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連載小説【正義屋グティ】   第54話・人間を愛したい



~ご案内~

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】
前話はコチラ→【第53話・訳アリ合唱団】
重要参考話→【第5話・意地悪な】(イーダンの最期)
      【第32話・いとまごい】(チュイと友達の別れ)
      【第51話・学ぶ人】(現在の世界情勢)
物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~

正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生に進級したグティ達は、同じ中央五大国であるまいまい島の首長が変わったことを受け、カルム国の外務大臣がまいまい島へ挨拶に行く護衛を任された。何とかまいまい島に到着したグティ達は、船の外から聞こえる盛大な演奏のお出迎えに気づき、お祭り好きのノヴァ・ジェニーが率先して演奏の中に飛び込んでいった。ジェニーはそこで銅の錠を足に巻いた盲目のハインという老人に出会うことになる。しばらくして、カルム国の船から外務大臣のサンチェス・チェリーが砂浜に現れると、先ほどまで楽し気に演奏をしていた島民は心を失ったように楽器を投げ捨て、彼女に向けて頭を下げ始める……。

~カルム国とまいまい島の関係~

正義屋養成所の四年生となったグティ達は約65年前に起きた世紀対戦について学び、五神の一人であるコア様がホーク大国に誘拐されている事を知る。当時危機感を持ったカルム国は、世紀対戦の舞台であるスノーボールアイランドに向かい、突如島を覆ったとされている謎の氷を自国に持ち帰り研究を試みた。が、未知の物体をカルム国で研究することの危険性を懸念した政府は、同じ中央大陸連合国のまいまい島にその研究を任せることにした。

~登場人物~

グティレス・ヒカル
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
10歳の頃は大人しく穏やかな性格だったが、夢の中で出会った狼の話を聞き『正義』について疑問を抱くようになる。そしてその直後のデパートでの事件を経て自分の『正義』を見つけ、祖父の勧めから正義屋養成所に入学することを決意した。しかし、そのデパート事件で怒りを制御できなくなる病を患ってしまい、もしも怒りの感情を覚えたときグティの体は狼に変貌してしまう……。

ヒュウ・カザマ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
いつも学ランをだらしなく着こなし、水色のショートヘアがかなりマッチしていて結構モテる。話し方は少しばかり棘がありグティは気に食わなそうだが、いざと言う時には行動力があり周りの頼りとなっている。最近はよくグティと喧嘩しているが、根は仲良しである。少し中二病。

チュイ プロストコ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
身長は約150センチ。中性的な見た目で髪を伸ばし後頭部で奇麗に結んでいる。いつも冷静で優しいからか友達が非常に多く周りからの信頼も厚い。だがそんなチュイにも苦い総合分校時代の思い出があるとか。

デューン アレグロ
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生・ベルヴァ隊員)
性格は暗く、目つきが悪いで有名。怒ると何するか分からないと噂されているためか、あまり人が寄ってこない。そのため基本的にずっと一人で行動をしている謎多き人物。しかし、3015年の正義屋養成所襲撃事件の際に、反カルム国の組織・ベルヴァに所属していることが判明し、託された任務はグティを密かに護衛することだった。

ディア スミス
年齢 16歳 (正義屋養成所4年生)
身長は175センチほどと女子の中ではかなり大柄で、長い髪の毛をいつも肩にかけている。性格はとにかく真面目で、危ない賭けには絶対に応じない。しかしそんな頭脳明晰でリーダーシップに長けているスミスにも、数年前まで何でも話せれる親友がこの正義屋養成所にいたのだった。彼女の正義は、自分のように大切な人を奪われて心に穴が開く人を減らすために、その根源であるホーク大国を破壊することなのだ。


本編・54.人間を愛したい

「お出迎え、感謝致します。どうかお顔を上げてください」
カルム国の外務大臣であるサンチェス・チェリーの上陸で、演奏がピタリと止まっていた海辺に彼女の声が響いた。が、その言葉にも一切動じず、島民は息を殺しひたすらに足元に映る砂浜を見つめている。彼らは何を考えているのだ。あまりにも異様なその光景にチェリーは、顔をしかめ黄金色に染まった長い髪に覆われた頭をポリポリと掻き周りを見渡した。するとチェリーは、頭を下げている人間の数に匹敵するほどの楽器たちが砂浜に放られているのに気づき、水色のリムジンの前でつむじを見せてくる男の肩に手を置いた。
「私たちは同じ中央五大国です。つまり立場は対等なのですよ」
そう諭しても男から返事はない。その間にも海から吹いたじめじめとした風がチェリーの紺色のドレスにぶつかり、ひらひらとなびく。痺れを切らしたチェリーは男の顎をくいっと自分の方に向けると、目線を男に合わせ、
「ところで、私にもあなたたちの演奏を聴かせてくれないかしら?」
と笑顔を見せた。男はわかりやすく頬を赤らめ両手の側面を頬につけると、大きく息を吸い込みんだ。
「演奏、開始!」
その合図で、先ほどまで心を失っていた島民は一斉に投げ捨てた楽器を手に取り、再びこの場に愉快な音色が戻ってきた。

