ライターびんこ/長谷川敏子

東京在住のライター。得意分野は沖縄・酒・食・ビジネス系のインタビュー取材。書く&司会も…

ライターびんこ/長谷川敏子

東京在住のライター。得意分野は沖縄・酒・食・ビジネス系のインタビュー取材。書く&司会も。山形→沖縄のテレビ&ラジオ局→東京。noteのテーマは絞らずに書いてます。仕事例はHPに記載。ご依頼お待ちしております。 https://www.binco-hasegawa.jp/

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料理と原稿

「グゥ~」 夕方、お腹が鳴った。その日、私は朝から原稿を書いていて、午後1時ごろ、休憩も兼ねてお昼ごはんを食べた。 それにもかかわらず、私のお腹が鳴ったのである…

ひとめぼれマジック

洋服でも靴でも帽子でも、お店で見て「ステキ!」と思ったら、買ってしまうことがある(ただし、値段がそれほど高くない場合に限る)。 そして、家に帰って、改めて身につ…

ワクのある食卓

念願の木製トレイを買った。 木製トレイ、もしくはおぼん。白木の板にワクのついた、正方形のトレイである。 「念願の」というのには、理由がある。実はここ数年、探して…

駅のきしめん

駅のホームに降り立つと、お出汁の香りがする。 新幹線の名古屋駅である。 だから私は、名古屋に出張があると、その日の朝食を抜く。もしくは、東京駅で駅弁を買わずに新…

残りものうどん

今年の私は「考えすぎない」を意識している。 考えすぎずに、動く。動いてみると、次にやることが見つかる。 先日の寒い朝、朝ごはんの用意をするのがおっくうだった。け…

食いしん坊の段取り

今夜は冷えるから、お鍋にしよう。 でも、その前に、お風呂であったまりたい。お風呂であったまってから、アツアツの鍋をつつき、冷たい日本酒を飲みたい。 それを叶える…

会う、ということ。

私はめったに泣かない。でも、その日は涙が止まらなかった。 知り合いが急逝したことを知った。 その人は、とある酒場の店主で、おもしろいことが大好きな人だった。自分…

和風と洋風のあいだ

ある日のお昼どきのことである。 その日も原稿を書いていて、締め切りが近かった。外食する気にもなれないし、そんな時間もない。家にあるもので済ませようと、冷蔵庫を開…

山道を歩く

久しぶりに高尾山に登ろう、と思った。 高尾山の山頂へ行くには、ケーブルカーに乗り、舗装された道を歩いて、短時間でラクに行ける方法もある。 恋人や家族と、クラスメ…

「お客さまの声」を取材します

今回は珍しく(?)私の仕事の話をします。 ビジネス雑誌の取材などをしているので、全国あちこちへ行くため、飛行機に乗ることもあります。 飛行機に乗って目的地へ着い…

とりわけおいしいビールを飲むために

「ぷは~っ!」 居酒屋のカウンターで最初の1杯を飲みながら、私はふと、思った。 忙しくしている方が、いろいろはかどるなぁ。 コロナ禍でそれを忘れていたのかもしれ…

仕方ない選択

その選択は「仕方なく」だった。 仕方なく選択したことで、早起きが苦手な私が週に何度か、午前5時30分発の電車に乗ることになった。 向かう場所は、早朝のアルバイト先…

マグロの刺身と寡黙な男

その日、私は仕事でイヤなことがあった。 イヤなことをそのまま引きずって家に帰れば、そのイヤなことが自分の中で増幅される。それを、これまでの経験から知っていた。 …

うどんとコントラバス

コツコツ努力する、ということが苦手なせいか、私は楽器が弾けない。 子どもの頃、親にムリをいってエレクトーンを習いに行ったことがあるが、何度かレッスンに通った後、…

午前5時のコーヒー

私は早起きが苦手だ。 しかしこのところ、週に何度か、午前5時前にコーヒーを淹れている。 理由は、早朝のアルバイトを始めたからである。 当初は、ライターとしての仕…

縁と映画と卵焼き

シャカシャカ、シャカシャカ……ジュワ~。 映画館の大きなスクリーンに映し出されたのは、沖縄のおばあが卵焼きを焼くシーンだった。それはきれいな楕円形のオムレツでは…

