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母との暮らし

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今、一緒にいることの奇跡

今、一緒にいることの奇跡

95歳の母の1日には決まりというものがない。気のむくまま起きて寝て食べて、食べるとすぐ眠くなり、昼まで寝ていたかと思うと10分、20分おきに起きたりまた寝たりを繰り返すこともある。そっと観察していると何やら小さな生き物が生息しているかのようで….. それは可愛くもあり、時には不気味にも見えたりする。

朝は、出勤前の長女が1時間ほど相手になり、軽いおやつを食べさせながら繋がらない会話をする。私はそ

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引越しを終えて.....

引越しを終えて.....

あざみの花はスコットランドのシンボルなのだと云う、野趣に溢れて、その色も装いも彼の地によく似合う花だと思う。ギザギザの葉も茎も触るともの凄く痛い。あざみは、わーっ、可愛いと手を伸ばして詰むような花ではない、楚々としながら凛とした意志を感じる花である。本当は野で眺めたい花だけれど、花束にして竹の籠に投げ込んだら清々しい初夏を運んできてくれた。

次女のすぐ近くに引越しをした。母には前々から伝えていた

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ふたたびの海

ふたたびの海

昨年の秋以来、「また貝殻を拾いに行きたい!」と言い続け、暖かくなるのを待って、大潮の日を選んで……. 4月の唐津。同じホテル、同じ海。部屋からの眺めに浸り、早朝から浜を歩いて貝殻拾い。母と私、二人の孫と女4人の旅。母の頭の中でこれだけは忘れない、絶対に覚えていたいこと………..孫を育てながら一緒に過ごした葉山での日々。だから海の景色が呼び起こす幸せがあるのだろう。前回は嬉しいと言って泣いたんだった

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謹賀新年_海を見に_

謹賀新年_海を見に_

12月初めに母がコロナに罹った。変な咳をしたのですぐにPCR検査、そして陽性。その3日後に私が感染し、なんといちばん人との接触が多い長女は陰性……自宅待機の間ずっと看病をしてくれた。母は病院に行く体力はないので市販の薬で、私はかかりつけの発熱外来で手早く検査をしてもらい薬をもらう。その薬が母のものとほぼ変わらず、娘の知識と手際良さに驚いた。近所に住む次女は、自分がうつしたのかもと心配するもこれまた

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昨日の海.....唐津の海

昨日の海.....唐津の海

「昨日行った海はどこなの?」と94歳の母。「唐津!」と答える私。この会話が10分ごとに繰り返される。車椅子を使いこなすための小旅行。普通に電車に乗り、タクシーに乗り、車椅子の母とどこまで行けるのか? 荷物はどれだけ持っていく?体力は?………そんなことを試すための小さな旅をしてから、もう一週間以上も経つのに............ 同じことを繰り返すのは忘れたくないから、その確認をしているのだと娘

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病院難民

病院難民

世の中にはどうしてこんなにたくさん病院があるのだろう。そしてその数ある病院の中で安心できる病院がなんと少ないのだろう。母が少しでも歩く機会を持てるようにシルバーカーで行ける所……その条件下にも病院はたくさんある。内科の主治医を探そうとして今、苦戦中である。

綺麗な外観、素敵なカフェ完備、看護士さんはいい感じなのに、どうせ年寄りなんだからこんなものでいいでしょう、と言わんばかりの雰囲気を醸し出す先

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遂に車椅子....

遂に車椅子....

あーあ、何だかなァ〜……..で車椅子登場。少しでも歩けるようにとシルバーカーで出掛けていたのだけれど、歩きたくなくなると放つ母の暴言に耐えかねて先日、散歩途中に歩きながら契約業者さんに「もう無理なんです。歩くのは諦めて車椅子にします!」と勢いで電話。.......「もう私たちが楽しいと思う事をしないとダメなんだよ。ストレスを減らそう。」と言った娘の辛そうな顔で決心がついた。……… 後からケアマネさ

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新しいMacBook_pro!

