マガジンのカバー画像

資料(Esoteric & punk)

37
主に(ポスト)パンク、ヨーロッパ的秘教音楽。忍冬資料室 https://atochietebura.com/DATA/esotericindex.html の転載。
運営しているクリエイター

#ポストパンク

憑在論と幻想文学 永井荷風からあがた森魚まで(ラフ)

憑在論と幻想文学 永井荷風からあがた森魚まで(ラフ)

『FEECO』Vol.5 (2月発売予定)には昨年の研究の進捗を報告するページがあり、そこではパストラル憑在論の日本版について思索している。単に思いついたことを書いているだけといえばそうなのだが、先出し的にこちらにも書いておく。一つの文章としてはまだ完成させていないので、あらかじめそのつもりで。「パストラル憑在論」などの語はこちらの記事を事前に読んでいただければ。

パストラル憑在論の源泉の一つが

もっとみる
憑在論と幻想文学 アーサー・マッケン篇

憑在論と幻想文学 アーサー・マッケン篇


まえがき何度も当note/当資料室内で述べてきたことだが、日本の憑在論と音楽の接続は、ほぼすべてマーク・フィッシャーと彼がウォーリック大学在籍時代に所属したサイバネティック文化研究ユニット経由の資本主義リアリズムが入り口になっている。それは(生活圏内に大学、クラブ、程度の差はあれど文化的な施設があるような)都市生活者のサイクルが孕む矛盾を呪い、反面その永劫的な再生産から抜け出せないという前提を受

もっとみる
ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック②

ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック②

 60年代の社会的な波瀾は、パリ、プラハ、西海岸、日本、もちろん英国にもその余波が到達した。69年までの時点でアフリカ大陸にある旧大英帝国の植民地はほぼ独立し、所謂エスタブリッシュメント(主に保守党政治家)に対する敬意めいたものが薄まっていたことは、当時人気を博したエンターテインメントの核が風刺であったことからもうかがえる。事実、63年に短期間放映されたテレビ番組『The Frost Report

もっとみる
アーロン・ディラン・カーンズの眼球へ

アーロン・ディラン・カーンズの眼球へ

 『FEECO』Vol.3にてインタビューを快諾し、Vol.4には原田浩の映画についてのテキストを寄稿してくれたアーロン・ディラン・カーンズが、住所であるジョージア州アトランタの一ギャラリーで行なったライヴの映像をアップロードしていた。彼が言うには、アトランタで所謂「アート」のシーンの存在を強く意識する機会は少ないとのことである。ギャラリーは多目的スペースの意味合いが強く、あくまで金で時間と空間を

もっとみる
Ghost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで

Ghost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで

マーク・フィッシャーが2014年に上梓した『わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来』によって、憑在論(Hauntology)の名は音楽ジャーナリズム内に広く伝播した、という前提で話を進める。憑在論とはジャック・デリダが提唱した概念で、大雑把に言えば「すでにないもの」と「いまだ起こっていないもの」、過去と未来という不在のつがいが、現在に幽霊のような普遍性を放つ状態を説明したものである。フ

もっとみる
"音速のバナリスト"マーク・スチュアートを追う

"音速のバナリスト"マーク・スチュアートを追う

 先日の大阪はエル・おおさかで開かれた、パンク・ムーヴメントの歴史を辿る展示『Punk! The Revolution of Everyday Life』(ほか東京、岡山、長崎、福岡でも巡行)には大いに刺激を受けた。展示されたパンクやriot grrrl(ライオット・ガール)の成果物たるレコードやファンジンはもちろん、「自主制作」という点ではルーツと呼べるヒッピー雑誌『International

もっとみる
『Live and Let Live』増補改訂版のおしらせ

『Live and Let Live』増補改訂版のおしらせ

2016年に自費出版した『Live and Let Live』という本に加筆・修正したものをnoteとBASEで販売します。記事単位でも購入できますが、マガジンごと買った方が多少お得です。オリジナルとの差異は
・誤字脱字の修正(随時更新します)
・2017年以降の情報を基にした加筆(全章合わせて1万字以上)
・図版の大部分とディスコグラフィーの省略(図版に関しては後日、アルバムジャケットなどを追加