「お、また始まったぞ」
未だに船の隅で様子を伺っていたパターソン達は再び耳に届いた演奏に背中を押され、ゆっくりと砂浜に足を踏み入れた。
「はぁ、だからクロックス必要だったのか」
しかしそんな中、珍しく事前連絡をまともに聞いていなかったグティは普段全くはかないような革靴を履いてきてしまったらしく、砂浜から波が引くタイミングをひそかに伺っていた。もちろん、そんな簡単に潮が引くわけもなく、すでにもう十分程この状況で止まっていたのだ。
「グティ、もうみんな先の方行っちゃったよ」
ここに現れた救世主が、グティとはそこまで関わりのなかったチュイ・プロストコだった。しばらくしてグティの姿が見当たらないことに気づいたチュイが探しに来てくれたらしい。
「えぇっと、ちょっとね」
しかしこんな無様な理由を久しぶりに話すチュイに聞かれてたまるかと、グティは是が非でも「革靴で来てしまった」などと打ち明かすことはしなかった。第一、話したところで自分よりも小柄なチュイに何ができるのかと自問自答した結果、グティは下手な作り笑いをしながらゆっくりと船の中へ後ずさりをしようとする。
「わかった」
すると突然のチュイの高い声にグティは動きを封じ込まれた。ばれたのか?無駄にプライドの高い16歳のグティはあらゆる可能性を頭に巡らせチュイを見据えたが、チュイは静かにグティに背を向け腰を下ろした。
「どこか体調悪いんでしょ、この島こんなに暑いもんね」
心地の良い海の音と共に、チュイの緑色のクロックスは小さな砂や小石を含んだ透明な波に飲み込まれた。チュイは返答のないグティに顔だけ向けると、左手の平を空に向けて指を自分方向に動かした。
「早く乗りなよ。おぶってくよ」
「え?!」
グティが頭に巡らせていた『あらゆる可能性』のどれにも引っかからないその素振りにグティは目玉を真ん丸にした。おそらく靴には気づいているのだが、それには触れずグティを助けようとするチュイに感激し、グティはチュイの背中に吸い込まれていくように飛び乗った。
「うっ!」
が、勿論その体格の差が消えたわけもなく、チュイは足をガクブルと震わせながら一歩ずつ砂浜の上を進んでいった。
「重いよな、ごめんな」
グティは汗だくのチュイの長い青髪を見つめながら申し訳なさそうにそう呟いた。
「大丈夫。僕、総合分校時代に剣術やってたし、筋肉は……あるから」
なんて心もとない言葉なんだ。グティはチュイがなぜこんなにもに周りから人気があるのか、改めて実感した。そしてチュイはまた続ける。
「まだ正義屋養成所に入学して間もない時に初めてできた友達が友達だと思っていた奴に殺されて、その二年後には僕のわがままを聞いた二人の友達がホーク大国によって殺された。(第32話)だから、僕は僕よりもずっと優しい彼らのためにも周りにもっと優しくするって決めたんだ」
「……イーダンたちの事か」
グティは血だらけになったイーダンの片腕を抱えた数年前の出来事を思い出し、少し餌付いた。(第5話)楽し気な演奏と人々の中を場違いな冷たい雰囲気を醸し出している二人はようやくカザマ達が集まっているところを見つけた。初めての異国の地に気持ちの高ぶりを抑えられず島民と共に踊る組と、クールに振る舞う組で別れていたが、意外なのはあのグリルが後者に振り分けられていたことだ。グティはそのグループ分けに違和感を覚えつつも、チュイにおぶられている事を思い出し、咄嗟にチュイの肩を二回ほどゆすった。
「……もうここでいいよ」
「そう?わかった」
結局、靴の事は一切口に出さなかったチュイはゆっくり腰を下ろすと、とうとう体力に限界が来たらしくグティを下敷きにして後ろに倒れこんでしまった。
「ぐわぁ!」
痛みはないもののアツアツの砂浜に突然たたきつけられたグティはそんな情けない声を上げた。
「ごめーん!大丈夫?」
チュイが手のひらを合わせ倒れたグティの前に屈むと、この音を聞き駆けつけてきたカザマ達が二人を囲むような形で集まった。この状況をどう説明すればいいのだ。グティは砂まみれの背中を手で払いながらゆっくり立ち上がるも、なかなかその答えが出てこなかった。が、この無言の時間に終止符を打つべくカザマはグティの足元を指さすと、
「お前、革靴じゃん!何イキッてんだよ」
と腹を抱え大声で笑いだした。一番ばれたくない奴に突っ込まれ、その笑いはその場にいた全員に伝染した。チュイの頑張りは一体?グティは反論することすら忘れ小さくなっていると、グティを囲んだ輪の中に細かな音色と共に一回り小さい少女がぬるっと入り込んできた。
