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「JHICCへの製品輸出制限」から

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三点に注目したい。
 1.冷戦と位置づけ
 2.G20とディール
 3.尺度と相対性

関連代表記事 日本経済新聞  2018/11/1 5:30
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37175410R31C18A0000000/
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A 第2のZTEの誕生だろうか。アメリカの対中策の自由度は、明らかに対米の中国のそれより広く、そして1つ1つのボリュームが大きい。中国製造2025と一帯一路は習近平にとっての必達事項であり、貿易戦争という言葉で表現される安全保障覇権争いに対して、アメリカが中国に対して多様な軸で攻撃をしかけている状況。まだまだ使っていない軸も多く、将棋の打ち手のように、適確に相手を誘導し息の根を封じるような戦略を立てやすい。


B  多くの国々が群を形成し戦略的にアメリカに反旗を翻して、ドルプラットフォームが失墜する結果を導ければ状況は大きく変わるが、現在のグローバルな動きの範疇では非現実な現象である。


A 体力勝負を考えるのであれば、体力の絶対値とそれを奪う効率が重要になる。基本的にはアメリカの方が体力も自由度も高いわけであり、有利である。しかし、対中という方向で見た場合に、面白い軸が存在している。それが、信念なきトランプ、という軸である。「信念なき」と揶揄されるケースが多いが、これは1つの立派な能力である。それを実行し、周囲に動揺・混乱を与えているのだから。


B 2018/10/04にマイク・ペンス副大統領が中国に対する事実上の冷戦宣言を出している*1。重要なことはその内容ではない。ペンスさんが、このタイミングで、「改めて」宣言したということである。ペンスさんの指摘した中国の問題行動としては、次のようなものが挙げられている。繰り返しになるが、トランプではなく、マイクペンスが宣言したことが重要。
 
  ・アメリカの知財権を、官民で、獲得(違反)
  ・陸海空+宇宙における軍事的脅威。西太平洋の覇権狙い。
  ・対中貿易赤字が全赤字の半分程度
  

A JHICCへの米企業の輸出制限は、ペンスさん指摘の1番目に該当。中国製造2025の基幹企業への攻撃であり効果的であり、DRAM業界への意味も大きいが、今このタイミングで実行されることを考えると、ペンスさんの冷戦宣言も含めて、アメリカの焦りをヒシヒシと感じることができる。中間選挙に対する余裕のなさがここで露呈しているようにみえる。対中での姿勢を強め具体的アクションに踏み切ることで、共和党支持者の気持ちを引きつなぎ士気をあげる効果が大きい考えられる。本来であれば、もっと後に繰り出してもいいような策である。


B 一帯一路に製造2025という策は、中華思想を引っ提げながら、中国が国際秩序形成に挑んでいるという絵でもある。ここに対してアメリカが安全保障面や貿易面で神経を高ぶらせるのは当然であり、現状に至っている。「信念なきトランプ」という軸は、この現状を鑑み、中間選挙に向けたマッチョ像を明確にするための策を、貿易戦争の形で次々に繰り出している状態である。重要なことは、信念なきトランプ、つまり変幻自在であり、マッチョとディールをこよなく愛するトランプであるということ。


A 中間選挙をうまく通過した場合に、何が起こるのだろうか。待ち受ける1つの大きなイベントはG20。マイクペンスという固い宣言が発せられたとしても、次にトランプがどう行動するかは制約されない。しかけてきた貿易攻撃を固定しG20を機会に中国とディールを行う可能性は、無きにしも非ずではないだろうか。貿易戦争による関税攻撃は、そのままアメリカにブーメランとして戻ってくる代物であり、ビジネス界からの反発が大きいことはいうまでもない。中国にいる米企業群は巨大であり、ここの反発*2は無視できるレベルではない。G20での対中ディールはトランプさんの自尊心という面でも、利得という面でも意義が大きい。


B 中国との距離を置いたり、中国とアメリカの経済分離という方向性が叫ばれるが、これは非現実である。現実に目を向ければ、中国とアメリカは、既にテクノロジーを軸にして融合している状況であり、互いに支え合っている。この融合はテクノロジーに基づくものであり、超速で変化するテクノロジーを利用しているため、融合関係も高速で動いている。とても、政府の動きで分離割断できる代物ではない。


A 互いの経済利得と安全保障をうまく分離して議論できればいいのだろうが。そもそも、グローバルビジネスにおいて、国境の概念を明確に意識する方が間違っているともいえる。アメリカ人が、生産や開発に最適な他国の地で企業をつくりビジネスを行うのは当然である。それが中国であれば、中国からアメリカに輸出された製品を中国産と呼び、それをもって貿易赤字を訴えるのは間違っている。税のあり方、収支計上のあり方、GDPのカウントの方法…これらはたまたま人間が作った指標に過ぎず、絶対的尺度ではない。グローバルなビジネスや政治のルールが変容したのであれば、尺度側を改変するのが、本来は先である。

 

*1 Wall Street Journal 【オピニオン】米副大統領の「第2次冷戦」宣言 https://jp.wsj.com/articles/SB10750612626653313748604584521080465544364
*2 NEWS WEEK 2018年7月12日(木)19時41分 https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/7-26.php

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