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恋愛ショートショート小説

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自作の恋愛小説です。 短いものを載せていこうと思います。 読んでいただければ嬉しいです。
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変(ショートショート小説)

 わたし、みためふつう。
 けどなかみ、ふつうじゃない。
 初対面の人とか、親しみやすいねってよく言われる。年上の男の人には舐められる。なんで男の人って「女の子」にマウンティングしたがるんだろう。男女平等って言われてるけど、おじさんたちにとって女の子はまだ「蚊帳の外」で、その「蚊帳」の中に普通に入ろうとする女の子は「生意気」って言われる。同じ人間なのに。こっちはちゃんと話を聞いてるんだから、自分の

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はじめての

はじめての

 ずっと箪笥の奥にしまっていた、すずらんの香りのするその液体は、そっと首すじにつけると肌触りの良い下着みたいに、わたしの身体に馴染んだ。テレビのニュースをつけるとわたしの大好きな女優さんが亡くなっていた。七十五歳。癌だった。

 わたしには父がいない。離婚や死別したのではなく、元からいない。わたしは世に言う私生児だ。お母さんは、ひとりでわたしを産んだ。
 でも、小さい頃は、時々「おじさん」が家に来

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眠れない夜

眠れない夜

 見もしないのにつけたままにしてた、うるさいテレビの電源を切って、煌々と白く輝く蛍光灯の明かりを消した。ベッドに潜ってスマホを充電器に挿すと、待ち受け画面の時計は午前一時を示している。
「はぁ……」
溜息をつくのがルーティンになってしまった。真っ暗な天井を見上げるのも、眠れないのも毎度のことだ。夜中にテレビと電気を消したら、これ以上ないくらいに独りだと感じる。〈そんな主張せんでも、充分わかってるわ

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告白

告白

出会った時、他と同じ、普通の男だと思った。けれど、後からやってきた友人に〈今話しててん〉と紹介した時、なんだか誇らしい気持ちになったのを覚えている。

二度目に会った時、店までの道で、目線の高さを合わせるように首を少し屈めてこちらを見て、話を聞いてくれたのが嬉しかった。

三度目に会う前に、私はこの人の恋人になる、と思った。

紀子は電車に乗った。阪急武庫之荘駅から地下鉄なんば駅までの

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ことのは

ことのは

〈何で恋に落ちるか〉って、あると思う。きっかけみたいなもの。例えば顔とか、性格とか、身体とか、声とか……言葉で恋に落ちるだなんて、素敵だな。梅田の、陽の当たる大通り沿いのカフェでコーヒーを飲みながら、ふふと笑った。
 メールが待ち遠しくて仕方ない。メル友、と言うのだろうか。一日数回、メールを送り合う仲。なんてことのないことで送ってしまう。なんてことのないことで送られてくる。観た映画の感想だとか、

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みためのこと

みためのこと

 としさんは、私が可愛くなかったら、付き合わなかった、と言う。面と向かって、悪びれず、堂々と言う。私は、そうなの、と言って、困ったように笑う。けれど、心の中でほんとはまんざらでもないって思ってる。可愛いって、褒め言葉だもん。だって大切なのは中身だなんてよく言うけれど、本当は女にとって、外見を褒めてもらうことほど嬉しいことはない。だから女たちは皆こぞってメイク道具や服を買い、少しでもよく見せようと身

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あたらしいあさ

あたらしいあさ

 ライン。向こうは長らくスマホを見ない習慣がついてしまったらしい、続かない。一言送れば数時間後に一言返ってきて、返事をするともう返ってこない。はじめ、嫌われたのかと思った。でも、会えば以前と変わらないのと、はじめの一言の返事に「ゴメン、寝てた」とか、「スマホ見てなかった」などと謝罪のあることから、愛情は以前と変わらずにあるらしい。ただ、ラインをする、スマホを見る、という習慣が抜け落ちてしまったらし

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