雨の匂い

ペトリコール

「それ、“ベイカーベイカーパラドクス”っていうらしいよ」

 改札を抜けてすぐ、逆さまに落ちていくような裸体のモニュメントの周りでは、待ち合わせをする人でごった返している。

「服の選択ミスったかもなぁ…」
 蒸し暑さにやられ、シャツの中へ風を送り込みながらスマホを取り出す。聞こえてきたそのワードを検索すると、手持ちぶさたな午後の2時は終わり、3時が来る。

 音と共に震えるスマホの画面に目をやる

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いちばんすきな顔

関東は今日梅雨入りしたらしい。

道端の、咲きかけの紫陽花に目をひかれた。雨はあまり好きじゃないけれど、生き物が生きている感覚にどきっとする瞬間がある。

わたしは、完全なものより不完全なものの方が、美しいと思う。

雨のにおいには名前がついている。

ということを、おとなになってから知った。そのにおいの名前は「ペトリコール」というらしい。正確にいうと、雨自体のにおいの名前ではなく、雨が降る前に土

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ペトリコールのおもてなし

その言葉を知ったのはある画家の展覧会の記事を知り合いのFBページで見た時でした。石畳に1粒、2粒と雨が落ちて石を濡らし始めている様が描かれている。モノトーンが美しいその絵の題名は「ペトリコール」

「雨が降り始める時、湿気くさいのとは違う、土や石が濡れ始めた時に独特の匂いがしますよね? あれって落ち着くと思いませんか?」私はいつもその匂いについて語る時そんな要領を得ない長い説明をしていました。

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2018.05.23 東京都八王子市

2018.05.23東京都八王子市

大気の状態が不安定だ。小雨が降り出している。私は雨がアスファルトを湿らせた時の匂いが好きだ。空気がいつもよりも柔らかい。包み込まれるような生温かさ。

もう、かれこれ2時間は経つのかもしれない。「死にたい…」という女性と話をしている。「死にたい」と言うのは日本語に表現したときのひとつの表現形なのだと言う。そして、それは「消えたい」とか「なくなりたい」、

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