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看取り人

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看取り人 エピソード3 看取り落語あとがき&次回予告

看取り人 エピソード3 看取り落語あとがき&次回予告

 おはようございます😃
 織部です。

 看取り人エピソード3 看取り落語を読んでくださりありがとうございます♪

 織部作品で現在、唯一のファンタジー要素の一切ない物語。気がついたらもう3作目です。

 看取り落語作成の経緯ですが、実はこの話し、まったく考えておりませんでした。まさにポッと出作品です。

 なにせその頃の私は、少し凹み気味"で"ジャノメ食堂へようこそ!"に力を入れながらも本当に

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看取り人 エピソード3 看取り落語(終)

看取り人 エピソード3 看取り落語(終)

 翡翠の目にアイの大きな二重の目が映る。
 アイは、茶々丸のあまりに可愛く、惚けた顔に思わず表情を綻ばせ、自分の鼻と茶々丸の鼻をくっつけて擦り合わせる。
「可愛い」
 アイは、低い声で言うと豊満とは言えないと自負する胸に茶々丸をぎゅっと抱きしめる。
 看取り人は、アップルジュースを啜りながらじっと二人のじゃれあいを見た。
 師匠の看取りを終えた看取り人は報酬とシウマイ弁当を受け取ってからいつものよ

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看取り人 エピソード3 看取り落語(16)

看取り人 エピソード3 看取り落語(16)

 酸素を送る機械の音が静かに居室を走る。
 息苦しい。
 幾ら酸素を送られても足りる気がしない。
 しかし、それは身体だけの影響で起きているのではない。
 身体以上に心が詰まって呼吸を塞いでいるのだ。
 茶々丸は翡翠の目でじっと師匠を見る。
 師匠は、黄色く濁った目で力なく茶々丸を見返す。
 茶々丸は、ぱたんっと尻尾を揺らす。
「……答えは出たかにゃ?」
「えっ?」
 師匠は、茶々丸を、茶々丸の後

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看取り人 エピソード3 看取り落語(15)

看取り人 エピソード3 看取り落語(15)

「貴方が茶々丸ね」
 似ても似つかないのに茶々丸の声を演じる看取り人の声が元妻の声に被った。
「男の元妻は茶々丸を見て優しく微笑んでいいましたにゃ。その顔は雪のように真っ白であまりにも細い身体からは何かが抜け落ちそうになっているように見えましたにゃ」
 得てして正しい表現だ、と師匠は思った。
 久々に会った元妻はまさに魂が抜け出し、旅立つ直前だったのだから。
 末期癌。
 言葉だけなら良く聞くし、

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看取り人 エピソード3 看取り落語(14)

看取り人 エピソード3 看取り落語(14)

「翌日も翌々日もたくさんの人達がにゃんにゃん亭茶々丸の高座を見に公園を訪れましたにゃ」
茶々丸は、その時のことを思い出したように鼻を舐める。
「戸惑う男は当初はあの時だけだと断りましたが、その途端にブーイングの嵐。また落語を聞かせろ、可愛い茶々丸に合わせろ!茶々丸最高!と言う声が響き渡ります。仕方なく男は茶々丸と一緒に落語をしますにゃ。この時だけ、この時だけ、そう思い落語をしますがその度に観客は

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看取り人 エピソード3 看取り落語(13)

看取り人 エピソード3 看取り落語(13)

「それから男は毎日、公園にやってきては茶々丸の前で落語を披露しましたにゃ」
 師匠は、その時のことを思い出す。
 酒に溺れた頭を覚ましてから簡単に着替え、コンビニで朝食と猫用の缶詰を買って公園に向かう。
 茶々丸は、師匠がやって来るのをどこからか見ているようですぐに駆け寄ってくる。そして二人で朝食を済ますとそこから落語が始まる。
 猫の皿。
 猫の災難。
 猫忠。
 猫怪談。
 猫の題材の落語が尽

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看取り人 エピソード3 看取り落語(12)

看取り人 エピソード3 看取り落語(12)

「男は、飛び降りるのをやめましたにゃ。理由は自分でも分かっておりません。猫を見たことで興が覚めたのか?それとも猫の愛らしさにやられたのか?」
 自分で言うか?
 まあ、さっきからずっとアピールしてるか、と師匠は苦笑する。
 でも、確かにそうだ。
 俺が自殺を止めたのは茶々丸と出会ったからだ。
 あいつを見た瞬間、背中を押してた何かがすうっと消えたのだ。
「気がついたら男と猫はフェンスの内側に戻り、

