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連載小説【正義屋グティ】   第58話・井戸妖怪

~ご案内~

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】
前話はコチラ→【第57話・高貴な雪崩】
重要参考話→【第51話・学ぶ人】(まいまい島編開幕)
                    【第54話・人間を愛したい】(カリオペ初登場)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~

正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生に進級したグティ達は、同じ中央五大国であるまいまい島の首長が変わったことを受け、カルム国の外務大臣がまいまい島へ挨拶に行く護衛を任されていた。まいまい島に着いたグティ達は足に銅の錠を付けた500人ほどの合唱団の歓迎を受け、その際に12歳の少女カリオペやチュイの弟だと言い張るヨハネスという少年に出会う。その後、海辺を去ったグティ達はチェリー外務大臣の思い付きからジェイルボックスと呼ばれる『世紀対戦で使われた氷を凝縮してできた緑色の液体』を研究する施設の見学する組とチェリー外務大臣の護衛組で分かれて行動することに。前者に回ったグティ、パターソン、チュイ、アレグロ、ミラは、ジェイルボックスに入ると噂の緑色の液体が敷き詰められたプールがある一階、吹き抜けになっている二階、研究室である三階を順番に見学していくのだが、突如三階で何かが爆発し緑色の液体が漏れ出ていることに気づいた。災難はそれだけではとどまらず、入り口からはデマを信じた民衆が雪崩入り、施設内はパニック状態に。そんな中、二階の扉から『カギュウ』と名乗る危険な三人組が現れたのだった……。

~ジェイルボックスの見取り図とちょい説明~


現段階のジェイルボックス(グティ、パターソン、チュイ、アレグロ、ミラ)

~カルム国とまいまい島の関係~

正義屋養成所の四年生となったグティ達は約65年前に起きた世紀対戦について学び、五神の一人であるコア様がホーク大国に誘拐されている事を知る。当時危機感を持ったカルム国は、世紀対戦の舞台であるスノーボールアイランドに向かい、突如島を覆ったとされている謎の氷を自国に持ち帰り研究を試みた。が、未知の物体をカルム国で研究することの危険性を懸念した政府は、同じ中央大陸連合国のまいまい島にその研究を任せることにした。その研究所こそがジェイルボックスだ。

~登場人物~

グティレス・ヒカル
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
10歳の頃は大人しく穏やかな性格だったが、夢の中で出会った狼の話を聞き『正義』について疑問を抱くようになる。そしてその直後のデパートでの事件を経て自分の『正義』を見つけ、祖父の勧めから正義屋養成所に入学することを決意した。しかし、そのデパート事件で怒りを制御できなくなる病を患ってしまい、もしも怒りの感情を覚えたときグティの体は狼に変貌してしまう……。

ゴージーン・パターソン
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
総合分校時代からのグティの大親友。いつもにこやかで優しい性格であるがそれが故に他人の頼みを断れない大のお人よしだ。10歳の頃にグティの父親と交わした『小さな誓い』を守るために正義屋養成所に入所した。グティの謎の病気のことを知っている数少ない人間の一人である。優秀な頭脳を使いグティを支え続けた末にあるものとは……。

チュイ プロストコ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
身長は約150センチ。中性的な見た目で髪を伸ばし後頭部で奇麗に結んでいる。いつも冷静で約束は必ず守るからか友達が非常に多く周りからの信頼も厚い。だがそんなチュイにも苦い総合分校時代の思い出があるとか。

デューン アレグロ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生・ベルヴァ隊員)
性格は暗く、目つきが悪いで有名。怒ると何するか分からないと噂されているためか、あまり人が寄ってこない。そのため基本的にずっと一人で行動をしている謎多き人物。しかし、3015年の正義屋養成所襲撃事件の際に、反カルム国の組織・ベルヴァに所属していることが判明し、託された任務はグティを密かに護衛することだった。

ヒュウ・カザマ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
いつも学ランをだらしなく着こなし、水色のショートヘアがかなりマッチしていて結構モテる。話し方は少しばかり棘がありグティは気に食わなそうだが、いざと言う時には行動力があり周りの頼りとなっている。最近はよくグティと喧嘩しているが、根は仲良しである。少し中二病。まいまい島では海辺で出会ったカリオペという少女の言葉に心を打たれと共に行動している。

ダグラス ミラ
正義屋養成所新所長(3015〜)
新入生歓迎会で突如として現れた新所長。顔はとても小さいのにも関らず身長は170cmあり、髪型はポニーテールでいつもミニスカートを履いている。そんなミラは正義屋養成所の男子生徒から多大なる支持を集めた。しかし何故か所長に抜擢されたのかは皆知らない。

カリオペ
年齢 12歳
まいまい島の海辺でグティ達と出会った謎の少女。カザマに泣きながら訴えかけた「人間を愛したい」という言葉にはどんな意味が隠されているのか。語尾が特徴的。