料理と原稿

料理と原稿

「グゥ~」

夕方、お腹が鳴った。その日、私は朝から原稿を書いていて、午後1時ごろ、休憩も兼ねてお昼ごはんを食べた。

それにもかかわらず、私のお腹が鳴ったのである。さっき、ちゃんと食べたのに。

自分のお腹が鳴ったせいで、自分が空腹であることに気づかされた。すると、もうダメだ。夕食のことしか考えられない。

冷蔵庫に、豚肉があったなぁ。

あ、スーパーで半額になっていたもやし、買ったのに使ってな

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ひとめぼれマジック

ひとめぼれマジック

洋服でも靴でも帽子でも、お店で見て「ステキ!」と思ったら、買ってしまうことがある(ただし、値段がそれほど高くない場合に限る)。

そして、家に帰って、改めて身につけてみると、実はそれほど似合っていなかったりする。似合っていないというか、手持ちの洋服などと合うものがなく、結局、買った日以外に身につけるタイミングを失って、タンスの肥やしになる。

そうやって買ってしまう理由は「ひとめぼれ」なのである。

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ワクのある食卓

ワクのある食卓

念願の木製トレイを買った。

木製トレイ、もしくはおぼん。白木の板にワクのついた、正方形のトレイである。

「念願の」というのには、理由がある。実はここ数年、探していたのである。ひとり暮らしの私にぴったりのトレイを。

探し始めたきっかけは、SNSだった。

私は食いしん坊なので、料理人の方や料理ライターの方のSNSをフォローして、彼らの投稿を拝見している。「おいしそうだなぁ」と眺めるだけのときも

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駅のきしめん

駅のきしめん

駅のホームに降り立つと、お出汁の香りがする。

新幹線の名古屋駅である。

だから私は、名古屋に出張があると、その日の朝食を抜く。もしくは、東京駅で駅弁を買わずに新幹線に乗る。

あの、駅のホームにあるきしめんを食べるためである。

名古屋への出張は、たいてい日帰りである。駅のホームで、立ち食いのきしめんを食べてから、改札を抜け、仕事を済ませて、再び駅に来る。そして、帰りの新幹線に乗る。それだけだ

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残りものうどん

残りものうどん

今年の私は「考えすぎない」を意識している。

考えすぎずに、動く。動いてみると、次にやることが見つかる。

先日の寒い朝、朝ごはんの用意をするのがおっくうだった。けれども、ハラは減っている。どうしようかと思って、とりあえず、キッチンへ行った。

ガスコンロの上に、お鍋がひとつ。フタをしたまま、置いてあった。

「これ、なんだったっけ?」と思いながら、フタを開けると、前の晩に自分でつくった煮物の残り

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食いしん坊の段取り

食いしん坊の段取り

今夜は冷えるから、お鍋にしよう。

でも、その前に、お風呂であったまりたい。お風呂であったまってから、アツアツの鍋をつつき、冷たい日本酒を飲みたい。

それを叶えるには、どうするか。食いしん坊の私は、考える。

わが家の冷蔵庫にある材料は、スーパーの特売日に買った白菜と、家飲みのときにおつまみにしようと思っていたベーコンである。それ以外にもあるにはあるのだが、どれもお鍋の材料にはふさわしくない。

