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記事一覧
イッキューパイセン 回らない寿司編
【江戸前】【一流職人】【鮮度が良い】【包丁の切れ味】【おさむ】
有名書道家の手になる巨大な看板が通行人を威圧する。
1か月前に城下町の一等地に建てられた寿司店『金満鮨』はネタの鮮度、質、職人の腕、調度品などどれもが超一流であり、富裕層を主客としてたちまちのうちに有名店へと成長した。
長さ約40メートルを誇るカウンターに客がぎっしりと並ぶさまはまるで工場のベルト作業めいている。
このよう
イッキューパイセン 銭湯の戦闘編
城下町の銭湯。
先の嵐での停電復旧作業に駆り出された人足たちが汗を流しに大挙しており、普段より熱気がこもっているように感じられる。
そんな中、湯船で背をもたれかけながら足を大きく投げ出し、上機嫌で「残酷な天使のテーゼ」を歌っている大柄なオッサンが一人。
角刈り!キラキラしたネックレス!背中には豪壮な龍と虎の彫り物!無い眉毛! 明らかにその筋の奴だ!ビビって誰も迷惑だとは言い出せない!
イッキューパイセン 晩夏の嵐編
ピカッ! ゴロゴロゴロ…!!
激しい雷鳴が轟き、雷光が荒ぶる龍のごとく夜天を駆け巡る。
雨粒が屋根を打つ音は絶え間なく、風は幾度となく建物を軋ませている。
山腹に佇む古い山寺、その本堂中央で禅を組むのは屈強な一人の僧侶。
名をイッキュー。親しいものも親しくないものも初見も古参も民も王も皆彼を「イッキューパイセン」と呼ぶ。
年齢経歴不詳。しつこく聞くと負傷。トラックはふそう。
彼は
イッキューパイセン 台風に備えよう編
昼下がりの商店街。
「明日関東甲信を直撃する台風15号は...」
電機店の店頭に置かれたテレビからは、ひっきりなしに大型台風の情報が流れてくる。
その隣、精肉店でコロッケを20個も買って、その場で熱々を頬張るものあり!
剃髪された頭、黒色の袈裟には金糸で「駅員に怒鳴る奴は雑魚」「ベランダのものは室内に移動しろ」「ホワイトランのヘイムスカー五月蠅い」「敵を知り台風を知れば百戦危うからず」
イッキューパイセン アニマルライツ編
パイセンの朝は早い。
日の出と同時に起床し、郵便受けに向かう。
朝刊を取り出すと同時にその表情が曇る。
牛乳がない。
毎朝必ず飲む牛乳が入っていないのだ。
まぁ何かのトラブルなどでそういうこともあるだろうとパイセンは仏の心でトースターにベーコンと目玉焼き、レタスを乗せると、塩コショウを振ってから二つ折りにし、かぶりつく。
食パンの耳を残すやつは梟首、が持論のパイセンはそのまま
イッキューパイセン春の特別編~上映中マナー講座~
映画ファンのミチヒロはスクリーンを前にして悲しみに打ちひしがれていた。
今日は大作ハリウッド映画『サメ野球2』の公開日。仕事を終えレイトショーのチケットを入手し、ポップコーンとコーラ、パンフレットを購入してウキウキで座席に腰かけた彼。
しかしすぐ前の席には上映中にスマホをいじるクソカップルが!
「すみません、ちょっとスマホのライトが気になっちゃうんですけど...」
精一杯カドが立たな
イッキューパイセン 平成最後SP
「強盗だ!金を出せ!レジ開けろ!!」
―――2019年4月30日23時55分。
都内某所のコンビニに野太い男性の声が響き渡る。
男は黒のフルフェイスヘルメットで頭部を覆い隠し、午前1時過ぎに子連れでドン・キホーテに行く父親が着るような、趣味の悪い刺繍の入った上下の黒ジャージ姿。
しかし何よりも目立つのはその手に握られた黒光りする拳銃、ベレッタ社のM9だ。
銃口はしっかりとホールドアッ
イッキューパイセン 四月馬鹿SP
新元号「令和」の決定で騒がしい春の日。
地方郊外、限界集落と言われる奥地のある一軒家。
突然のインターフォンに応対した老婆は来客の言葉に息をのんだ。
きっちりと黒スーツを着込んだサラリーマン風の男性だ。
オールバックの髪型が印象的で、息子よりは一回り程年上に見える。
「ドーモお世話になっております。息子さんの会社のものです。実は息子さんの開発チームが決算処理を…電子手続きで....