ー本編ー 58.井戸妖怪

黒服にライフルを構えた自らを『カギュウ』と言い張る三人組の服装はどれも同じだが、頭にはめたヘルメットにはそれぞれ数字が振り分けられている。先頭に立ち偉そうに腕を組む長身で筋肉質の男が075、その右に立つ小柄な女は110、そしてグティ達とそう歳の変わらない少年が248であった。先ほど混乱する民衆の声を静まらせたのは075の奴だ。『カギュウ』という単語に聞き覚えのないグティとアレグロでも、それを聞いたとたんに外へ逃げようとする民衆を見ていれば、『悪い奴ら』が現れたというのは一目瞭然だった。グティは柵にもたれ呑気に目をつむっているアレグロの肩を揺さぶると、
「おい、お前何寝てんだよ!逃げるぞ、絶対ここはやばい」
と静かに声を絞り出す。しかし、この男は冷静だった。「どこに逃げ場があるんだ?」と問わんとばかりにグティの焦りに満ちた目を覗きこむと、手すりにもたれながらゆっくりと立ち上がった。
「今から俺が全員殺してくる」
アレグロはグティの肩を軽く押しのけると、腰に構えた白のハンドガンを取り出し銃口をじっと見つめた。いくらアレグロであってもライフル持ち三人に対してハンドガンで対抗することの無謀さを感じていたらしい。なかなか向こう岸に動こうとしないアレグロに、戻ってくるようグティが促そうと腕を伸ばしたその時だった。向こう岸の248の少年の手の中から何かが煌めくや否や、アレグロは右肩から血を吹き出し背中からグティに倒れこんだ。
「うっ!!」
アレグロの絹を裂くようなその声は騒がしかった鉄の箱を再び沈黙へと誘った。
「アレグロ!」
状況を理解するまでに数秒かかったグティだったが、目の前でもがき続けるアレグロに意識を引き戻された。グティは鮮血が溢れ出す右肩を避け、なんとかアレグロを担ぎ上げると螺旋階段の方へ慎重に歩を進めた。重く変わりばえのない革靴と鉄がぶつかる音に加えて、新たに血が地面に垂れる音がグティの心を震わせる。この距離の標的をハンドガンで撃ち抜く人間に背後を向けている事実から目を背けながら、グティは何とか敵の死角となる螺旋階段に到着した。
「ふぅ……死ぬかと思った」
グティの口からそんな言葉が零れた。
「しかし、なぜ彼らは私たちを追撃しなかったのでしょうか」
「さぁ」
いち早く安全地帯に逃げ込んだ案内人には極力冷たい反応をしようとグティは心に決めていた。だが、案内人の疑問にも一理ある。傷を負った丸腰の敵を仕留めない理由がグティには思い浮かばなかった。グティは止血用にハンカチを取り出そうとポケットに手を突っ込みアレグロを睨みつける。(第57話)
「止血は、自分でやる」
気まずそうに眼をそらすアレグロはどこからか取り出した包帯で既に処置を始めていた。その片手間でアレグロは白色の携帯電話をポケットから取り出すと、左肩と耳に挟み誰かと話し始めた。
 
本館 1F
「ドアが……閉まっている」
人の激流に逆らいながらパターソン達が入り口に着いた頃には、そこには扉など無かった。これはただ単に扉が閉まっていることに対して過剰表現をしているわけではなく、言葉通り扉が消えていたのだ。パターソンは扉があった場所に現れた冷たい鋼色のシャッターに手を触れ、頭を抱える。
「僕たちは、閉じ込められたんだ」
アレグロの悲鳴を耳にしてから顔色が悪かったパターソンは、その場にしゃがみ込み髪をむしった。短い水色の抜け毛やふけが鉄の地面に転がる。どこもかしくも鉄ばかりだ。その現実から逃げ出すことさえ許されないことを悟ったパターソンは叫びたくなった。が、そういうわけにもいかなくなった。様子に気づいたチュイに背中をさすられてしまったのだ。
「パターソン、落ち着いて。君が冷静でいないと、僕らはどうすればいいかわからなくなる」
髪を毟る手が止まった。パターソンの中で何かが葛藤しているであろう。チュイは無理やりパターソンの体を自分の方に向けるとこう続ける。
「僕たちは何をすればいい?」
返事までにしばらく時間がかかった。パターソンは近頃、今まではさほどなかった『死への恐怖』がどこか遠いものではないように感じるようになったのだ。それは彼が弱くなったのではなく、彼の心が一段階成長したのであろう。チュイの言葉を頭で何回もリピートさせたパターソンは、深呼吸をした後にサッと立ち上がると、
「まずはミラ所長に正義屋へ連絡を要請しよう。そのあとは奴らの動き次第だ」
と、いつも通りの調子で指示を出した。冷静さを取り戻したパターソンに満足したのか、チュイはにこやかな顔を作りミラのもとへと足早に向かった。
「なんで、こんなに弱気になったんだろう」
パターソンは久しぶりの感覚に陥った先ほどの自分に少しばかり違和感を覚えながらも、二階から民衆を見つめふんぞり返る『カギュウ』の三人に目をやった。
 