新しいMacBook_pro!

2011年7月に横浜のヨドバシカメラで、MacBook_proを買った。初めてのノートパソコン。軽くてかっこいいと上機嫌で小脇に抱え、28日に福岡へ引越した。今風に言えば「移住」したのである。私はこの移動が「引越」なのか「移住」なのか、その違いが今もよく分からない。東京には戻らない覚悟で、仕事を捨てて故郷を離れたというのは移住になるのだろうか? 理由は原発事故。当時の東京は、キエフより放射線量が高

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迎春萬歳!

迎春萬歳!

朝7時、長女が母に話し掛けている。「おばあちゃん、骨粗しょう症の治療のために足の運動をしないといけないんだけど、整形外科の先生が今日、リハビリに行って欲しいんだって。」.......... 「あらっ、じゃあ支度しなくちゃ!」 整形外科の先生特別に紹介してくれた所、と“特別”を強調する。

朝7時に突然、こんなことを言われている不自然には思いが及んでいない。実は昨夜、今日のデイサービスのキャンセルを

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朝、3時間の自由

朝、3時間の自由

デイサービスに行かないと言い出してから、母の起床時間は極めて遅くなった。10時半から11時くらいの間にベッドに起き上がっている。さすがに空腹感があるのだろう、ご飯食べよう、と声を掛けると今や母の陣地と化してしまった介護ベッドを降りて来る。今までは口癖の「おなか空いてない、食べられるかしら?」だったのだけれど。

前向きに考えることにした。デイサービスに送り出すにはまず、なだめて納得させて着替えさせ

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2021年・元旦

2021年・元旦

年末、息子宅から我家に来ていた92歳の母が、言葉のはずみでいたく機嫌を悪くして夜中に帰ると言い出す騒ぎ。といってもひとりでは無理なので、タクシーで往復して送り届けた。そして大晦日、例年通りに一緒にすごそうと、まずは「夜中に帰してごめんね。」と謝ってことを収めようとしたのだが、何を言っても頑として聞かず結果、元旦をひとりで過ごすハメに自らを追い込んだ母。弟夫婦は元旦には義妹の実家で過ごすため、御節と

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歩けない!は演技なのか?

歩けない!は演技なのか?

ベランダ出入り口に、段差を乗り越えるために手すりを設置してある。本格的な寒さの前触れなのかつかの間の日差しの中で、母とベランダでひなたぼっこをする。ふらふらする身体を支えながら、やっと椅子に座わらせることができた。ベランダに鉢植えを置けば喜んで世話をするかもしれない、という思惑は見事に外れ、眺めるだけでただ毎日、水が足りないと催促する。大丈夫、足りているよ、と繰り替えす。でも「綺麗ねぇ.....」

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シルバーカーで完走!

シルバーカーで完走!

風もなく暖かい日、あまりにもお天気が良いのでさりげなく「おかあさん、散歩に出掛けてみない?」........その気になった。それから着替えをして、マスクをして、玄関前にシルバーカーを用意する、それだけでも一手間であるが、その気になっている間に急がなきゃ。行く先は告げなかった。まずは、そこまでは歩けない、歩けるかしらの問答が繰り返されるからだ。

神社まで行ってみよう。そしてさりげなくその先の橋を渡

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たとえアルツハイマーになろうとも

たとえアルツハイマーになろうとも

新年にあたり『自分の老後は自分で設計する』なんて宣言してみたけれど、そんなことが可能なのだろうか? webでアルツハイマーの記事を読んでいたら、なんと自分に重なることが多い事か。で、猛烈に不安になって母の診察の前に自分の予約を入れて、「もの忘れ外来」を受診した。なぜかと言うと、認知症はじわじわと20年くらい掛かって発症する場合もあると書かれていたからだ。

先生が不信そうに「どうしたんですか?」と

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