【Destination】第40話 性暴力
この世にはいつの時代にも、どの国にも男女の違いを理解しようとせず、または知りながら、腕力の差や立場の優位性を利用し、自らの欲望を満たそうとする卑怯者がいる。
「体が大きい男性のほうが、ケンカが強いほうがえらい。女や子どもは男に絶対服従」そう考える者がいる。
明日、不慮の事故で動けなくなる、人を頼らなければ生きられなくなる可能性があるにもかかわらず。
とりわけ、体が小さく力の弱い子どもや女性は暴力の対象になりやすい。女性はデートDVや夫婦間でのDV、子どもは虐待の被害者になることがたびたびある。
戦争以前、ジャポルの総人口は約1億2600万人、女性は約6400万人。
そのうち、18歳までに痴漢や盗撮などの被害に遭った女性は2.5人にひとり、無理やり性交された経験がある女性は13人にひとり。
セクハラ発言や性的からかいなども含めると、性被害の経験をもつ女性は7割にものぼる。
性被害の経験は、「思いだしたくない、この人には言えない。心配、迷惑をかけたくない」と伝える人をえらぶ。
10回以上、痴漢の被害に遭っていても、1度も警察に通報していない女性もおり、実際にはもっと多いと考えられる。
性被害を受けずに生涯を終えるのは不可能。
「なぜそんなことが起きるのか」
弱い者を虐待して楽しむ一部の男性のほうが強くて卑怯だから。
もし、幼いほど体が大きくて力が強かったら、女性が巨大な体で筋肉質だったら、それでも卑怯な男性は簡単に子どもを殴り、女性を犯罪の対象としてみるのだろうか。
「なぜ抵抗しなかったのか」
男性の力に敵うわけがない。抵抗して失敗すれば、逆上されてもっと酷い仕打ちにあい、殺されるかもしれない、死にたくないから。自分の命を守るためには、おとなしくしているしかないから。
男は感情が高ぶると、手段を選ばず欲望を達成しようとする。それがわかっているから恐ろしくて抵抗できない。
実際に被害を受けるまでは、急所を蹴ればいい、大声をだせば相手は逃げていく、噛みつけばいいと対処法を考えてはいるが、いざ自分がそのような立場になると体が萎縮、まったく動けない。
「大声をだして助けを求めればいいのに、なぜそうしなかったのか」
恐怖心から身体がこわばり、声を発することすらできない。「周りにいる人、助けにはいった人にも危害がおよんでしまうのでは」と考えるから。ださなかったのではなく、だせない。
「なぜ逃げようとしなかったのか。本気で逃げようとすれば逃げられたはず」
持久力、運動能力で劣る女性が逃げたところで追いかけられて捕まってしまう。
その場は逃げきったとしても、後日、再び襲いにくるのでは、どこかで待ち伏せされるのではと考えるから。
「フリーズ反応」
また、人はショッキングな場面や不測の事態に直面すると、脳が緊急ブレーキを発信して体の動きを一時的に止める、「フリーズ反応」といわれる現象を起こす。
意識はあるが筋肉が硬直して身体が動かなくなり、発声が抑制され痛みを感じにくくなるといった特徴がある状態。これは動物にもみられる擬死状態(死んだふり)の前段階。
動いているものを狙う捕食者の前で擬死状態となり、敵の目をくらまし生存につなげると学習した結果といわれている。
性的に襲われたとなった場合、被害者側のフリーズ反応は理解されにくい。命を奪われる危険にくらべ、性的な侵襲は程度が浅いと考えられているのか、そもそも性的に襲われる意味がどういうことか知らない人も多いためだろう。
「助けを求めたことによる周りへの迷惑」「再度襲いにくる」「反抗して逆上されれば殺される」というのは、あとから思うことであり、暴力を受けている最中は「殺さないでほしい。まだ生きたい」それしか頭にない。
最終的には「なんでも言うことを聞くから……、アナタがよろこんでくれるならなんでもする……、だから命だけは……」と考えるほど追い込まれる。
相手がひとりとは限らず、ふたりいて体を掴まれた状態であれば、さらに絶望的な心理状態となる。
これ以上、危害をくわえず帰ってくれるのを祈るのみ。言われるがまま、なすがままにされるしかない。それが現実。
「なぜすぐに言わないのか。警察に相談しないのか」
性的被害をすぐに告発するのは、女性にとって勇気と精神力、体力のいること。立証するためには、そのときの状況をこと細かく説明し、証拠となるもの(身体検査など)を調べられ、記録される。それを想像すると精神的に耐えられない。
警察に通報しても告発にまでいかないケースも多く、まともに取り合ってくれないこともある。こうなると、精神的な傷と世間への信頼がすべて崩壊。
裁判となった場合でも、「恐怖で体が凍りついた」「頭が真っ白になって抵抗できなかった」という主張は「いいわけではないか、本当は同意があったのでは」と加害者が処罰されないケースが多い。
暴行を受けているとき、妊娠だけは避けたいと避妊具の装着を願うと、また「それは同意したからだ」とみなされる。暴漢が暴漢を守るためにつくったような規則。
被害者の意思や尊厳は完全に無視され、泣き寝入り。
「性暴力の加害者は『相手に責任がある』と、責任を押しつけ、被害者は『自分が悪かったのだ』と自責する傾向がある」
性的暴力は知り合いが加害者であるパターンがほとんどで、それを表にだしたとき、その余波のなかに身を置かなければいけない女性の立場や周辺への衝撃、受けとられかたなどを考えても、そう簡単には被害を言いだせない。
もし被害を受けたのが既婚者で子供がいれば、その周辺の環境、配偶者とその周辺から家族全体と、そこに関わる人たちにまで余波がおよぶ。
「黙っていればわからない。自分ひとりが犠牲になって、それで丸く収まるなら……」
「自分にも非があったのかもしれない。思わせぶりな言動があったのかもしれない」
女性が自分を責める心理に追い込まれるのも言いだせない理由のひとつ。
そして、すべての人が心から手を貸そうとはしない。意地汚い好奇心の目も注がれる。
「女性の挑発的な服装や行動が被害をまねいている。自業自得ではないか」「性的暴行をするような男は、見ればだいたいわかる。そういう男に近づいた女が悪い」。
「自分から触られにいった。イヤなら抵抗できたはず。その場で怒ればいいだけ」
「いつまでも過去にとらわれるな、顔をあげ前をみて生きるべき」
「それがどうした。精神的に弱すぎる。気にするな。命があるだけありがたいと思え。生きてるだけで丸儲け。つらい経験があるのは皆一緒」と理解を得られず、被害者はだれにも相談できなくなり、絶望感や無力感に苛まれる。
心的外傷を紛らわすために酒や薬に依存、自傷行為をするようにもなり、やがて生きる気力を失っていく。
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