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パラレルワールド

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いつか見た白昼夢だったり、記憶の欠片だったり。 どこまでが現実なのかわからないもうひとつの世界。
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記事一覧

ヒトラーの髭

ヒトラーの髭

私は、ある方に仕えていました。彼は独裁者だったので、場には妙な緊張感があり、誰もがみな、彼の機嫌を損ねないよう、最新の注意を払っていました。
ふと、出かける支度をしている彼と目が合った私は、彼を讃える例の挨拶をしておきました。それを見た彼は満足そうに頷きます。
急に私は、 彼に呼ばれ、彼の髭の手入れをするように命じられたのです。髭と言えば、彼のトレードマークとも言える大事なところ。剃り損ねたら、一

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差別と偏見と想像力の欠如

意志の力でなんとかなるとか言う人は信用ならん。

貴様の意志の力と、私の意志の力は違うし、何よりそんなものでコントロールしようもないものもあることを少しは勉強した方がいい。

コントロール出来ずに苦しんでいるのは、他ならぬ本人だと言うことを。
なんとかなるなら、酒やクスリに溺れることもないだろうし、自分を傷付けることでバランスを取ろうとすることもない。
もがき苦しんでいるのは、他ならぬ本人なのだか

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孤独。

寂しさを紛らすために僕は本を読んだんだ。
めくったページの数は寂しさの分だけ増えていく。

日が暮れて、いつもより冷えた部屋は、
君のいない分温度が低いのだろう。

冷えた身体を温めるために、温かい食事を用意してみたけれど、
一緒に食べる君がいないだけで、
こんなに味気ないとは思わなかった。

ひとりごとが増えたのは、静寂を打ち消したいからかもしれない。

そうか。
これが孤独って言うものなんだな

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夢を見た。

赤い車に乗って、どこかに向かっている。
助手席には若い女性がいて、道案内をしてくれるのだが、どうにも案内が下手と言うか、タイミングが悪く、交差点ギリギリで、

「あ、この信号右です」

などと言われて、慌てて進路を変えなければならず、運転しながらヒヤヒヤする。

「あの、もう少し早めに案内してもらえませんか」

と言うと、見知らぬ女性は明るい笑顔で、

「そうですよねー、危ないですよねー」

と言

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タイトル未定

「たまにさ、叫びだしたくなることない?」

「うーん…俺はないかな」

「へー。あんたってやっぱノー天気なんだわ」

「なんだよ、人をバカにして」

「とにかくさ、人混みのなかとか歩いてると、なんか、急にわーっ!て叫びたくなるんだよね」

「それは世の中に不満があるとかそう言うこと?」

「不満て言うか…なんだろう、無性にイライラするんだよ。どいつもこいつもなんにも悩みないような顔して楽しそうにし

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悪夢。

ずっと、うなされていた。
これは夢だ、現実であるわけない。これが現実ならば、もう生きるのはイヤだ。
夢ならば覚めて。

夢の中で、強く願った瞬間、私は目覚めた。
ふと、まぶたに触れると、涙で濡れていた。泣いていた記憶はないのに。

「やっぱり夢だったんだ」

目覚めた瞬間に、夢の内容は忘れてしまったけれど。 目覚めた現実が、夢よりマシかと言えばそんなことはなかった。
#超短編小説

そしてなにもかも失った

そしてなにもかも失った

「お達者で」

もうずいぶん前に使うのを止めた、ショートメッセージを開いた。
そこに残されたのは、あの人から送られた最後のメッセージだった。
あの日から私の世界の全ては色を失ってしまった。自分がしてきたことがどんなに酷いことだったのか、あの人が去ってしまってからようやく気付いたのだ。
色を失った世界のなかで、私は何事もなかったかのように、日常を送って、笑ったり、泣いたり、怒ったり、息をして、そして

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ティースプーンの思い出

私が中学生の頃、少子化となった今の時代では考えられないくらい児童数は多く、一学年が10数クラスと言うのが普通だった。
学年が変わるとクラス替えがあり、そうなると人数が多いからガラッとクラスのメンバーが変わってしまい、知らない子ばかりのクラスになってしまった。元来の人見知りもあって、なかなかクラスに馴染めずにいたところに、積極的に声をかけてきてくれたのがヒロミだった。
ヒロミは男女の分け隔てなく付き

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再びの儚いひと。

会いたい、会いたい、会いたい…
彼ならば、無条件で私を受け止めてくれる。何もかもをありのままで受け入れてくれる。だから、私は辛く悲しい時に無償に彼に会いたくなるのだ。
会いたい…でも、どうやって?
私は彼が今どこにいるのか、今何をしているのか、何も知らない。ましてやどうしたら彼に会えるのかなんて、見当もつかない。

それでも、会いたい。ほんの一瞬でもいいから。

気がつくと、誰かが私の髪を撫でてい

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メビウスの輪

「物事は全て二面性があるんだ」

「短所が裏がえせば長所になるように?」

「そうそう。同じ人物でもAさんから見た評価とBさんから見た評価が違うことがあるよね?」

「受け取る相手によっても違ってくるってことだね」

「そうだね。親密度や自分に対する恩恵やその他諸々の損得や何かで判断する事もあるだろうし、そのどちらが正しいって事でもないと思うんだ」

「なるほどね」

「全ての伝聞は客観的にはなり

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トラウマ。

雨の夜、ネコを拾った。
びしょ濡れの身体を震わせて、小さく丸まって、抱き上げようとしたら牙を剥き、手を引っ掻いた。

「ッつ・・・」

手の甲に一筋、傷ができ、血が滲んだ。
ネコは怯えた目で、それでも精一杯の強がりでこちらを睨み付けている。

「怖がるなよ。何も悪いことはしないからさ」

血の滲んだ手を差し伸べて、もう一度抱き上げようとしたら、低い唸り声は上げているものの、今度は抵抗しなかった。

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儚いひと。

あなたがいないと私はダメになる。これからどうすればいいのかすら、自分ひとりでは決められない。

そう泣きじゃくる私は、彼がそばにいるのを知っている。
彼は私の涙に戸惑い、おろおろしているのを知って、私はますます泣きじゃくる。

お願い、どこにも行かないで。そばにいて、行かないで。

彼は戸惑いながらそっと私の髪に触れる。

大丈夫。今までだってずっと君は自分でちゃんとやって来たじゃないか。僕はそれ

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心のカタチ。

大切なものほど目には見えないことが多いんだよ、と、あの人は言った。

例えば心、とかね、目には見えないけれどとても大切だよね?、そう言うとあの人はポケットから小さな瓶を取り出した。
瓶の中には、無色透明な液体が入っていて、光を反射してキラキラと揺らめいていた。

これはね、心の形が見えるようになる魔法のクスリなんだ、と言いながらあの人は私の目の前で瓶を揺らす。
中の液体は無色透明だと思ったが、良く

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パンを売る少女。

わたしはパン売りの少女。

来る日も来る日も焼きたてのパンを並べては売る。

街にはパン屋はここにしかなかったから、毎日たくさんのお客さんが来て、焼きたてのパンを出しても出しても終わりなく買っていく。

焼きたてのパンは柔らかい。積み重ねればあっという間にぺちゃんこになる。

そんなことはわかっていても、並べる暇もないくらいお客さんが次から次へとやってきては買っていくものだから、

「さっさとしろ

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