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会う、ということ。

会う、ということ。

私はめったに泣かない。でも、その日は涙が止まらなかった。

知り合いが急逝したことを知った。

その人は、とある酒場の店主で、おもしろいことが大好きな人だった。自分の店でユニークなイベントを開いては、人と人をつなぐのが好きだった。

私は年に数回しかお邪魔したことがなく、店主のことはそれほど深く知ってはいなかった。

けれども、涙が止まらなかった。

人って、こんなにもあっけなく、死んじゃうものな

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和風と洋風のあいだ

和風と洋風のあいだ

ある日のお昼どきのことである。

その日も原稿を書いていて、締め切りが近かった。外食する気にもなれないし、そんな時間もない。家にあるもので済ませようと、冷蔵庫を開けた。

見事に、なにもなかった。

正確には、お昼ごはんになりそうなものが、なにもなかった。冷蔵庫に入っていたのは、お酒のアテと炭酸水。それと、調味料がいくつか。

仕方がないと、ため息をつきながら、今度は冷蔵庫のとなりの食糧庫をのぞい

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山道を歩く

山道を歩く

久しぶりに高尾山に登ろう、と思った。

高尾山の山頂へ行くには、ケーブルカーに乗り、舗装された道を歩いて、短時間でラクに行ける方法もある。

恋人や家族と、クラスメイトや友人たちと、

「え~、キツイ~!まだ歩くの~」

などと言いつつ、おしゃべりしながら、写真を撮りながら、楽しそうに山頂を目指す人たちもたくさんいる。

けれども私は、ケーブルカーにも乗らず、舗装されてもいない登山道を選んだ。その

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「お客さまの声」を取材します

「お客さまの声」を取材します

今回は珍しく(?)私の仕事の話をします。

ビジネス雑誌の取材などをしているので、全国あちこちへ行くため、飛行機に乗ることもあります。

飛行機に乗って目的地へ着いた後、間もなくすると航空会社からメールが届くんです。

「今回のフライトはいかがでしたか?お客さまアンケートにお答えください」

たいていはどのフライトも快適なので、アンケートに「よかったです!」と答えようと思うのですが、アンケートフォ

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とりわけおいしいビールを飲むために

とりわけおいしいビールを飲むために

「ぷは~っ!」

居酒屋のカウンターで最初の1杯を飲みながら、私はふと、思った。

忙しくしている方が、いろいろはかどるなぁ。

コロナ禍でそれを忘れていたのかもしれない。

コロナ禍では先が見えなかったし、仕事が減って時間があり余っていたから、それほど急ぐ必要はなかったように思う。コロナ禍の3年間で、急がないというクセがついてしまったのかもしれない。

コロナ禍から元へ戻っていなかったのは、私の

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仕方ない選択

仕方ない選択

その選択は「仕方なく」だった。

仕方なく選択したことで、早起きが苦手な私が週に何度か、午前5時30分発の電車に乗ることになった。

向かう場所は、早朝のアルバイト先。ホテルの朝食会場である。

私の本業はフリーライター。年齢は52歳。ついでに言うと独身女性である。

仕事の中心は対面でインタビュー取材をして原稿を書くこと。なので、コロナ禍では仕事が激減した。人に直接会うことが制限されたからである

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マグロの刺身と寡黙な男

マグロの刺身と寡黙な男

その日、私は仕事でイヤなことがあった。

イヤなことをそのまま引きずって家に帰れば、そのイヤなことが自分の中で増幅される。それを、これまでの経験から知っていた。

だから、ちょっとだけ飲みに行ってから、家に帰ることにした。

「こんばんは~」

訪れたのは、最近よく飲みに行くようになった居酒屋である。自動扉ではない引き戸を、ガラガラと開けて入る。

「いらっしゃいませ~」

私の顔を覚えてくれてい

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うどんとコントラバス

うどんとコントラバス

コツコツ努力する、ということが苦手なせいか、私は楽器が弾けない。

子どもの頃、親にムリをいってエレクトーンを習いに行ったことがあるが、何度かレッスンに通った後、ほとんど弾けないままやめてしまった。

そのくせ、音楽を聞くのは好きだ。決して詳しくはないが、民放ラジオから流れてくる流行りのポップスも聞くし、NHKのラジオから流れてくるクラシック音楽もなんとなく聞いている。ジャズは時折、ライブハウスや

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午前5時のコーヒー

午前5時のコーヒー

私は早起きが苦手だ。

しかしこのところ、週に何度か、午前5時前にコーヒーを淹れている。

理由は、早朝のアルバイトを始めたからである。

当初は、ライターとしての仕事が減ってしまったために、少しでも収入を補おうとアルバイトを探していた。ライターを辞めるつもりは毛頭ないから、できるだけ本業に影響がない時間帯がいいだろうと、早朝出勤のアルバイトに決めたのだった。

早朝アルバイトに初めて出勤するとき

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縁と映画と卵焼き

縁と映画と卵焼き

シャカシャカ、シャカシャカ……ジュワ~。

映画館の大きなスクリーンに映し出されたのは、沖縄のおばあが卵焼きを焼くシーンだった。それはきれいな楕円形のオムレツではない。ごく普通の家庭でお弁当用につくるような「卵焼き」なのであった。

私はそれを見たとき「ああ、あの店の卵焼きが食べたい……」と思った。

渋谷にある映画館(正確には試写室なのだが)を出た後、私は早速、地下鉄に乗った。目指す店は三軒茶屋

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