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【Destination】第28話 ルール


虐待

それは言葉で脅し脅迫、相手の存在を無視する、習慣的に暴力を振るう、拒否的な態度を示し冷淡な接し方をする。心を傷つける発言を繰り返し自尊心を傷つけ差別的なあつかいをすること。

夫から妻への虐待、反対に妻が夫を虐待、夫婦揃って子を虐待。成人している子が高齢となった親を虐待するなど、その対象・行為者・パターンはさまざま。

職場では雇用主が従業員を、また先輩従業員が後輩従業員に暴言や嫌がらせ、長時間立たせての説教、ときには暴力を振るって虐待。刑務所では看守が囚人を虐待することもある。

戦争捕虜であっても、虐待をしてはならないと国際法で定められているにもかかわらず、世界大戦時には、捕虜となった者を虐待するケースが多く見られた。

虐待が脳に与える影響やダメージは計り知れず。

特に幼児が暴言を受け続けると、聴覚に障害が生じるだけではなく、知能や理解力の発達にも悪影響をおよぼす。

虐待をおこなう親には自覚がないことがほとんどで、「しつけの一環だ」と勘違い、または正当化。 

虐待をうけて育った子どもたちは、一般的に不安感が高く、自信や自尊心の低下、抑うつ、部屋に引きこもる、他人に対しての敵意や攻撃性など情緒的な問題を示すことが多い。

そのまま成長し学齢期ともなると、落ち着きのなさ、衝動性など、注意欠如多動性障害と類似した症状も見受けられ、さらに万引きや対人暴力などの反社会的行動も見られるようになる。

言葉の暴力は身体の表面に傷をつけないが、心や脳に大きなダメージを与え、その人の一生を破壊する絶対に許されない行為。

不運にもヒュドラ軍から因縁をつけられ、心理的虐待を受けるサトシとマモル。一人前の大人が勇気ある子どもの行動を認めず、人権を無視する言葉で純粋な心を痛めつける。

「お前にはできない、なんの可能性もない、夢を叶える力はない」未来まで否定された少年たちは精神的に追いつめられ、次第に目の輝きが消え失せていった。

とどめと言わんばかりに、ナイフを手に持った男がサトシたちを刺し殺そうと近寄る。「死」を目前にした少年たちは絶望するが、彼らの前にひとりの女性が立ちはだかった。

金髪に青い瞳と白い肌の女性。

サトシとマモルの窮地を救ったのは、ラハマの村で死んだと思われていたルカだった。

思いもよらぬルカの出現に、男たちは状況を認識できず驚嘆し言葉を失う。

ルカはヒュドラの男たちにも聞こえるよう声を張り、「盲目的で小さい、なにも成し得ていない者の言葉に重みはない」と、彼らの発言から存在まですべてを否定。その後、少年たちを励まし勇気づける言葉を送った。

目に悔し涙を浮かべ、力なくしゃがみ込み、落ち込んでいたサトシたちは、彼女の言葉で笑顔を取り戻した。

そして、ルカはヒュドラ軍の男たちを挑戦的な目で睨みつける。まるでラハマの村で受けた暴行を忘れたかのように。



「オレは悪い夢でも見てるのか。この女、いったい、どうやって助かったんだ……」

「ベルゴルドが開発した薬……、あいつらの科学力をもってすれば、死者を甦えらせることも可能。そんなバカげた話、あるワケがない」

「ワザとらしく、大きな声でしゃべりやがって!全部聞こえてんだよ!口の悪さは死んでも治らねぇみてぇだな」

「ゴチャゴチャ、ゴチャゴチャとっ!!」

「てめぇがなにをほざこうが、この世界は強者がルール。それは変えようのない絶対の真実ッ!」

「『強者がルール』その理屈がとおるなら、今ここではアタシがルール。黙ってアタシに従え。今から言う質問に答えろ」

「お前が強者だぁ?」

「ハッタリかますのもほどほどにしとけ。殴られまくって、頭がイカれちまったのかい?」

「それともなにか?記憶喪失か?」

「ついさっき半殺しにされたのを忘れちまったんじゃねぇだろうな」

「なぁ、うるさいよハゲッ!ちょっと待ってな!」

「相手ならあとでしてやる。ザコ、いや、タコに用はない。アタシは幹部の男に用がある。おとなしくしていればなにもしない」

「こいつ……。オレをザコあつかい……」

「オレは……、オレは、ケイジさんの右腕……。そのオレに向かってザコだと……。そのうえタコ……」

「オレになんの用だ。まさか、もう一度殺してほしいなんて言うんじゃねぇだろうな」

「どうやって助かったのか知らねぇが、せっかく命拾いしたんだ、わざわざ自分から捨てることはねぇだろ。見逃してやるからとっとと消えな」

「ガキどもを相手にしてたときの威勢はどこにいった?かなり怯えてるみたいだけど」

「………………」

「こいつはこのオレをザコあつかいした……」

「たかが女が……。こんな、クソみてぇに弱いヤツがこのオレをコケにしやがった……。許さねぇ、絶対に許さねぇ!切り刻んでやる」

「あんたに聞きたいことがあってね。お前らが捕まえてある「ポチ」とかいう怨魔は……」

「てめぇの心臓取り出して、ポチのエサにしてやらアァァッ!!二度とそのツラ見せんじゃねぇええええッ!!」

「死にさらせええぇぇえッ!!」

「危ないっ!!逃げて、お姉ちゃん!!」

「!!!!!!」

ルカの胸にナイフが突き刺さる直前、とてつもない衝撃が男の体を駆けめぐった。男は白目を剥き、腹を押さえてうずくまり、そのまま意識を失った。

「まだ話の途中だ。お前みたいなクズに用はない。何度も言わせるな」

「図体と態度だけはデカい。見かけ倒しだったみたいだね」

「………………」

「『おとなしく待ってろ』そう言っておいたはず」

「少ししつけした犬でも、「待て」くらいはできるぞ。お前の脳ミソは犬以下ってことだ」


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