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連載小説【正義屋グティ】   第56話・ジェイルボックス


~ご案内~

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】
前話はコチラ→【第55話・暗然】
重要参考話→【第22話・あぶないよ】(緑色の液体……)
      【第51話・学ぶ人】(現在の世界情勢)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~

正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生に進級したグティ達は、同じ中央五大国であるまいまい島の首長が変わったことを受け、カルム国の外務大臣がまいまい島へ挨拶に行く護衛を任された。ようやくまいまい島に到着すると、海辺では500を超える人々がグティ達を歓迎する演奏をしていた。そんなお祭り騒ぎの海辺に各々が散らばる中、一同は足に銅の錠を付けた12歳のカリオペいう少女に出会う事になる。「人間を愛したい」カリオペのその涙の訴えにただ事ではない事情があると判断したカザマはグティ達と別行動をすることを決心する。一方残りのメンバーを待っている出迎えリムジンの周りでは、ウォーカー先生がグティ達を探しに行った直後にチュイの弟を名乗るヨハネスという少年が嫌みったらしくチュイの元へ歩み寄ってきていた。その態度が癇に障ったアレグロによりヨハネスは追い払われたが、チュイの寂しげな眼はしばらく続いた。そして、遂にリムジンが発車する……。

~カルム国とまいまい島の関係~

正義屋養成所の四年生となったグティ達は約65年前に起きた世紀対戦について学び、五神の一人であるコア様がホーク大国に誘拐されている事を知る。当時危機感を持ったカルム国は、世紀対戦の舞台であるスノーボールアイランドに向かい、突如島を覆ったとされている謎の氷を自国に持ち帰り研究を試みた。が、未知の物体をカルム国で研究することの危険性を懸念した政府は、同じ中央大陸連合国のまいまい島にその研究を任せることにした。

~登場人物~

グティレス・ヒカル
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
10歳の頃は大人しく穏やかな性格だったが、夢の中で出会った狼の話を聞き『正義』について疑問を抱くようになる。そしてその直後のデパートでの事件を経て自分の『正義』を見つけ、祖父の勧めから正義屋養成所に入学することを決意した。しかし、そのデパート事件で怒りを制御できなくなる病を患ってしまい、もしも怒りの感情を覚えたときグティの体は狼に変貌してしまう……。

ゴージーン・パターソン
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
総合分校時代からのグティの大親友。いつもにこやかで優しい性格であるがそれが故に他人の頼みを断れない大のお人よしだ。10歳の頃にグティの父親と交わした『小さな誓い』を守るために正義屋養成所に入所した。グティの謎の病気のことを知っている数少ない人間の一人である。優秀な頭脳を使いグティを支え続けた末にあるものとは……。

マーチ・ソフィア
年齢 16歳(正義屋養成所4年生)
グティとパターソンの総合分校時代からの幼馴染。総合分校の時、ソフィアはその小柄で内気な性格からクラスメイトにいじめをされていた。しかし、なぜ正義屋養成所を目指したのかは明らかになっていない。

チュイ プロストコ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
身長は約150センチ。中性的な見た目で髪を伸ばし後頭部で奇麗に結んでいる。いつも冷静で約束は必ず守るからか友達が非常に多く周りからの信頼も厚い。だがそんなチュイにも苦い総合分校時代の思い出があるとか。

ディア スミス
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
身長は175センチほどと女子の中ではかなり大柄で、長い髪の毛をいつも肩にかけている。性格はとにかく真面目で、危ない賭けには絶対に応じない。しかしそんな頭脳明晰でリーダーシップに長けているスミスにも、数年前まで何でも話せれる親友がこの正義屋養成所にいたのだった。彼女の正義は、自分のように大切な人を奪われて心に穴が開く人を減らすために、その根源であるホーク大国を破壊することなのだ。

デューン アレグロ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生・ベルヴァ隊員)
性格は暗く、目つきが悪いで有名。怒ると何するか分からないと噂されているためか、あまり人が寄ってこない。そのため基本的にずっと一人で行動をしている謎多き人物。しかし、3015年の正義屋養成所襲撃事件の際に、反カルム国の組織・ベルヴァに所属していることが判明し、託された任務はグティを密かに護衛することだった。

