けるように青い。  「花と鍾乳洞の島」沖永良部島で繰り広げられる、人生で一度きりの真夏の青春ストーリー。

  • 【コラム】腹黒い11人の女Spin-outコラム

    わたしの二作目の長編小説『腹黒い11人の女』のスピンアウトコラムです。以前、連載していたWebマガジンがなくなったので、noteに再掲載しました。主人公・ちえりの独り言、ちえりの周りの女性たち11人、閑話休題してもう一度、ちえりの独り言、ちえりの周りの男性たち10人、そして、書籍に入れることができなかった短編小説『二人、いつか稲穂が輝く場所で』を掲載しています。

  • 【小説】ママとガール

    2作目の出版になる予定だった、不登校の中学生とシングルマザーの話です。

  • 【小説】ろくでなし6TEEN

    2008年に出版した小説、『ろくでなし6TEEN』無料公開です。

  • 【小説】腹黒い11人の女

    「若い女じゃなくなったら、どうすればいいんだろうね」 結局、私も、 「私はこんな口だけの人間じゃない」と思いながらも、何もしていなかった。 現実に疲れ、夢に立ち向かう勇気を失った女の子が身を寄せる〝キャバクラ〟という名のモラトリアム。 『生きる事の辛さと喜び、人間の恐ろしさと暖かさ、深い孤独を救ってくれる夢と希望……いろんな時間が重なって、決して無駄な時間なんてないと強く感じさせてくれます』内田剛(三省堂書店) 『これは「キャラクターを演じる」という防御システムと闘い続ける女性たち(あなた)の物語だ』岡本貴也(脚本家) 『お金や夢のために男に微笑み、したたかに生きつつも「愛し、愛されたい」と願い、あがく彼女たちは女の目から見ても相当、アホだ。しかし、同時に愛しいと思う。(この気持ち、男にはわかるまい!)』フクシマナミコ(フリー編集者) 2012年に出版した長編小説の再掲載です。

最近の記事

  • 固定された記事

冒険と物語とライフストーリーは突然に。【祖父・三谷昭と新興俳句を巡る冒険:序章】

物語は、いつだって突然に始まる。 とりわけ、長い友人に「もう三谷の人生には何が起きても驚かない」と言われたことまであるわたしの人生では。 わたしの祖父は、三谷昭という。1978年12月24日に没した俳人である。 わたしの祖父は、日本最初の言論弾圧事件と言われる新興俳句弾圧事件(京大俳句事件、昭和俳句弾圧事件とも呼ばれている)の中枢の人物として知られている。 祖父が没した約一年後、1979年12月19日にわたしは生まれた。顔を合わせたことは無論ない。 わたしの両親は、わ

    • 【小説】it's a beautiful place[25]「お前、知名以外の夜明けの海を見たいって言ってただろ。だから」

      25  それから私と美優は昨日のお礼がてらクアージに行き、拓巳を呼び出してまた飲んだ。悠一も店のマスターから今日は私達の席にいながら仕事をしていいと言われ、大分飲んでいる。私は酒があまり美味しく感じられず、一時間たってもグラスの一杯も開けられないままだった。これから、龍之介と会うのだ。会いたかった。けれど、それと同じくらいに会うのが怖かった。あのまま物別れで終わってしまえれば。そう心の何処かで思っていた自分に気付く。そんな自分のずるさが嫌だった。  美優と悠一と拓巳はわ

      • 画家・アマラ和さんによるわたしの魂の光の絵。

        🔶 画家 アマラ和さんに2018年の誕生日から三ヶ月にわたり、オーダーで描いてもらったわたしの魂の光の絵の全文メッセージを公開します。 注:オーダーメイドの『光の絵』は現在受付休止中ですが、『光の絵』は販売中だそう。詳しくは和さんのページへ。 https://www.amarahart.com/ 🔶この絵は画家・アマラ和さんが私の魂が言っていることを読み解きつつ、三ヶ月に渡り描いてくれた私の魂の光の絵。 下の言葉は和さんが、わたしの魂から受け取った内容です。 描いて