イッキューパイセン #7
「ちょっとちょっと君!このハンコの押し方!」
とあるオフィス。課長が新人を呼び止めた。
「えっ 押し方がどうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃないよ!」
新人の疑問に対し、課長は決裁文書の押印欄を指さしながら、すっかり薄くなった頭髪を乱して喚き立てる。
「ハンコはお辞儀するように押さなきゃ!」
「えーっ…」
「えーじゃないよ!いつまで学生気分なんだ!」
その後
イッキューパイセン #6
「ちょっとオヌシ!注ぎ口から酒を注ぐのはマナーに御法度さ!」
雪深い夜、庄屋の屋敷にて開催されていた新年会。
それは家主の大声での叱責により、一瞬で静まり返った。
「いーい?ここがまーるくなってるでしょ? 注ぎ口は円が切れるところ!ワカル?縁が切れることに繋がるのさ?ワカル!?」
庄屋は若者を人差し指で指したまま、口角泡を飛ばして捲し立てる。
周囲の空気が冷え切ってしまったことも
イッキューパイセン #5
「どうしたいんだよ」
「その小せえ脳みそで考えろや」
寺子屋の外でケンドー防具教師とパツキンピアス生徒が激しい口論をしている。
生徒のしているピアスを巡ってのものらしい。
「何がしたいんだ」
「考えろっつってんだよ その小さい脳みそでよォ」
ナムサン!彼には『考えろ』と『脳みそ』以外の語彙が存在しないのか!
その乏しい語彙でしつこく教師を挑発し続けていたそのときだ!
SMAS
イッキューパイセン 年越しSP
大晦日。夜四ツ過ぎ。
パイセンの寺には多くの参拝客があった。
除夜の鐘。
梵鐘を108回撞くことを108発の正拳突きになぞらえ、3世36類、計108の煩悩を打ち砕くのだ。
ゴーーン。
ゴーーン。
参道には数多くの屋台が並び、薄すぎるシロップにムカついた幼女がテキ屋の脛を蹴りあげたり、金魚すくいの屋台をサハギン警官が焼き払ったりして盛況を博していた。
そのとき鐘の待機列方面からど
アーリー・アフタヌーン・ウィズ・ブルー・ブルー・スカイ番外編「ロード・トゥ・ゼンコー・テンプル」
刻は応永24年(1417年)、葉に赤みの差してきた肌寒い秋の昼下がり。
シナノ・ランドの聖地、ゼンコー・テンプルの境内には横たわる無数の人々があった。
彼らに共通するのは牛の蹄による踏み跡である。
ある者は背に受けのたうち回り、ある者は腹に受け声も出せず。
突如参道に出現した一匹の仔牛は、次々と参拝客を押し倒し、引き倒し、踏み潰して本堂へと進行を開始したのだ。
山門を超え中門に至り、
イッキューパイセン #4
【掌中の蟷螂】
城下町を望む天守閣。
広間には晩夏の涼風が流れ込んでいる。
十数名の家臣が居並ぶ中で領主に謁見するのは一人の僧侶であった。
漆黒の袈裟に金糸で刺繍された「お前が来い」「不信任決議案」「無礼にはBLADE」「国破れて山河あり」などの経文が周囲を否応なく威圧する。
「よ、よくぞ参ったなイッキューよ」
イッキューと呼ばれた僧侶は知っている。
この呼び出しが単に領主の