ターボ グリル
年齢 16歳(正義屋養成所4年)
入学してからほとんど毎日学校に遅刻してくる、いわゆる遅刻魔、そして養成所一の問題児。しかし、格闘技の腕はなかなかのものでこちらも養成所一の能力を誇る。『獣の子』という言葉に過剰に反応するグリルだが、その過去や正義屋の養成所に入った経緯は未だ謎である。まいまい島編では上陸前に黒シャツを無くしてしまったため、仕方なく女もののワンピースを身に纏っている。

ダグラス ミラ
正義屋養成所新所長(3015〜)
新入生歓迎会で突如として現れた新所長。顔はとても小さいのにも関らず身長は170cmあり、髪型はポニーテールでいつもミニスカートを履いている。そんなミラは正義屋養成所の男子生徒から多大なる支持を集めた。しかし何故か所長に抜擢されたのかは皆知らない。

ネビィー ウォーカー先生
正義屋養成所 教官
グティ達の代を担当する先生。一応先生なのだが、しかしメリハリの『メ』の字もないほどいつもだらしなく、ゆるい雰囲気の人だ。悪い人では無さそうなのだが、人の上に立つような人間ではないような気もする。

サンチェス・チェリー
カルム国の外務大臣

ー本編ー 56.ジェイルボックス


ブルームアーチ。
それはまいまい島の坂の中盤に位置するひと際目立った巨大な門のことを意味する。縦に規則正しい模様が入る大理石で作られた巨大な二本の柱の中には、冠をかぶり偉そうにこちらを見下してくる二匹のカタツムリの彫刻が埋め込まれており趣味が悪い。しかしもっと気色の悪いのは、街ゆく多くの人々が何の躊躇もせずアツアツに熱せられた砂地に膝をつけ、そのカタツムリに向かい頭を下げているその光景である。海辺から何かがおかしいことは勘ぐっていたが、その行動に本当に意味があるのかはいささか疑問だ。グティはそんな風に顔を歪め窓の外を眺めていると、乗っているリムジンが緩やかにスピードを落としていき、やがて巨大な何かの前で停車した。先ほどの巨大な二本の柱をつないだ水色のアーチの真下には、赤くさび付きながらも圧倒的なその存在感でグティ達を待ち構える巨大な門が聳え立っていた。
「カルム国外務大臣、サンチェス・チェリー殿ご一行がおいでになりました!」
リムジンの運転手からアイコンタクトを受けた門番の男が手に持つ長い槍を天に掲げ声を張り上げると一呼吸置いた後、扉の奥の光がゆっくりと漏れ入ってくる。扉が開く演出は想像した通りのものであった。ギギギと痛ましい音を響かせながら、ゆっくりと時間をかけ扉は開く。その間約100秒。外務大臣がいるため変に緊張したグティ達にとって、景色の変わらないこの時間はこの上なく気まずかった。
「こんなに時間がかかると、いつも移動が大変そうですね」
この空気に耐えられなかったチェリーは隣に座る運転手の横顔に話しかけた。門の左右も高い壁や有刺鉄線に囲まれ、この門を使うしかこの道を突破する手がない。そのため裏道でもあるのではないかと密かに考えていたグティはその返答に耳を傾けた。が、いつまで経っても返事はなかった。それどころか、額にたまった汗を腕で拭い
「こんなにも暑い中、どうもありがとうございます」
などの社交辞令でチェリーの話を無理やり逸らしているようにも感じた。なにか不都合でもあるのか。確かに気になることなのだが、このピリピリとした雰囲気から一秒でも早く解放されたいグティはひたすら窓の外に並ぶ景色に目をやった。
「門を越えただけだよな……」
グティがそう呟いてしまうのも無理はない。その眼に映る町並みは門を越える前とは文字通り対極の世界であり、人も乗り物も建物もグティが先ほどまで見ていたものとは大きく異なっていた。豆腐や砂糖に匹敵する白妙の壁に、海よりも鮮やかで偏りのない群青の丸い屋根で覆われた家々。おまけには自慢の長い腕を熱波と共に勢いよく振り回す風車たちが、舗装された一本道の左右に均等に立ち並んでいた。無論、その一本道を利用する人々の服装は海辺の合唱団とは比べ物にならないほど高貴であり、彼らの隣を馬車やホーク大国製の高級車が次々と行きかっていた。
 