        • 【小説】it's a beautiful place[あとがき]さあ、裸足で走れ

          2002年の夏だった。 わたしが奄美群島・沖永良部島に初めて降り立ったのは。 当時のわたしは22才で、19才の時に入った編集プロダクションを二年で退職して、友人がバーテンを務めるキャバクラでやる気のないキャバクラ嬢として働きつつたまにフリーランスでライターの仕事をしていた。 その時のことは、noteでも無料公開している半自伝的小説『腹黒い11人の女』に詳しい。 その頃、好きなバンドが沖縄でライブをやると言うので、友人と旅行に行った。そして、その時、東京の女友達が沖永良

        • 固定された記事

        冒険と物語とライフストーリーは突然に。【祖父・三谷昭と新興俳句を巡る冒険:序章】

        • 【小説】it's a beautiful place[25]「お前、知名以外の夜明けの海を見たいって言ってただろ。だから」

        • 画家・アマラ和さんによるわたしの魂の光の絵。

        • 【小説】it's a beautiful place[あとがき]さあ、裸足で走れ

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        • 【小説】it's a beautiful place
          29本
        • 【コラム】腹黒い11人の女Spin-outコラム
          42本
        • 【小説】ママとガール
          12本
        • 【小説】ろくでなし6TEEN
          36本
        • 【小説】腹黒い11人の女
          24本
        • 【小説】MIDNIGHT PARADE
          28本

        記事

          【小説】it's a beautiful place[28]宝物はきっと、この街にもある。

          28  島を出て一週間。東京に戻った私は人の多さと空の灰色の重苦しさにいまだに慣れないでいた。習慣とは恐ろしいものだ。信号が六つしかないあの島では歩く時に信号を気にする必要など全くなかった。それに慣れてしまったせいで、私は東京で何度も信号無視をし、車に轢かれそうになった。  大学へ復学の手続きをしに行った帰りだった。出かける前、ポストに入っていた美優の手紙をバッグに入れていた私は、渋谷のスクランブル交差点前のスターバックスでそれを読んだ。顔を上げると、信号が変わった直後だ

          【小説】it's a beautiful place[28]宝物はきっと、この街にもある。

          【小説】it's a beautiful place[27]一分一秒すら惜しむような気持ちで誰かを見詰め、ただそれだけでいいと思うこの気持ちが、今ここにあった。

          27  最後の日くらい、このアパートにいよう。そう言い合って私達は残っていた焼酎を飲み干し、冷蔵庫の余りものを食べ尽くした。朝方、クアージでの仕事を終えた悠一が拓巳と連れ立ってやって来て私達に大きなアルミホイルの包みを渡した。 「俺は仕込みで見送り行けないからさ。これ、大したもんじゃないけど餞別。うちのマスターが船の中で食べろってよ」  包みを開けてみると私達がクアージでいつも食べていた、茄子のチーズ焼きやほうれん草のサラダが入っていて、私達は悠一に抱きついてお礼を言

          【小説】it's a beautiful place[27]一分一秒すら惜しむような気持ちで誰かを見詰め、ただそれだけでいいと思うこの気持ちが、今ここにあった。

          【小説】it's a beautiful place[26]「男は女を見送るもんよ。逆はありえん」

          26  別れ際、アパートの前。バイバイ、と手を振ると、龍之介は窓を開け、手を伸ばしてきた。私はその手を握った。龍之介の大きな掌に包み込まれて私の手の骨はきしきしと鳴った。硬く熱い手のひらだった。 「手、荒れてるね」 「毎日ダンボールと戦ってるからな」 「ハンドクリーム塗らなきゃ」 「だな。またこんな風に言われちまうわ」  その時、私はこれから龍之介が誰か他の女の手を握る事を想像した。嫌だった。けれど、それを口に出せる訳がなかった。島人の結婚は早い。あと一、二年以内に龍

          【小説】it's a beautiful place[26]「男は女を見送るもんよ。逆はありえん」

          【小説】it's a beautiful place[24]東京はそれ以上という気持ちをいつも刺激する街だ。もっともっと、という気持ちを持たなければいけないような気分にさせる街だ。

