スクリーンショット_2017-11-30_18.46.28

秀逸な都市SF─『コルヌトピア』

書籍詳細

これはサイバーパンクか、未来予測か。2084年・東京を舞台とする都市SF
2084年、人類が、植物の生理機能を演算に応用する技術〈フロラ〉を生み出した未来。東京は、23区全体を取り囲む環状緑地帯(グリーンベルト)によって世界でも群を抜く計算資源都市となっていた。フロラ開発設計企業に勤める青年・砂山淵彦は、多摩川中流で発生したグリーンベルトの事故調査のなかで、天才植物学者・折口鶲(おりくち・ひたき)と出逢う。首筋につける〈角〉――ウムヴェルトと呼ばれる装置を介してフロラの情報処理を脳に描出(レンダリング)する淵彦は、鶲との仕事の最中に突如意識を失ってしまう。混濁する意識の中で思い出される、藤袴嗣実(ふじばかま・つぐみ)という少年と過ごした優しき日々。未来都市に生きる三人の若者たちを通して描かれる、植物と人類の新たなる共生のヴィジョンとは? 25歳の現役東大院生による、第5回ハヤカワSFコンテスト受賞作。

『コルヌトピア』読了。物語のアップダウンは少ないが、設定が素晴らしい。
植物の生理機能を利用した演算システムを確立した未来の東京。グリーンベルトに囲まれ、植物に覆われた高層建築が林立する都市イメージは圧巻。

「超高層樹林などとも形容される西新宿の高層オフィスビル群は,東京のちょっとした観光名所だ.屋内でのフロラ運用のため,ビルは自然採光を最大化する節ばった形状をしている.その節々から青々とした茂みが顔を出し,常緑高木が空へ向かって枝を広げている.ひとつのビルがまるごと,垂直に空へと立ち上げられた緑地として機能しているのだ.」

また植生計画学なる演算植物の建築物への導入を学ぶ学問を修得した主人公の思索も興味深い。
新宿の都市描写が一番圧倒された。

「新宿通りに並ぶ建物の多くは,通り沿いの正面に垂直のフロラの壁を抱えている.蔓植物や着生植物を中心とした植生で,土壌を全く必要としない.吾妻橋や銀座のビルの多くが正面にバルコニーや庇,出窓といった凹凸をつくることでフロラを整備するに相応しい形態を模索しているのに対して,新宿通りのビルの正面は乱雑な印象で,波打って落ちる緑の滝の様相を呈している.
そして,高密なフロラの壁から,袖看板のような形状のガラス製の部材が無数に,場当たり的に飛び出している.大きさは幅七十センチメートル,厚さ二十センチメートル,高さは一階分から四階分まで様々だ.」

建築と植物、都市と植物、という原理的に折り合いが悪いものが、植物がテクノロジー化されることで混ざり合っていく、そこに最もSF感を感じた。

この記事が参加している募集

読書感想文

サポートして頂いたものは書籍購入などにあて,学びをアウトプットしていきたいと思います!