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連載小説【正義屋グティ】   第51話・学ぶ人

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】
前話はコチラ→【第50話・スノーボールアイランド】
重要参考話→【第2話・出来損ない】(五神伝説)
      【第10話・沸点】 (初のウルフ化)
      【第21話・本当の】(ショーンとグティ)
      【第41話・そのふたり】(グリル&ラスの共闘 ホーク登場)
      【第42話・世紀大戦 ~開戦~】(世紀対戦編 スタート)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
グティの母親の仇であるホーク大国はカルム国に対してこれまで数々の事件を起こしていた。スパイを送り込み正義屋の養成所生を殺害したり、カルム国の首都カタルシスへの攻撃。そして3015年には正義屋養成所に対し直接的な武力行使を行った。これらにより両国の関係は2050年の世紀対戦以来最悪となった。そして一年と半年の年月が流れ、物語は再び現代に戻る……。

51.学ぶ者


【第四章後半】

3016年 養成所 四棟のとある教室

突然、カーテンに映し出された黒い影によって太陽の光が途切れた。次にその影は、チュウという心地よい鳴き声を出しながら遠くの雲にめがけて飛んでいく。すると先ほど通過したはずの影が、不思議なことに一つ、また一つと増えていき、遂には影の行列が大きな羽音を立てカーテンの模様を作りだした。
「すげえ」
すっかりくぎ付けとなった正義屋養成所の四年生は、その圧巻な光景に言葉を失った。
「……なあグティ」
少し時間がたち、廊下側の席に座っていたパターソンは目線を変えずカーテンに指をさした。
「そのカーテンを開けてくれよ」
窓側の特等席でそれを眺めていたグティは、一つ頷くと白いカーテンに腕を伸ばし勢い手前に引きつけた。
シャーーというカーテンレールの唸り声と共に、教室の中に青く、白い光が差し込んだ。影の正体は橙色の腹に青いくちばし、そして純白の羽を持った小鳥たちだったらしく、彼らの影は今度は教室の床に映し出された。無意識に目を細め、一回り大きくなった右手を自分の顔の斜め前に持ってくると、グティはどこか懐かしい気がしてならなかった。が、そんなグティのことなど気に求めないカザマは、空いたカーテンを乱暴に閉め、
「眩しいんだよ、アホ」
とグティの眉間を睨みつけた。
「アホはお前だ、品性のかけらもない奴め」
「あぁ?!」
まんまと挑発の乗ったカザマはグティのパーマがかかった髪をわしゃわしゃとむしり、グティの机に乗った歴史書を反対の手で押しつぶした。中途半端に閉まったカーテンに映る黒い影は二人のやり取りを嘲笑してるかのように、先ほどよりを高い声でチュウ、チュウと鳴いていく。
「お前!この髪セット時間かかったんだぞ!」
「そっちかよ!知らねぇよアホグティ」
「なんだと!」
謎の沸点で冷静さを失いかけるグティを見て呆れる反面、狼の件を知っている者達は肝を冷やしていた。
「グティ!怒っちゃダメ!!」
パターソンは思わず席を立ちあがり、取っ組み合いをしているグティ達に飛びかかろうとしたその瞬間、バンッという銃声が轟いた。
「ひゃあ!」
突然の銃声にソフィアは耳を塞ぎ、机に突っ伏した。ついさっきまで揉めていた二人も腰を抜かしたらしく、互いの髪を握りながらその場に座り込んでしまった。カーテンに映っていた影たちも銃声を聞くと四方八方に飛んで行き、教室は突如として静まり返った。
「やっと静かになったか」
紺色の銃を片手にウォーカー先生はため息をつくと、
「安心しろ空砲だ」
といい、再び黒板に向き合い何事もなかったように板書を始めた。
『2950年・世紀対戦』
そうでかでかと書かれた文字を銃で指すと、いつも通り眠そうな声で話し始めた。
「いいかー、お前達の生まれる50、60年くらい前かな。我ら中央大陸連合軍とホーク大国が、昔の中央五大国の一国だったトレッフ王国ってとこでドデカい戦争をしたんだ。今ではあんまし考えられんかもだが、巨大な五大陸の一つを支配するホーク大国がこんな小国の寄せ集めに実質的に敗北した。この戦いは不思議なことだらけでな、訳あって情報がほとんど残っていねえ。でも当時、伝説の正義屋総裁と言われたフレディさんってのがある文章を残して、正義屋を去ったんだ。その文がその歴史書に書いてあるから、そーだな、チュイ読め」
ウォーカー先生は暑苦しいのか、ボーダーの入ったネクタイをほどき机に投げ捨てると、椅子に腰かけ目を閉じる。本当に教師かよ。その場にいた皆がそう思ったが、口に出すと何をされるかわかったもんじゃい事は、この四年間でしっかりと学んでいた。チュイは、分厚い歴史書を手に取ると、耳にかかった青い髪をかき上げ口を開いた。
「荒廃した大国の少年が成り上がり正義を見つけ
それに縛られた少年は未来のため、兵を出す
国は崩れ町は焼け巡り合った人と人を引きはがし
それを終わらせるためにこの島にやってきた
しかし戦いは長引いた
自然や建物、人の犠牲は今この瞬間にも増え続ける
そんなこと火を見るよりも明らかだ
それでも人々は戦うことをやめなかった
彼らの信じた『正義』のため
『正義』の犠牲を積み重ね両陣営が死に物狂いで繋いだものは
この二人に託された
二人に託された戦いは決着が着き
一方は右足を残し灰となり
一方は瀕死の状態で仲間の船へと帰還した