「到着いたしました」
沈黙の時間があれから十分ほど続き、遂に解放の時が来た。いち早くリムジンを降り扉を開けた運転手に続き、チェリー、ミラ、ウォーカー先生、そしてグティの順に太陽の元に戻ってきた。相変わらず太陽の日差しは容赦がない。そんな事、百も承知のグティ達は太陽に手の腹を向け目を細めながら外に出たのだが、その意識は一瞬にして消え去り、皆が目を丸くして固唾をのんだ。今まで均等に並べられていた家や風車、一本道が途絶え、突如として禍々しい鉄の塊でできた巨大な建物が姿を現した。
「なんじゃこりゃあ!」
テンプレにも聞こえるグリルのセリフも、この時ばかりは大げさには聞こえない。グリルは瞬きをすることすら忘れその場で立ち止まっていると、
「グリルとソフィア!おいてくよー」
と、前の方からスミスの声が飛んできた。目の前の巨大な物体に意識を持ってかれていた二人は、やっと同じ境遇の人間がいたことに気づき顔を見つめ合う。
「なんであいつら全然驚いてないんだ?」
「ほんとよね」
会話終了。今までほとんど絡んでこなかった二人が異国の地でいきなり話せるはずがなく、グリルは慣れないワンピースをひらひらさせながら、途中途中ソフィアの顔をチラ見して様子を伺った。
 
