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あまねく空の色

 気が付くと、深く息を吸って、空を見上げていることがある。

 つい先日まで、note主催の創作大賞への応募作品を飽くことなく毎日せっせせっせと書いていたおかげで、他のものも気にならないくらい集中していた。終わった瞬間、ふっと脱力する。しばらくぽけっとしていた。

 朝起きてアプリで将棋を指し、バスに乗ってガランとしたオフィスの中でコーヒー片手にピーナツパンを食べる。ピーナッツパンは、パッケージのイラストが刷新されていた。当たり前だが、いろんなことが少しずつ変わっているのだと実感する日もある。

 いざ目の前のこなすべきことを終えてしまった時に、「ふぃーやっと終わったな」という気持ちと、「これから何をしようかな」という気持ちがちょうど半々くらいでないまぜになっている。私自身、あまり1つの位置で止まっていたくない性格で、気がついたら何かしらやっているのだが、私は今どこに向かって歩いているんだろうな、とはたと思い至る。

 先週の金曜日の夜、何をするともなく完全なる電池切れ状態。とりあえず映画でも観るか、と思って30分も経たないうちに微睡み、気が付けばベッドの中に寝ていた。

 そんな日も、ある。

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 20代の頃はエンジン全開、常に全力で何かをしていた。ひたすら前を向いて走って、もう何でもいいから自分の興味があることに打ち込む。あるときは、海外へふらりと放浪したりカメラサークルを立ち上げたり。何か夢中になるものを欲していた。この先の未来を見据えた時に、後悔したくない自分がいたのだ。少しでもいいから、自分は変わったと思いたかった。

 そういえば、そんな時代もあったっけな、と先日会話している中で不意に頭の中で過去の記憶と結びつけていた。ここでまた、あれ、なんか自分もしや現状に満足してしまってる?と疑問符が湧いてくる。一旦考え出すと、次第に思考の渦に巻き込まれていくわけだ。

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 これまた話は前後するが、先週の火曜日のこと。突如として思い立ち、ただひたすら映画を思いっきり楽しむ日を設けることにした。

 兼ねてより気になっていた、『ドライブ・マイ・カー』と『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』の2本立て。実際映画の時間的にはどちらも終了時間と開始時間が若干被っていたため、同じ映画館の建物内を全速力で駆け回るはめになった。ちなみに、結果は残念ながら2本目の冒頭部分にほんの少し間に合わなかった。

※ちなみに、どちらの映画に関してもFumiさんの記事で紹介されています。Fumiさんは映画の造形に深くて、記事を読むたび「うわぁ観たい!」という気持ちにさせてもらえます。2つとも素敵な文章なので、本映画を気になっている方は事前に読んでみてはいかがでしょうか。

 割と絵画を観に行ったときや海外を旅したときに起こる現象なのだけど、とにかく新しいものを一気に取り入れることによって、私の頭はグルグルグルと回転を重ねる。どうしようもない疲労感に陥る。2本続けて観たときにも、同じ現象が起こった。どちらも、違うタイプの映画だったことが起因しているかもしれない。たぶん、いつか観直す時が来る気がする。それほどに、余韻が残る作品たちだった。

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 『ドライブ・マイ・カー』に関しては、もう少し自分の中で消化したいという思いもあるので、また別の機会に考察を行うとして。今回の記事では、もう1つの『フレンチ・ディスパッチ~(中略)~』についての感想を述べようと思う。以下、あらすじ。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
 国際問題からアート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めるフレンチ・ディスパッチ誌。編集長アーサー・ハウイッツァー・Jr.のもとには、向こう見ずな自転車レポーターのサゼラック、批評家で編年史家のベレンセン、孤高のエッセイストのクレメンツら、ひと癖もふた癖もある才能豊かなジャーナリストたちがそろう。ところがある日、編集長が仕事中に急死し、遺言によって廃刊が決定してしまう。

映画.comの解説より

 それにしても、長いタイトルである。私は常々思っているのだけれど(ドラマに影響されています)、フランスの街並みって映像として表した時にもうそれだけでいかにも芸術っぽくなってしまうのがズルいと思う。

 まさにウェス・アンダーソン監督の魅力が、ギュッと凝縮されている。まるで文面の世界からそのまま現実の物語が飛び出してきてしまったような、虚構とリアルが混ざり合ったような世界観に、思わずドキドキした。

 破天荒な天才画家、ちょっぴりお茶目な学生運動のリーダー、美食家の警察署長。モノクロの映像を使ったりアニメーションを使ったり。巧みな演出が癖になる。観ていて、辛辣それでいて愉快な世界だった。

 一言で言えば、「弾けている」。飛んだり跳ねたり、スパークしたり。時にはそれぞれの物語の主人公は決して幸福とは言えない数奇な人生を送っているけれど、それだけ熱情込める人生も悪くないと思った、夕焼けの空。

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 映画を観終わった後に、不思議と心が軽くなっている自分がいることを自覚する。やっぱり、いいもんだな。自分がまるで主人公になったかのような気持ちになる。そういえば、少し前に飲んだ友人が「みんな、この世界の主人公なんだよ」と酔っぱらった拍子に言っていた。シラフに戻ると少し恥ずかしくなるけれど、その時はあら名言じゃないですか!と、友人の肩をパンと叩く。良い夜だった。

 今年は挑戦したいと思っていることも、ふつふつと湧いてきていて、最近は雑誌と映像を組み合わせた季刊誌を作れないかと思いを巡らしている。書くことが仕事になったら、それはそれで生み出す苦しみを味わうことになるかもしれないけれど、今は何もかも自由に書けるから気が楽だ。

 もうひとつ。友達とちょっとした企画展(写真)をやらないかと誘われていて、私は今とても、とてもとてもとてもワクワクしている。いつだって新しいことをやる原動力は必要だ。日々を楽しく暮らすためのコツだと思う。そりゃうまくいかないことはたくさんあるけれど、ひとつかみの想像力とちょっとした一歩を踏み出す勇気があれば、私の周囲の人生は賑やかだ。

 ふと見上げた空の色が艶やかで、うんなかなか悪くない1日じゃないかと思う。Google先生から流れてきたimase「逃避行」が、良い。たまには現実から逃げ出して、自分の世界にどっぷり浸るのも悪くないよ。

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 さて、旅に出かけようではないか。


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