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詩集:”口伝の海”

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2001~2005(葉擦れの地4)
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詩) 口伝の海

   口伝の海 木々の間をジグザグに 右手で幹を触れ 次には左手で幹を触れ 飛び跳ねるよう…

渕 言址
2年前
7

詩) 鉄路

   鉄路 あうあ ありいある(走り出す) えんゆうう(電柱) あやる(曲がる) まあ(また)、…

渕 言址
2年前
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詩) 道を歩く

   道を歩く アスファルトの亀裂が続いている それを境界にした片勾配 空までが傾いている…

渕 言址
2年前
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詩) オール

   オール ひた、ひた、と ボートを漕ぐ ああ、ひとりであることの 同時にひとりではない…

渕 言址
2年前
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詩) 傾いたページ

   傾いたページ 斜めに傾いたままの その本のページを眺めている 文字で書き記された海…

渕 言址
2年前
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詩) 雪夜

   雪夜 漆黒の暗闇を降りしきる雪の その軽々とした睡(うま)いのゆるやかさ 結晶の格子の…

渕 言址
2年前
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詩) 海沿いの小径(こみち)

   海沿いの小径(こみち) かつては主要な街道であったその道は 今では歩く人もないが あふれるばかりの優しい陽光が沁み込み 歩みを進める私たちを、昔のように包んでくれている その海沿いの湾曲した道は 私の原風景に通じているのだった あなたを背負ってでも 私はそこへ歩いて行く あなたは菱形のぼやけた紋章を見つめている 光の分散し、虚空に投影された紋章を その紋章こそ、打ち棄てられ、野晒しにされた詩人の墓所の在処(ありか)を 証言するただひとり残された者であることを

詩) 帰還

   帰還 既に郷愁の飛び去った、わたし、へと 私は帰るのだ 乾いた音をソロで奏でる 針葉…

渕 言址
2年前
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詩) 岬

   岬 その岬を取り巻く海は、空を映している 模様でもなく、色彩でもない空を おお、互い…

渕 言址
2年前
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詩) 絵画

   絵画 けたたましく鳴き叫ぶ白い鳥は見下ろしている 岸壁に座り込み、漁網を繕う麦藁帽…

渕 言址
2年前
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詩) 風吹く空

  風吹く空   いつまで風は吹くのだろう この街はいつまで在るのだろう 静かに慄える涅槃…

渕 言址
2年前
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詩) 朝の車内

   朝の車内 海がある 家がある 線路が左へ折れる 朝の陽射しが後ろへとそれてゆく 海が…

渕 言址
2年前
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詩) 都市の夜

   都市の夜 強風に吹き飛ばされ また 氷に閉じ込められ この荒野は乾ききっている 反射…

渕 言址
2年前
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詩) 流砂

   流砂 風に吹き溜められた砂が 斜面を流れてゆく 一様に薄く均一に流れるのではなく 一筋の線を流れ 流れながら渓(たに)をつくる 吸い込まれるような無音のくぼみの中に 空を流れる雲を見上げる――― 滲むように白く 水の中に噴出された粘質な白濁液のように 触手のように拡散する雲を 僕は認識というものを 底知れぬ海の深さを 自分を大気と化すことを 陽光として溶けてしまうことを 想っている あらゆる「表示」が消えてしまえばいい あらゆる「標識」が消えてしまえばいい く