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池井戸潤をめぐる「10年の冒険」

2012年9月。

当時の職場(某大型書店)に嫌気が差していた私は、こっそり転職活動を試みました。他の本屋か出版社へ移ろう。そう考えました。

情報収集の一環で、行ったことのない書店へ足を運びました。そのうちのひとつが虎の門にあった「書原・霞が関店」です(現在は閉店しています)。

こちらを訪れた際、店頭のいちばんいい場所に平積みされていた一冊の小説(単行本)に目が留まりました。↓です。

出版は同年6月。ドラマ「半沢直樹」が始まり、社会現象を巻き起こすのはその1年後です。

池井戸さんは前年に「下町ロケット」で直木賞を獲り、人気作家の仲間入りを果たしました。しかし「ロスジェネの逆襲」は発売当初さほど動かなかった印象です。実際、職場ではこの本の存在に気づきませんでした(スイマセン)。

私も「ロスジェネ」です。そしてまさに「ここから逆襲してやる!」と新天地を探していたタイミング。衝動買いは必然でした。出会わせてくれた「書原・霞が関店」さんには心から感謝しています。

読み始めると主人公・半沢が不条理な理由で左遷されていることがわかりました。自分の置かれていた状況と重なり、一気にのめり込みました。さすがに彼と同じ戦い方をしようとは思いません。でも「仕事における自己実現とはこうやってやるんだ!」と気構えを叩き込まれたのはたしかです。

結局、その時は職場に残りました。今作のおかげで書店員としていまも働けているのかもしれません。

シリーズ第3弾だということを知り、他のふたつも文庫で買いました。4作目の「銀翼のイカロス」は発売日に購入。そのうえで「ロスジェネの逆襲」こそ最高傑作と考えています。他から切り離して単体で読んでも。

池井戸さんの作品だと、社会人野球の意義と苦境にスポットライトを当てた「ルーズヴェルト・ゲーム」も好きです。ランニングシューズの開発で起死回生を図る「陸王」にも奮い立ちました。「勝利を、信じろ」と。

ただ一方で「水戸黄門」風の予定調和にお腹いっぱいな部分があり、最近は距離を置いていました。「どの本も相当売れてるし、別に俺が買わなくても」という「人気が出る前からのファン」が陥りがちな寂しさも原因でした。

でも先日発売になった「ハヤブサ消防団」の帯を見てモヤモヤが吹き飛びました。不穏なミステリィ色が前面に押し出されています。どうも一連の流れとは違う気がする。ハードボイルド色の濃かったデビュー作「果つる底なき」寄りかなと胸がざわつきました。

あえて言います。「こういう池井戸潤が読みたかった」と。

このnoteを書いている時点で、本作に関する予備知識はほぼゼロです。しかし「ロスジェネの逆襲」から始まった10年間の「池井戸潤をめぐる冒険」の蓄積、読了した過去作の完成度への信頼から「絶対面白いやつだ!」と確信しています。

共に新たな旅を始めませんか? お求めはぜひお近くの書店にて。

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