戦いは終わった
しかし、突如としてこの島のすべてが氷の中へと消えた
未だに戦い続ける兵士たちも
宴に疲れ外で酔いつぶれている者たちも
歴史あるこの国が残した建造物も
全てだ
この悲惨な戦争の全ては後に世紀対戦として語り継がれ
死んだこの島はこう名付けられた
『スノーボールアイランド』 と」
チュイは読み終わると、わざと椅子の音を立てて座り、
「ウォーカー先生」
とその名を呼んだ。
「ん……いい音読だったな」
聞いてないくせに、そう心で思ったが決して声には出さずチュイは軽く頭を下げた。ウォーカー先生はよれよれのスーツを手で払い、めんどくさそうに教室内を見渡す。教卓の目の前の席にはグリルが腕に顔をうずめ気持ちよさそうに眠っている。
「グリル、お前だけ寝んな」
そう呟くものの起こすのがめんどくさいのか、ウォーカー先生は再び黒板を銃の先でたたいた。
「そんでな、ホーク大国は敗戦後、国力が落ち続け一時は国家が無くなるのではないかと心配されたんだが、状況は一変した。2985年、行方をくらませていたホーク大国の王というか神というか、まぁそのホークってのが突如として民衆に姿を現し始めて、そこからホーク大国の民衆が一致団結してホーク大国は力を強めていったんだな。そしてだ、我ら中央大陸連合軍のトップのコア様が姿を消したのも2985年なんだ」
「え!」
デンたんは思わず立ち上がった。
「それじゃあ、コア様はホーク大国にいて、ホーク様として生きているってことですか?!」
このまえ身長が2mを超え、「でかいだけ」と周りから揶揄ていたデンたんは、久しぶりに胸を張った。が、その自信に反してウォーカー先生は鋭い言葉を飛ばす。
「お前にしてはいい所に気づいたが、違う。コア様は恐らくホーク大国に攫われたんだ。ホーク大国民が元々ホークという存在をあまり気にしていなかった事を利用して、同じ体質を持つ五神のコア様をホークとして崇めさせ、国民の士気を上げていると我々は考えている。フレディさんが遺したその文章に出てくる『一方は、右足を残し灰となり』の部分をホークではないかと踏んでいる。つまり国際的にはホークは健在だが、我々はホークはもうこの世にいないと考えているんだ」
「……ホーク大国の王」
ずっとカザマの髪を握ったまま話を聞いていたグティは、二年前の首都・カタルシス攻防戦の夜の事を思い出し、そう呟く。未だに夢ではないかと思ってしまうが、ショーンが死ぬ直前に「本当の敵は……ホーク大国の、オ」という言葉をグティに伝えていたのだ。(第21話)グティは、その言葉をホーク大国の王が本当の敵だと解釈したのだが、ウォーカー先生の話を聞くとどうやら辻褄が合わずに頭を抱えた。
「グティ、お前は寝んなよ」
ウォーカー先生は机に顔を向けるグティにすかさず指摘し、話を続けた。
「さっき言った通り、我々はコア様がホーク大国に攫われていると考えている。そこで危機感を感じた当時の正義屋は、国際的に立ち入りが禁じられているスノーボールアイランドに乗り込み、謎が隠されているであろう正体不明の氷をホーク大国よりも先に解析するためにその氷を持って帰った。だが、それをカルム国で研究するのは危険を伴うかもしれないという事で、我々は中央大陸連合国のなかでも比較的裕福な国『まいまい島』に空いていた中央五大国の称号を与える代わりに、この氷を研究するように依頼、いや中央五大国の依頼なんてほかの小国に比べたら命令だな。そんで命令されてまいまい島に巨大な研究所が出来上がった。それから少しして3005年、まいまい島の首長が変わったらしいんだが、その情報を知ったのが最近らしくてな、一週間後、我々の国の外務大臣が挨拶に行くことになった。護衛はお前らに任されたからよろしくなー」
ウォーカー先生は話し終えると、大きなあくびをして席にもたれた。いつもなら、それでいいのだが……
「ちょっと待てよ、最後あいつなんて言った?」
前髪が眉毛までかかり、昔よりもさらに怖みが増したアレグロはそう尋ねる。
「あいつじゃねえ、ボコるぞアレグロ。……あと何度も言わせるな一週間後、お前たちは外務大臣の護衛のためまいまい島に派遣されるぞ」
「マジすか?旅行じゃん!」
さっきまで上の空だったジェニーは目を輝かせ、ウォーカー先生に駆け寄る。
「旅行じゃない、護衛だ。今正義屋は来年の一大プロジェクトの準備で忙しいから、養成所生のお前らが選ばれたんだよ。わかったら授業終わり。一週間後寝坊したらボコるからなー」
太陽が巨大な雲に隠れ教室の明かりが際立った。この知らせに喜ぶ者や、めんどくさがる者など様々だが、これが単なる護衛で終わるはずがなかった……。

一週間後 

「おいお前ら、船から出てみろ」
船内に轟いたウォーカー先生の声につられ、グティ達は揺れる船の上をゆっくりと進んだ。
「……かたつむり?」
さんさんと太陽の元、カタツムリの甲羅のような渦巻き型の島が遠くの方に浮かんでいた。
「あれが、まいまい島!」
船の先端に集まるグティ達は、その島を指さし微笑んだ。そしてこの瞬間から戦いは始まった。
                    【まいまい島編・スタート】

     To be continued……       第52話・巨大カタツムリ
新たな思い出、そして新たな戦いが始まる。 2024年1月24日(日)夜 投稿予定!
2024年一本目の正義屋グティでした。改めて本年も正義屋グティをよろしくお願いいたします!

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