小園 栞

俺の両手は機関銃です。全てがノンフィクションではありません。

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献辞 -桜貝の便箋に向かう少女に捧ぐ

献辞を読むのがたまらなく好きだ。 例えば、『星の王子さま』のもの。これは献辞の中でも有名で、覚えていて好きだという人も多いんじゃないかと思う。 献辞ではないが、最近だと謝辞の中の下記文章にノックアウトされた。 私は「誰かのために書かれた文章」が好きだ。作者の気持ちとか、2人の間にあった関係だとかが、まるで自分の側に柔らかく暖かいかたまりとして存在するかのように感じられるから。そして不特定多数のために書かれた文章は数人程度にしか伝わらないが、たった1人の誰かのために書かれた

    • 幸福の閾値

      印象的な書き出しだ。あらゆる文章の中で引用されているのを見かける。そういえば私が最初に『アンナ・カレーニナ』を読んだのも、村上春樹の短編『眠り』の中で主人公の女性がこの本を読んでいる場面があったからだ。 それだけ人々の共感を呼ぶ、真理をついていると思わせる文章なのだろう。私も最初に知った時には、確かになぁ、と感心した。「アンナ・カレーニナの法則」というものまであるらしい。 しかしこの内容、考えてみれば当然だ。「幸福」や「成功」には達成しなければいけないいくつかの条件があり

      • 【質問箱】人の彼氏を寝取ってしまう

        質問箱からお題をくださった方、ありがとうございます。 質問文:世の中にいる、彼氏を寝取る女のうちの一人が考えていることを言います。私には何の取り柄もありません。ただ、思ったことを行動に移すのが人より少し速いだけです。男のことは特に好きではありません。女に悪いことしたなあなんて少しも思っていません。寝取っても特に楽しくはありません。感動もありません。ただ、暇なだけです。彼女がいない男より、彼女がいる男の方が誘うのが簡単なだけです。私は自分の、冷めている癖に性欲は支配できないと

        • 【質問箱】曖昧な理由でフラれたのが嫌

          質問箱からお題をくださった方、ありがとうございます。 質問文:入退院を繰り返している引きこもりです。本当は外出したいけど体力が無くて外に出るとすぐへこたれてしまいます。足をケガしていて、長時間立ったり歩いたりができません。本当は、野外フェスなどに行きたい人生でした。タオルを回してみたい人生でした。 このサイトにある小説は読むのがおもしろいので好きです。さかのぼって読みたいと思います。ありがとうございました。 そして、入院中に好きになった看護師さんがいますが、フラれてしまいま

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          人生はゲームだという友人へ

          人生はゲームだという友人へ いつだったか、あなたは「この世界は自分が作り上げた虚構で、私は一人きりで自分を操作しながら人生というゲームをプレイしているだけなの」と言っていた。私はその時のことを未だにふと思い出します。あなたは直前に美容室に行ったばかりで、細かい髪の毛の切れ端が瞼に"犬"という漢字の右上の点のような感じでついていて、ちょっと間抜けで可愛かったな。前髪は少しばかり切られすぎていて(美容師っていうのは何故1週間後にちょうど良くなるように髪を切るんでしょうか?)、い

          人生はゲームだという友人へ

          【質問箱】恋愛中にキモくなってしまう自分を受け入れられない

          質問箱からお題をくださった方、ありがとうございます。 質問文:最近Twitterで「どれだけ気をつけても好きな人(まだ成就していない)に送るメッセージは、若干キモくなってしまう」と仰っている方がいらっしゃいましたが、誰かを好きになるとどうしてもみっともなくて惨めでキモくなってしまう部分があると思います。メタったらもうおしまいなのですが、そういったキモくなることを受け入れられない自分の幼稚さが苦しいです。 自らの無様さを認められない幼さを克服するにはどうすればいいのでしょう。

          【質問箱】恋愛中にキモくなってしまう自分を受け入れられない

          【日記】ネットスラング

          ネットスラングについて考えていた。 ちなみに私の嫌いなネットスラング TOP5は メスガキ ショタ チー牛 〜で好き(皮肉で使用) 蛙化現象(好きな人や交際相手に冷めるという意味での使用) です。ネットスラングというかTwitterでよく見かける言い回しかも。 他人の言葉遣いに介入することは出来ないし、ミュートすればいいだけなので、これらの単語を使うな!とは思わないけど、見かける度に胃の内壁にびっしりとカビが生えたような気分になる。 なんで私はこれらのネットス

          【日記】ネットスラング

          スクリーンの中の女性たち

          私が映画を見る理由はたったひとつで、それは「そんな目で私を見ないでくれ」という強い感情を掻き立てられたいから。 そんな目で私を見ないでくれ、の理由は様々だ。 あまりにも可愛くて好きになっちゃいそうだから。自分の醜いところを見透かされているような気がしてしまうから。もう会えないあの子のことを思い出して辛くなってしまうから。 私はスクリーンを隔てた傍観者だったはずなのに、映画の中の彼女たちの鮮烈な視線が突き抜けてきて、身体がその場に固定されてしまうことがある。その瞬間のためだ

