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【Destination】第42話 異変


「人は空を飛べない」
その常識を変えたい、絶対にできると信じ抜いたからこそ、人は飛行機を作ることに成功し常識を覆した。

新しい世界を切り開いてきた者、自分の人生を大きく変えてきた者たちは、自らがもつ常識、他人の常識外のものに可能性を感じ、それを信じて行動してきた。

常識の範囲内で行動したとしても、結果は常識の範囲内のものしか生まれない。

「女性は腕力で男性に勝てない」

ルカの強さは、その常識を軽く打ち破るもの、賊や一般人が考えることわりの遥か外側にあった。

常人離れした身体能力と反射神経で襲いくる男たちの攻撃をことごとくかわす。さらに窮地に立たされても、ゆらぐことのない冷静さも併せ持つ。

他人の命をゴミ同然と考え、遊びの一環として人を殺害してきた連続殺人犯の男を赤子扱い。

自分よりも体が大きく、ケンカ慣れした男性6人と同時に戦っても無傷で勝利。

刃物を使おうと、どんな戦法をとって襲いかかろうと、ルカの前ではまったくの無意味。

ルカは拳を振り抜く際、ほとんど力をこめずに攻撃していた。イタズラをした子供をしつけるように、ケガをさせない程度にやさしく。

それでも拳をくらった男たちは、その衝撃に耐えられず、一撃で意識を失っていく。男女の力の差をものともしない圧倒的な強さ。

ルカが男たちをなぎ倒していくさまは、周りを飛びかう小さな害虫を振り払っているだけのようであった。



「ありがとう、お姉ちゃん!助けてくれて」

「………………」

「おかげで僕たちは自由になれました」

「この御恩は絶対に忘れません。たくさん勉強して、大人になったら必ず恩返ししたいと思います」

「いらないよ」

「べつに恩を売りたくて助けたんじゃない。村の連中と約束したから、仕方がなかったんだ」

「それに、アンタが大人になるころには、アタシはもうこの世にいない」

「自分の将来だけ考えて勉強しな。アタシのことなんかどうだっていい」

「この世にいない……?どういうことだろ」

「こんなに強いなら、人に殺されるはずはないのに。怨魔に襲われるかもって意味?」

「それとも年齢……?若く見えるけど、実は80歳くらいだったりして……。さすがに失礼だから、歳は聞けないけど……」

「礼を言ってるヒマがあるなら、ラハマの村に戻りな。アンタたちは、あの村に住んでたガキなんだろ?」

「イヤです!いくらお姉ちゃんのいうことでも、それは聞けません!」

「僕たちはナンハンの村に行きたい!そのために村を出たんですから」

「バカが!全然状況がわかってないみたいだね」

「アンタたちは自由になんかなっちゃいない。安心するのは、まだ早いんだよ」

「東に向かうにしたって、今、行ったらまたアイツらに襲われる!見つかったら殺されるぞ。それくらい理解できるだろ?」

「じゃあ、僕たちはどうすれば……。ここから動けないんですか……」

「もう少し待ちな!」

「アジトに逃げ帰っていったモヒカン野郎は、必ずアタシのことをリーダーに報告する」

「そうなればターゲットはアタシ。血眼ちまなこになって探すだろう。ヤツらがやられたまま引きさがるとは思えないからね」

「お姉ちゃんは、村と僕たちを守るために自分を標的にしたんだ」

「倒そうと思えば倒せたのに、モヒカン男を逃がしたのはそのため……。リーダーに報告させるためにワザと逃がした」

「アタシが姿を消さなければ、ヒュドラ軍が村に行くことはまずあり得ない」

「後ろで倒れてるアホどもも、2時間くらいで目を覚ます。顔面を骨折してるから、激痛で悪さなんかできないだろうけど」

「とにかく、ここにいるのも東に向かうのも危険。アンタたちは村に戻って身を隠すのが一番安全なんだよ」

「でも、僕たちは村に戻るとして、お姉ちゃんはどうするの?狙われるなら、一緒に隠れたほうがいいんじゃ」

「アタシはヤツらのアジトへ行く」

「そんな……。いくらなんでも無茶だよ!」

「アジトには50人くらい賊がいるんだ」

「お姉ちゃんがいくら強くたって、ひとりで50人も相手にできない。それに、まだ幹部が3人残ってるし」

「ガタガタぬかすな。よけいな心配はしなくていい」

「ヒュドラ軍はアタシが潰す」

「本気……。本気で言ってるの?怖くないの……。もし負けたら、なにをされるかわからないよ」

「自分より弱いヤツらが相手なんだ。べつにビビる必要はないだろ?アタシは絶対に負けない」

「……………」

「ユリって女が村に戻ったら、軍が壊滅した合図。アンタたちが自由になった証だ。ナンハンに行くのは、そのあとの話で今じゃない」

「わかったら、いったん村に帰れ」

ルカは冷たい口調でそう告げると、ふたりの顔を見ることもなく東に向けて歩き始めた。

「あっ、あの……、またお会いできますか?」

「もし、よかったら、お名前だけでも教えてくれませんか……?」

「消えな……」

「えっ!?」

「聞こえなかったのか……。殺されたくなかったら早く消えろ……」

「『殺されたくなかったら』って、どういうこと?」

「ヒュドラ軍のヤツらは逃げていったよ。僕たち、ダレに殺されるの?」

「ゴッ……、ゴチャゴチャ言うな。死にたくないなら……、早く村に戻れ……」

「お姉ちゃん、顔色が悪いよ。スゴい汗だし、苦しそうだけど」

「もしかして、さっき戦いでどこかやられちゃったの?」

「アッ……、アタシのことは……、気にするな!ほっといてくれ。すぐによくなる……」

「ダメだよ!フラフラじゃないか!」

「こんなに苦しんでる人をほっとけない!一緒に村に戻ろう!!」

「マモル君!急いでヒロトさんを呼んできて!僕の力じゃ、お姉ちゃんを村まで運べない」

「わかったよ。すぐに助けを呼んでくるから!がんばってね、お姉ちゃん!」

「やめろ!よけいなことをするな!」

「命が惜しいなら……、アタシにかまわず村へ行けっ!アタシの前から消えろ!」

「でも……、このままほっといたら……」

「ダマレ……」

「どうしちゃったの!目がっ、目の色が変わって……。色だけじゃない、目つきが別人みたいに鋭く……」

「早く……、ウセロ……」

「イヤだよ、そんなの……。お願いだから、一緒に村へ……」




「早く消えろって言ってんだよ!!何度も言わせるな!!死にたいのかアアァァァッ!!」

「!!!!!!」

「あっ、ありがとうございました!!」

「うわああああぁぁぁっ!!」

ルカの激しい剣幕に驚いたサトシとマモルは、走ってその場を立ち去り、ラハマの村へと戻っていった。


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