          24  部屋に戻って少し寝てから起き出し、私達は荷物をまとめ始めた。ダンボール二箱分の衣類を持ってきても、結局よく来たのは一箱分にも満たなかった。自分がどれだけ余計なものを持っているかを知り、私は着なかった服はどんどん捨てた。洗剤やシャンプー、食器や鍋類などは次に来るアルバイトの子の為に置いていった。島の温度で劣化した化粧品類も捨てた。私はカラーボックスに置いてあった珊瑚を手に取った。 「それ、大事そうに置いてあったね。どうしたの?」  美優が私にそう聞いた。 「綺

          【小説】it's a beautiful place[24]東京はそれ以上という気持ちをいつも刺激する街だ。もっともっと、という気持ちを持たなければいけないような気分にさせる街だ。

          【小説】it's a beautiful place[23]「じゃあ、俺は東京から来た女二人の幸せ祈るわ」

          23  あっという間に一週間が過ぎ、私が島を立つ日はもう七日後に迫っていた。龍之介から、連絡は全くなかった。自分から連絡しようか何度も考えた。けれど、出来なかった。予定を変える事など、もう出来ない。出来ない癖にもう一度会いたいなど言える筈もなかった。  美優は、時折夜一人で泣いていた。私が店から帰ってくると泣き腫らした顔で、枕元にノートを広げて寝ている事もあった。今までの様々な事を思い出しているのだろう。ありったけ吐き出せばいい。そう思いながらも私は美優と拓巳を会わせる

          【小説】it's a beautiful place[23]「じゃあ、俺は東京から来た女二人の幸せ祈るわ」

          【小説】it's a beautiful place[22]島で知り合った男達は口を揃えてこう言う。「この島には何もない」。その言葉を聞く度に私はいつも思った。じゃあ、東京に何があるって言うんだろう。

          22  翌日。店の営業終了の十分前に、龍之介からの電話があった。もう知名にいるそうだ。私はその電話に躊躇いながらも頷き、化粧を直して外へと出た。  いつもの駐車場に龍之介は車を止めて待っていた。車に寄り掛かり、足をぶらつかせている龍之介は、私を見るなりぱっと顔を輝かせた。大股で私に近付いてくる。 「来てくれんかと思った」 「どうして」 「昨日、何か嫌そうだったから」 「そんな事ない」  今日は車だから酒が飲めん、と言って龍之介はジュースを買った。奈都は何、と聞かれ、

          【小説】it's a beautiful place[22]島で知り合った男達は口を揃えてこう言う。「この島には何もない」。その言葉を聞く度に私はいつも思った。じゃあ、東京に何があるって言うんだろう。

          【小説】it's a beautiful place[21]この島にいれば容易にそんな暮らしが手に入る。永遠に海と空を眺めながら、一人の誰かを見詰める暮らし。

          21  アパートのドアをそっと閉めて、私は和泊の町へと歩き出した。タクシーはこの朝方に走っている筈もない。私はどうしようかと思いながらとぼとぼと海岸沿いの道を歩いた。老夫婦が朝の日課なのかウォーキングをしていた。二人、同じように皺くちゃになった顔で笑い合っては、手を大きく振り歩いていく。きっと、彼らはこれから朝食を二人で食べ、夫は仕事をし、妻は家事をして、夕方を待つのだろう。そして戻ってきた夫に妻は食事を出し、軽く晩酌をして、今日も一日が終わったと、海に沈む夕陽を眺めなが

          【小説】it's a beautiful place[21]この島にいれば容易にそんな暮らしが手に入る。永遠に海と空を眺めながら、一人の誰かを見詰める暮らし。

          【小説】it's a beautiful place[20]見ないようにしてきたのは、それを見たらもうどうしようもなくなってしまうからだ。それを知ったら後戻りは出来ないからだ。

          20  目覚めると美優は既に起きていた。買出しに行ってきたようで台所に野菜が積みあがっている。どうしたのと聞くと久しぶりに料理でも作ろうかと思って、と美優は答えた。奈都ちゃんも食べる、と聞かれ、私は頷く。美優は笑って待っててね、と言って台所に立った。 「店にはもう出ないけど、寮には契約終了までいていいってオーナーに言われた。だから、私、奈都ちゃんが帰るまでこの島にいるよ」  これからどうする、と私が聞く前に美優は答えた。どうやら私が寝ている間に美優はオーナーに交渉をし