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看取り人 エピソード3 看取り落語(11)

看取り人 エピソード3 看取り落語(11)

 茶々丸は、息を吐くように口を開ける。
 師匠は、黄色く濁った目から涙が掠れるように流れていた。
「それからしばらくたったある日のこと。男は家の近くの公園に足を運びましたにゃ。高速道路が近くにあり、野鳥が見えることで地元でも有名な公園ですにゃ。娘が幼い頃、家族でよく遊びに来た公園。設置された遊具で遊び、囲いに覆われた池に集まる野鳥を見て興奮し、妻の手作りのお弁当に喜ぶ娘の姿が蘇る。そしてそんな娘を

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看取り人 エピソード3 看取り落語(10)

看取り人 エピソード3 看取り落語(10)

「娘は、高校を卒業すると同時に男の一門に入りました。所謂、弟子入りでございますにゃ。娘としては中学校卒業して直ぐにでも入りたかったのでございますが両親に反対されましたにゃ。父親は自分が味わうことのできなかった学生生活を、母親は娘の将来的なことを心配しての願いでしたにゃ。出遅れてしまうことを心配した娘ではございますが、そこは鬼才天才の子であり、幼少期より誰よりも間近でプロの世界に触れてきただけはあり

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看取り人 エピソード3 看取り落語(9)

看取り人 エピソード3 看取り落語(9)

「真打になってからの男の活躍はまさに飛ぶ鳥を落として猫が食べにくる勢いでございましたにゃ。高座に出れば拍手喝采。肉球がポフポフ鳴り響く。古典を話せば破裂するように笑いが起き、怪談噺をすれば温度が下がって冬眠するように震えがおき、人情噺に涙する。冒頭で鬼才天才と言う話しをしましたが、男はまさにピタリとハマりましたにゃ」
 言い過ぎだ、と師匠は思わなかった。
 確かにあの頃の俺は鬼才天才の名を欲しいま

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看取り人 エピソード3 看取り落語(8)

看取り人 エピソード3 看取り落語(8)

 師匠の目が大きく開く。
(看取り落語?)
 古典でも?創作でもなく⁉︎
 しかし、そんな師匠の疑問を置いて二人の噺は始まる。
「皆様、お気づきかどうかは分かりませんが……私……」
 看取り人は、いや看取り人の声を借りた茶々丸は言葉を溜める。
「猫でございます!」
 淡々とした声でドヤる看取り人、もとい茶々丸に師匠は唖然とする。
「猫と言いますとニャれお気楽、ニャれのんびりして羨ましい、ニャれいつ

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看取り人 エピソード3 看取り落語(7)

看取り人 エピソード3 看取り落語(7)

 師匠は、節目の多い白い天井をぼんやりと見つめていた。
 痛みはない。
 苦しくもない。
 力も入らない。
 耳障りだと思っていた鼻に繋がれたチューブから酸素を送る機械の低く唸るような音ももう気にならない。
 ただ、もの凄く眠かった。
 頭の奥の奥を温めるように心地よい眠気が優しく撫でてきて何度も意識を失いそうになる。
 しかし、寝てしまったらもう二度と起きることはないのだろうと漠然と感じた。
 

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看取り人 エピソード3 看取り落語(6)

看取り人 エピソード3 看取り落語(6)

 饅頭怖い。
 火焔太鼓。
 子は鎹。
 粗忽の釘。
 目黒のさんま。

 古典落語の名作として知られる落語。
 落語が好きでなくても何かの例えや表現で用いられたり、モチーフにした創作であったり等でどこかしらで聞いたことのある噺。
 看取り人は、先輩からの助言に従い、茶々丸を動かすのを最小限に留め、スマホを横目にしながら丁寧に噺を読んだ。最初に披露した時に比べれば流暢になった。なったと思っていた。

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看取り人 エピソード3 看取り落語(5)

看取り人 エピソード3 看取り落語(5)

 看取り人と先輩の前にクリーム色のふっくらと焼き上がったフレンチトーストが運ばれる。
 フレンチトースト用に店長が一から焼き上げた食パンに厳選した卵、牛乳、蜂蜜のみで焼き上げた店自慢の一品。クリームやメープルシロップと言った添え物はなく、ただ存在感のある分厚いフレンチトーストはそれだけで見る物を圧倒し、舌に味を想像させる。
 看取り人は、じっとフレンチトーストを睨むと用意されたナイフを使って丁寧に

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