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          短歌詠んでみる その4

          テーマ:恋のズレたエネルギーもしくは夏 笑ってよなんでよなんで また右の瞼が少し痙攣する癖 たまに同じグループで遊ぶ子がいて、その子が私にだけちょっと意地悪で苦手だったんだけど。2人きりになった時に「私といる時は全然笑ってくんないよね。てか瞼ぴくぴくする癖あるよね。私と話すのストレスなわけ?」みたいなことを早口で言われて、しかも何故か傷ついた顔をしていて、もしかしてこの子私のこと好きなのか?!と驚いた。 はい移動 殺してぇ奴スラッシュ彼氏スラッシュ18の夏 男の恋愛は

          短歌詠んでみる その4

          やさしい鮫/おとなの妹

          今の私はイルカについて、正確かどうかはさておき、多くのことを知っている。鯨偶蹄目ハクジラ亜目の中で比較的小さいものを一般的にイルカと呼ぶ。分類上クジラとの明確な違いはない。半球睡眠をしている。超音波を発してその反響で獲物の位置を測るエコロケーションを使う。米軍には軍用に訓練されたイルカがいるらしい。漢字で書くと海豚、冬の季語。ちなみに「河豚(ふぐ)」も冬の季語である。こんなに漢字が似ているのに、本人たちは全く違った形状なのが不思議だ。 私にとってもイルカが「やさしい鮫」だっ

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          些細で理不尽な理由で冷める女の子たち

          最初に ティーカップが割れて、死にたくなった。大切に使っていたのに。何をしても上手くいかない。砕けて散らばったその破片が私の人生を象徴しているように思えて、やり切れなさと悔しさに襲われながらその場で立ち尽くす。しかし、いつまでもそうしてはいられないので、のろのろと動き始め破片を拾い集めてチラシでくるむ。 片付けていると次第に安堵感に包まれた。私は物事を美化しすぎるきらいがあり、実体のない理想を追い求めて現実を疎かにしてしまう幼稚な無責任さがある。そのことを自覚していて、こ

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          突然の怒り -トロピカ〜ル恋して〜るの男

          まだ5月だというのに最高気温は25℃を超えて、もはや既に夏だ。これから訪れる真夏日、うだるような暑さのことを考えると気が滅入る。 夏といえば聴きたくなる曲がある。『トロピカ〜ル恋して〜る』だ。 『トロピカ〜ル恋して〜る』は2000年にデビューした元ハロプロアイドル「あやや」こと松浦亜弥のセカンドシングルで、「恋人に海外旅行に誘われちゃった!嬉しいしドキドキするけど、どうしよう!」という不安まじりの期待を歌ったなんともキュートなハウス系ビートの曲である。作詞作曲は つんく♂

          突然の怒り -トロピカ〜ル恋して〜るの男

          【質問箱】意味がないのにやってしまうこと/辛くて悲しい時の向き合い方

          質問箱からお題をくださった方、ありがとうございます。今日は2つ回答しようと思います。 意味がないのにやってしまうことについて 結論から言うとあんまりないです。そもそも全ての物事や行動に意味が内在している訳ではなく、人が勝手に意味を見出した気になっているだけだというスタンスなので…。つまり私がやっていることには全て私が与えた"意味"があります。自分で書いておいてなんですが、しゃらくせえですね。 これだけだと煙に巻いたみたいで嫌なので、強いて言えばというのを書きます。意味が

          【質問箱】意味がないのにやってしまうこと/辛くて悲しい時の向き合い方

          【青森旅行記:後編】絶望するな。

          前編はこちら。 金木まで 五所川原からは津軽鉄道に乗り、斜陽館のある金木へ向かう。その時は走っていなかったが「走れメロス号(津軽鉄道津軽21形気動車)」の車両があり、遂に太宰の故郷に向かうんだなあ…と気分が高揚する。津軽鉄道にはアテンドさんが同乗しており、車窓から見える景色などについて説明してくれる。「五農校前駅」に差し掛かったところでアテンドさんが「ここには五所川原農林高校があって、日本で2番目に広い農業学校なんです!なんと東京ディズニーランドと同じくらい大きんですよ」

          【青森旅行記:後編】絶望するな。

          【青森旅行記:前編】元気で行こう。

          2022年11月24日、私は函館港でスーツケースを引きずっていた。旅に出ていたのだ。"おきまりの苦しさ"のせいではなく、太宰治の生家を訪れるために。目的地は津軽。 私の恥の多い生涯の傍には常に太宰治の小説があった。いつか太宰の故郷を訪ねようと夢見ながらも、母親譲りの出不精でだらだらと足踏みしていたところ、友人のSに旅行に誘われた。それならば青森に行きたいと伝え、遂に私は津軽に足を踏み入れることになったのだ。私たちは太宰治が第一創作集『晩年』を刊行した時と同じ年齢だった。タイミ

          【青森旅行記:前編】元気で行こう。

          せいしゅんの思い出

          あの頃の私たちにとって、セックスというものは一大事件だった。 あの頃というのは、まだ制服を着て学年別に色が分かれた校内シューズを履き、苦しくもがき続けていた、しかし今振り返ると牧歌的にも思える学生時代のことだ。 こういうのは地域や環境によるのだろうが、当時私の通っていた学校には所謂"優等生"ばかりが集っており、性については世間の同年代よりものんびりしている子が多かったように思う。私と友人はその中でも比較的大人しい女子グループに所属しており、関心はあるものの、セックスなんて

          せいしゅんの思い出