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【Destination】第43話 葛藤

ルカによって命を救われたサトシとマモル、「ようやく自由を手に入れた。これで夢が叶えられる」と明るい未来に希望を抱き意気揚揚。たかぶる感情を抑えられずにいた。

ルカはそんなふたりに、「本当の自由はヒュドラ軍を潰さなければ得られない。東に行くには時期尚早」と冷めた顔で現状を説明。

身の安全確保のため、いったんラハマの村へ帰るよう諭す。

少年たちに「ヒュドラ軍の壊滅」を約束したルカは、アジトのある東に向けて歩きだすが、突如その身に異変が起きる。

額から大量の汗を流して激しく息をきらせ、膝から崩れ落ち、一歩たりとも動けなくなってしまう。

人は過度なストレスや極度の緊張で呼吸が荒く浅くなるが、戦闘後のルカにそんな様子はみられなかった。話すこともままならず、彼女がもつ持病なのか、旅の疲労が蓄積されたものなのか原因は不明。

尋常ではないルカの症状をみたサトシは、「一緒に村へ戻ろう」と必死に説得を試みるが、彼女はうてむいたまま、かたくなに拒否。

「苦しんでいる恩人をなんとしても救いたい」

マモルはその一心で村に助けを呼びに行こうとするが、ルカは獣が唸るような声でそれを呼びとめ、ゆっくりと顔をあげてふたりを睨みつける。

少年たちがみたルカの表情は、苦悶に満ちたものでも普段の無表情でもない、狂気を漂わせるもの。なにかにとり憑かれたかのような、別人とも思える表情だった。

そして、戦闘中でも感じられなかった強い殺気を放ち、野獣のような鋭い目つきと激しい口調で「死にたくなければ早急に立ち去れ!」と怒りをあらわに、ふたりを怒鳴りつける。

ワケもわからず怒鳴られた少年たちは、ルカへの恐怖から、それ以上声をかけられず、村の方角へと走り去っていった。



「苦しい……。息ができない……。全身に痛みがはしる。呼吸をするたびに心臓が潰れそうになる」

「意識が遠のいてきた。18時まで残り40分くらい……。こんなところで気絶してる場合じゃない」

「急がないとヘタレの妹が怨魔に喰われる……。間に合わなく……」

「いや、よく考えたら、そんなのどうだっていい。アタシはなにを必死になってるんだ」

「休んでからでかまわない。なんなら明日行ったっていい」

「グショウの情報を得るのがアタシの目的。ヒロトの妹がどうなろうとアタシの知ったことじゃない」

「約束したから……。だからなんだ。助けたところでアタシにはなんの得もない」

「仮に今日助かったとしても、人はいつか必ず死ぬ。遅いか早いか、それだけのちがい」

「アタシがいじめられてたときも、つらい思いをしていたときも、みんな見て見ぬふり。誰ひとり助けてくれなかった」

「なかにはおもしろがって見てるヤツもいただろう。みんな一緒……。村の連中もそうだった」

「だから、アタシも他人を助ける必要はない。他人がどうなろうとアタシには関係ない」

「それに、ヒュドラ軍を潰したところで世界はなにも変わらない。この世から悪人が消え去るワケでもない」

「アタシひとりが騒いだって無意味」

「人間は私利私欲にまみれた醜いバケモノ。悪いヤツはウジ虫みたいにウジャウジャわいてくる」

「もういい。ムダな努力はよそう。人のためにがんばったって、誰も認めてくれやしない」

「感謝されるのはそのときだけで、時間が経てばすぐに忘れ去られる。こっちがどんなに誠心誠意尽くしても……、簡単に……」

「感謝してくれたとしても、アタシの正体を知ったら、みんな逃げるに決まってる。アタシから離れていく」

「自分を犠牲にしてまで人を助けなくていい。他人にそこまでしてやる価値はない」

「助けてもらって当たり前と考えるヤツ、人の善意をなんとも思わないヤツ、平気で踏みにじるヤツはたくさんいる」

「このままほっといたっていい。村の連中から憎まれようと嫌われようとかまわない。二度とかかわることはないんだから」

「ルカ。人はね……」

自分の心と身体を守るため、村人や少年たちとの約束を放棄しようとしたそのとき、ある男性の記憶がルカの脳裏をよぎる。

白髪の男性は優しい笑顔でルカになにかをうったえかけようとしているが、はっきりとした言葉は聞こえてこなかった。

「そうだ、誰も助けてくれなかったワケじゃない。あの人だけは違った……」

「あの人は、どうしてアタシを助けてくれたんだ。自分にはなんの利益もないのに……。見返りを求めてる様子もなかった」

「やらなきゃならない仕事は山のようにあったはず。それなのに、ずっとアタシを気にかけてくれていた」

「助けてくれなんて、ひと言も言わなかったのに、アタシが苦しんでいるのをわかってたように……」

「自分の貴重な時間を他人のために使うなんて理解できない。そうまでして、アタシを助けた理由はなんだったんだ」

「あの人はどうしてそんな意味のないことをしてたんだろう……。さっぱりわからない……」

「身内ならともかく、自分を犠牲にしてまで他人を助ける理由とその意味……」

「昔、教えてくれた気がするけど思いだせない。別れる前にちゃんと聞いておけばよかった」

「もう一度会いたい。会ってアタシを助けてくれた理由を教えてほしい。もう二度と会えないけど……」

「………………」

「つまらないことを考えてたら発作がマシになった。動けるあいだに身を隠して回復を待とう」

「今、ヒュドラの連中にでくわしたら戦えな……」

「!!!!!!」

「やっぱりダメだ……。また全身に激痛が……」

「よう、姉ちゃん!ずいぶん苦しそうだが、具合でも悪いのかい?」

「誰だ、このデカブツハゲは……」

「ちょっと聞きたいんだが、俺のカワイイ部下どもが、誰かにぶっ倒されちまってな。ここでなにがあったか教えてくれ」

「アンタ、知ってんだろ?」

「『カワイイ部下』コイツ……、ヒュドラ軍の一員か……」

「会いたくないと思ってると会ってしまうものなんだな。最悪だよ。こんなときに……」










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