「やっと静かになったわよ」
110の女が蔑むような目で一階の人々を睨みつけると、075の男はゆっくりと歩きだし橋の真ん中で立ち止まった。
「改めてごきげんよう、俺はカギュウ・ラジカル派のリーダーだ。075だからな、ナゴンとでも呼んでおけ。時間はたっぷりある。お前らが知らないわけないが今から俺たちが何者で、これから何を行うのかを丁寧に説明してやるよ。まず、カギュウとは……」
 

物語は少し遡り、グティ達が海辺を去っていった後の海辺では……。
「なぁカリオペ、今俺はどこに連れていかれてるんだ?」
演奏が終わり楽器を大切に抱えながら海辺に転がっている人々を横目に、カザマとカリオペはまいまい島の甲羅の坂を上っていた。昼を過ぎても太陽は勢いを落とすことを知らず、いつまで経ってもカザマの目に映る景色は波のように揺れ動いている。そのあまりの熱さにカザマは舌を垂れ下げ、たまにやってくる海風を心待ちにしながらカリオペの背中に必死にしがみ付いた。
「もう少しだっぺ」
カリオペは右足につけたアツアツの銅の錠が耐えがたいのか、定期的にハンカチを足と錠の間に挟んでは、落とし、挟むを繰り返していた。
「あそこの小屋で休憩しよう。少し話もしたい」
珍しく気を利かせたカザマは50メートルほど先にポツンと立つ、ぼろぼろの屋根と井戸があるだけの空間を指さした。が、カリオペは目を丸くすると、
「そこが、私の向かってたところだっぺ。やっぱりカザマはすごいっぺ」
と、わかりやすくカザマをおだて上げた。もちろん、この男はこれがお世辞だという考えが頭の端っこにもなく、上機嫌に
「まぁな!全部俺に任せとけ」
と、兄気取りで胸を張った。そんなことをしている間にも二人は小屋の前に到着し、カザマは真っ先に井戸のへりに腰かけた。
「ふぅ。さすがの俺でも、もうへとへと……」
口の減らないカザマは両腕を頭の後ろで伸ばし、カルム国では中々耳にしないセミや鶯の会話に耳をやった。この島も悪くはないな。ただ暑苦しいだけのかたつむり島くらいにしか思っていなかったカザマは、強張ったほおを徐々に緩ませる。カザマは伸ばした腕を後頭部に擦り付けるように組みなおし、五感を聴覚に集中させようと静かに瞼を閉じた。赤黒い視界の中、研ぎ澄まされた耳からは先ほどにも増して夏の声が耳に飛び込んでくる。そう、この時カザマは油断しきっていたのだ。その場が井戸のへりであることをすっかり忘れ後ろに体重をかけたカザマの体は、生暖かい空に包み込まれた。
「うあああああ!!」
「カザマ!」
カリオペも咄嗟に腕を伸ばしたが、その時にはカザマの体は乾ききった井戸の底に落ちてしまっていた。
「カザマ!大丈夫?!」
井戸の光と共にカリオペがのぞき込む顔が見えた。カザマは天高く拳を上げ親指を立てると、
「もち……ろん」
と、無理やり歯を見せ笑った。そう、この男は他人よりも多少丈夫なのである。カザマは痛む腰を軽くたたきながら体を起こしてみると、そこには本来井戸の中にはあるはずのない古びた木のドアが石のレンガに挟まれていた。
「扉?こんな井戸の中にか?」
外の世界よりも数倍涼しいこの井戸の中で、怪我したふりをして少し居座ってやろうかと考えていたカザマの気は一瞬にして傾いた。昔家に置いてあった『心霊図鑑』に書かれてあった井戸妖怪を思い出してしまったからだ。それは井戸に落ちてきた子供たちを井戸の壁に埋め込まれた扉へと引きずり込み、物凄い勢いで骨まで食べてしまうという世にも恐ろしい妖怪なのだ。これを読みひどく怯えた過去の自分をフラッシュバックしたカザマは、ガタガタと体を震わせ、扉と反対方向の壁にへばりついた。
「まさか、井戸妖怪なのか!!」
さっきまで調子のよかったカザマが突然こんなことを言いだすものだから、カリオペは顔を歪ませ、
「カザマ?」
と、縮こまったカザマの体を上から見下ろした。
「私もそっち行くっぺ」
「待て!こっちに来るな!井戸妖怪はちょうどお前くらいの年の奴を……」
カザマは頭を打ったのであろう。考えることをやめたカリオペはそんな単純な結論で自らを納得させると、木の扉の目の前で華麗に着地し何のためらいもなくドアノブを引いた。
「引き戸かよ!!!」
絶対に注目するところを見誤っている。カザマは咄嗟に両手の拳を固く結び情けないファイティングポーズで構えたが、その先には彼の想像していたような暗く、拷問器具が並べられた部屋ではなく、明るく大勢の人で賑わうバーが広がっていた。
 
      To be continued……     第59話・ちっぽけなこの島で
まいまい島の歴史はカギュウなしでは語れない……。2024年3月31日(日)投稿予定!!ジェイルボックスではカギュウとグティ達の戦いが始まりそうだが、そもそもカギュウとは?その歴史にカザマ達は迫っていく。お楽しみに!!!


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