そして前方では……。
「ウォーカー先生。あなたが引率してきた生徒の数は10人じゃなかったかしら」
こちらはこちらで修羅場を迎えていた。チェリーと話していたミラはタイミングを見計らい、後ろを歩くウォーカー先生の服を引っ張りそう耳打つ。
「……あー、えと、七人じゃなかったスカねぇ?」
「とぼけないで。あとシャツはしっかり入れなさい、みっともない」
「……うっす」
ウォーカー先生は不貞腐れた14歳のような目をしながらもシャツインを済ますと、それを見届けたミラは大きくため息をつき、
「何を考えているか知らないけど、この人数だとチェリーさんの護衛が足りないじゃない」
と不平を垂らした。気温が40度を超えるこの暑さだと汗の出も尋常じゃないらしく、ミラの薄いピンクのアイシャドーが崩れ始めている。それに気づいたウォーカー先生はどこか勝ち誇った笑みを浮かべると、ミラの奥のゆらゆら動く水平線を見遣った。
「まぁ、こう言っちゃなんですけど、正義屋の養成所に四年ぽっちしかいないあいつらが束になったってチェリーさんを守れませんよ」
「それを守れるようにするのがあなたの仕事よ」
そう割り込んできたのは、チェリー本人だった。ミラは頬を赤らめると急いで口を覆い、ウォーカー先生の背中を持つと頭を下げさせた。
「いいのよ。私こそ盗み聞きしちゃってごめんなさい。でもウォーカー先生の言う通り、現役の正義屋隊員に比べたら実力はまだまだよ。だからせっかくなら護衛の人数は削って、ここの研究所をたくさんの子が見るといいわ」
「チェリーさん、それはやはり危険では……」
チェリーの参戦に一気に劣勢に立たされながらも辛抱強く粘るミラを、
「これは命令よ、ミラちゃん」
という言葉で一喝した。正義屋としては別のプロジェクトで資金が足りない中『外務大臣の護衛のための遠征』がただの『超大型社会科見学』に変化してしまったのは相当痛手である。これだから政府の人間は。呆れを通り越し諦めに変化したミラはため息をつくと、
「それじゃあ、見学組のメンバーは私に決めさせてくれるかしら?」
とウォーカー先生の眉間を睨みつけた。が、時すでに遅し。その時には聞き耳を立てていたグティ達が自らメンバー分けを済ませた状態で二グループに固まっていた。研究所組は、面白そうだという理由でグティとチュイそしてグティがいるからという理由でパターソンとアレグロとなり、護衛組は研究所に興味のないスミスに、リムジン移動を気に入ったソフィア、そしてシンプルに勉強をしたくないグリルというメンバーに分かれた。
「グティレス君は、護衛の方がいいんじゃない?なんか……強そうだし」
なんて空虚な言葉だろう。グティは何を目的としたのかわからない見え透いたミラのお世辞に虫唾が走った。しかし、よく考えてみたら美女からの誉め言葉は悪くない。グティは鼻筋を伸ばしまんざらでもない顔をすると、前髪を小まめにいじり始める。
「えっと、そもそもこれはなんの研究所なんですか?」
「そりゃおまえ、授業でやったやつじゃねぇかあ」
いい所を見せようと高言を吐くウォーカー先生だったが、外務大臣の前で適当に読み漁った参考書の浅い知識を披露するのは気が引けたらしく、案内人に目でバトンタッチをした。
「ここは私がご紹介いたします。この建物は標高500メートルに位置するカルム国から頂いたジェイルボックスという名の研究所でございます。ジェイルボックスは大きく分けて三つの建物に分かれます。まず一つ目が三階建ての本館。こちらは後でお見せいたしますのでご紹介は割愛します。二つ目がその隣の副館です。三、いや二階建てでして、一階はジェイルボックスで働く職員の寮となっており、二階は研究所全体を管理するセキュリティールームとなっております。そして、その二つの建物を繋ぐのがプラネットと呼ばれるあの巨大な球体です。プラネット内には様々な情報や資料が保管されており、本館と副館を繋ぐ通路だけではなく、様々な保管庫につながる通路が多数存在します。ジェイルボックスの詳しい研究内容は国家機密という事もあり、お教えすることができないのですが簡単に言えば世紀対戦に用いられた氷と、それを凝縮してできた『緑色の液体』についての研究を行っております」
「緑色の液体?」
声の主はアレグロだった。アレグロはいつになく真剣な顔つきをすると、ジェイルボックスの全貌をまじまじと眺め深呼吸をした。
「ありがとう。それでは私たちは行きましょうか、ウォーカー先生」
「えぇ、俺もすか?」
チェリーが見せる白い歯から自然と目をそらす。またあのリムジンに乗るのか。車酔いの激しいウォーカー先生にとっては狭くて独特なシートベルトの香りが漂う車内よりも、炎風に殴られる真夏の外の方が幾分とマシなのである。ウォーカー先生はなるべく気配を消そうと、この気温の中入れたくもないポケットに手を突っ込み、ゆっくりと後ずさりをする。が、そう上手くはいかなかった。チェリーは笑顔を崩さないまま消えようとするウォーカー先生の腕を力強く握ると、
「本当は護衛なんて、あなただけで十分なんだけどね」
と言い退け、有無を言わさずリムジンに引きずり込んでいった。
 
ジェイルボックス 本館1F
「ようこそ、ジェイルボックスへ」
頑丈な鉄の二重扉を突破したその先には、巨大なプールの中に入れられた緑色の液体がサーという水声を立ててその場に浮かんでいた。ただの色のついた水と言えばそれまでかもしれないが、どこか殺気立ったその液体はグティ達の動きをピタリと止めた。
 
    To be continued…          第57話・高貴な雪崩
今まで幾度となく出てきた緑色の液体。遂に対面。2024年3月17日(日)午後8時ごろ投稿予定!カリオペに着いていったカザマや、護衛に回ったスミス達、そしてジェイルボックスのグティ達の三組に分かれて行動することになる。……あれ、デンたんと、ジェニーは?お楽しみに!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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