「誰だ、このガキ」
珍しく微笑んでいたアレグロの顔がさあっと冷たくなった。アレグロは穴の開いた筒状の楽器を大事そうに抱える少年を睨みつけると、その楽器を奪い取り、
「銃じゃねえよな?」
と、低い声で問い詰めた。
「ご、ご、ごめんなさい。ジュ、そんな物騒なものではないっぺ」
「『っぺ』だと?ガキ、舐めてんのか?」
「なななな、舐めてないっぺ。なんだか楽しそうだったから、私も仲間にいれてほしいっぺ」
全身を激しく震わせ、この輪に入り込んだことを後悔しているような顔つきになる少女はアレグロから目をそらした。
「ちょっとアレグロ、相手はちびっ子よ?」
そこに助け舟を出したのはスミスだった。スミスはアレグロから力づくで楽器を取り返すと、少女の手の上に優しく乗せた。
「ごめんね、うちの馬鹿が」
「馬鹿だと?」
アレグロにものすごい形相で睨まれている事を肌で感じたが、スミスは気にせず少年の頭を撫で、口を開いた。
「僕、お名前は?」
「カ、カリオペだっぺ。つい最近、12歳になったばかりだっぺ」
カリオペは恥ずかしそうに自己紹介を終えると、折り込んでいた薄汚れた赤色のズボンの裾を素早く戻した。
「ん?なんだ今の銅色の錠みたいなのは」
グティの革靴の件もあり、足元ばかりを見ていたカザマはその一瞬を見逃さなかった。そう、カリオペの右足にはまだ新しい銅の錠が巻き付いていたのだ。しかしそう指摘したカザマの声は周りの楽器の音色にかき消され、カザマ以外に聞かれることはなかった。そう思っていた次の時、カリオペは急に慌てふためきカザマの腕を掴むと、少し離れたところでしゃがむように促した。言われた通りに腰を低くすると、カリオペは背伸びをしてカザマの右耳に両手を当てると周りにも聞こえないような忍び声で話し始めた。
「一人だけ怖いお兄ちゃんがいたけど、私が思っていたよりあなた達は悪い人じゃなさそうだっぺ。……私はあなた達と戦いたくないっぺ。私は鬼にならなくてはいけないのだっぺ?私は人間を愛したいっぺ」
「……カリオペ?」
支離滅裂な言葉が並んだ。しかし、その中から直接は言えない何かをくみ取ってほしいのだと解釈したカザマは、ポロポロと涙を流すカリオペを見つめ、
「……俺に、俺たちに何ができる?」
と神妙な顔つきでそう尋ねた。が、その会話は長くは続かなかった。すぐに後をつけてきたグティ達に、
「カザマがガキを泣かしてらー」
と冷やかされ、話しどころではなくなってしまったのだ。その主犯格であるグティは先ほどの『革靴の恨み』があってか、カザマの肩を人差し指で軽くつついた。
「なにすんだ、アホグティ!」
この時はいつもに増して怒りに満ちていたカザマはグティ事を砂浜に押し倒し、目をつむったグティの顔を至近距離で睨みつけた。そんな乱闘を見つけた周りの島民は祭りの出し物としか思っていないのか、グティ達を大きな円で囲みこみさらに強く楽器を鳴らした。珍しく吹いた涼しい風がグティ達の周りを音を立て通り、その風に乗って小鳥の群れが空を羽ばたく。いつもは猛反発するグティが押し倒されてなんのリアクションも無いことに気持ち悪さを感じたカザマだったが、この時はその疑問よりも怒りが勝った。一人の少女が明らかにSOSを出しているこの状況に茶々を入れたのだ、当然であろう。カザマは慣れない仕草で拳を力いっぱい握りしめるとグティに目掛けて勢いよく振り下ろした。
「カリオペの足に錠のような物が巻かれてた」
グティのその言葉はカザマの拳を寸前のところで止めた。カザマは生唾を飲み込みグティの瞳の奥を眺める。
「あぁ、この島には何か深い闇がある」
「だな、じゃあ好きに暴れてこい。お前に怖いものなんてあんのか、バカザマ」
グティはにっと笑うと、宙に止まったカザマの拳に自分の右手で作った拳を力強くぶつけた。会場のボルテージはさらに上がり、楽器の音色が高鳴るとカザマも同様に歯を見せて硬い表情を解き
「とっくに捨てたさ、そんなもの!」
と声を轟かせた。

      To be continued……        第55話・暗然
銅の錠とカリオペ。それに動かされたグティ達の運命とは。2024年2月12日(月・㊗)投稿予定!久しぶりに養成所メンバーがたくさん登場しましたね。グティとカザマ、二人はこの先別の道を進んでいく。お楽しみに!!

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