          【小説】it's a beautiful place[20]見ないようにしてきたのは、それを見たらもうどうしようもなくなってしまうからだ。それを知ったら後戻りは出来ないからだ。

          【小説】it's a beautiful place[19]例え汚れたってまた洗えばいいのだ。洗って乾かしてぱんぱんと叩いて布を伸ばして、あの管理人が作ってくれた物干しに干せばいい。

          19  急いで出勤の準備をして、私は店へと出た。美優はもうオーナーに店へは出ないと伝えていた。私は一人でLINDAへ出勤した。サリさんや他のスタッフは細かい事情は知らないようで、美優ちゃん残念だ、と私に言った。私は曖昧に笑い、その言葉を流した。店は人が一人減ったというのに盛況だった。私はほとんど寝ていない体をいつもより多く飲んだ酒で無理矢理に誤魔化して仕事をした。その日は何だか私にとっては苦手な客が多くて、私は更に疲れてしまった。疲れていると酔いが回るのが早い。随分と酔っ

          【小説】it's a beautiful place[19]例え汚れたってまた洗えばいいのだ。洗って乾かしてぱんぱんと叩いて布を伸ばして、あの管理人が作ってくれた物干しに干せばいい。

          【小説】it's a beautiful place[18]そう、私も拓巳も許したい筈だ。全部、嘘になどしたくはない筈だ。

          18  雪が綺麗だと思った事など一度もなかった。自分が汚れたものだと思い知らせるようなあの白さが嫌だった。  長靴を履いて学校までの道を歩く自分の足先を今でも覚えている。学校までは徒歩で普段は三十分。しかし、雪が降るとその倍以上時間がかかった。道路の横に積み上げられた雪は壁のように聳え立っている。灰色の雲からひたすらに降る雪で視界は埋め尽くされ、水気を吸った荷物が重かった。私がいた集落では私と同年齢の子供は一人もいなかったから、私はいつも一人で学校まで向かった。あの北風

          【小説】it's a beautiful place[18]そう、私も拓巳も許したい筈だ。全部、嘘になどしたくはない筈だ。

          【小説】it's a beautiful place[17]島にいる間は自分が綺麗になれたつもりでいた。でも結局私はこうなんだって。

          17  時刻は午後三時を迎えていた。風呂にも入っていなければ全く化粧もせず、食事もしていなかった私は、そろそろ部屋に戻らないと店への出勤準備に間に合いそうになかった。まだ美優と顔を合わせたくはなかったが、私は仕方なくアパートへと戻った。  部屋の空気は暗く沈んでいた。私はそっとドアを開け、美優がいるかどうかを確かめた。美優は何処かへ出かけているようだ。ほっとしながら私は部屋へ入った。西側の窓から遠く夕陽が差し込んでいた。私は冷蔵庫から麦茶を出して飲んだ。昨日使いっぱなし

          【小説】it's a beautiful place[17]島にいる間は自分が綺麗になれたつもりでいた。でも結局私はこうなんだって。

          【小説】it's a beautiful place[16]自分と付き合う事が夢みたいだと言ってくれた男に、何故そんな風に言えるのだろう。

          16  夜も八時を過ぎた頃、店の電話が鳴った。サリさんが電話を取るとそれは美優からで、今日は体調を崩したので休むとの事だった。今日、具合悪そうだった? とサリさんに聞かれ、私は別行動だったのでわからないと告げた。何処かの打ち上げで盛り上がって店に出勤するのが嫌になって仮病でも使ったのだろうか。たまにはそういう事もあるだろう。私はそう思って、サリさんが話す知名の運動会の様子に耳を傾けた。  打ち上げから流れてきた客で店は盛況だった。私達はばたばたと動き回り、店は営業終了す

          【小説】it's a beautiful place[16]自分と付き合う事が夢みたいだと言ってくれた男に、何故そんな風に言えるのだろう。