もっとみる
ネオフォークはパンクから生まれた②CRASS

ネオフォークはパンクから生まれた②CRASS

ネオフォークの原型を作り上げたDeath In JuneやSol Invictusの母体が社会主義的主張を訴えたパンク・バンドCrisisであること、その一見すると180度逆である方向転換が、70年代末英国の左派組織(SWP)やRock Against Racismのような運動への失望に起因することは前の記事で書いた。長く続けたSol Invictusをいったん凍結させ、現在にCrisisとして復

もっとみる
ネオフォークはパンクから生まれた①Tony Wakeford (Crisis,Death In June,Sol Invictus)

ネオフォークはパンクから生まれた①Tony Wakeford (Crisis,Death In June,Sol Invictus)

※本記事は過去に公開したものが手違いで消えてしまったため(血涙)、加筆部分込で書き直したものです。

77年のロンドンに登場し、80年5月公演(MagazineとBauhausのサポート)を最後に解散したパンク・バンド、Crisisが2017年にラインナップをほぼ一新して復活した。
レジェンドと称されるバンドの再結成は大抵が金策目的だが、Crisisの背景にはオリジナル・ベーシストであるトニー・ウ

もっとみる
アンドリュー・マッケンジー(The Hafler Trio)は情報と戦っている

アンドリュー・マッケンジー(The Hafler Trio)は情報と戦っている

拙著『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』(DU BOOKS刊)にはNurse With Wound以外にも、80年代ロンドンのアンダーグラウンド・シーンで活動していたアーティスト/バンドの名が挙がる。アンドリュー・マッケンジーと、彼のプロジェクト「The Hafler Trio」についてはほぼ言及しないままだったので、補完もかねて今回は同氏について書いた。
参考資料として最も有益であったのは2020年

もっとみる
未発の日本公演音源が復刻!!  Current 93『Horsey』(HomAleph)

未発の日本公演音源が復刻!!  Current 93『Horsey』(HomAleph)

ギリシャ時代でいうところの詩人(神秘家)と呼ぶにふさわしいデヴィット・チベット率いる一座がCurrent 93(以下・C93)だ。年内に発表予定の新作と並行してスタートしたのが、過去作を網羅的に再発するプロジェクト、HomAlephである。かねてからC93やUlverといったバンドをリリースしてきたHouse Of Mythology内に設けられたC93専用レーベルといえば話が早く、レーベル主のテ

もっとみる
80sロンドン・アンダーグラウンド結合点③ COIL

80sロンドン・アンダーグラウンド結合点③ COIL

80年代ロンドン地下音楽、その前線の一つであったCurrent 93ら秘教的サークルが80年代末からのレイヴ・シーンと交わることは一部を例外になかったと言ってもいい。その要因には、輪の構成者たちの多くが英国から離れていったことや、レイヴ・シーンを形成する層との世代的ギャップが挙げられる。若者に混じり、ドラッグを嗜みつつクラブで遊ぶには、彼らは少々歳をとりすぎていたのだ。
プライベートな事情を持ち出

もっとみる
80sロンドン・アンダーグラウンド結合点② アイスランド

80sロンドン・アンダーグラウンド結合点② アイスランド


アイスランド・パンク
82年2月、Killing Jokeがドイツの名匠コニー・プランクの下で『Revelations』の録音を終えたころのこと。キーボード兼ヴォーカリストであるジャズは迫りくる終末の予感に耐えられなくなっていた・・・いや、そこから免れるための天啓を得たことに喜んでいたのかもしれない。サッチャー政権が煽り続ける新自由主義と冷戦の恐怖がそれを保証したのか、とにかくジャズは黙示録の到

もっとみる
NON 『Blast of Silence』-"ノイズメイカー" ボイド・ライス

NON 『Blast of Silence』-"ノイズメイカー" ボイド・ライス

 国際便のネットワークが乱れている昨今、英国からNON『Blast of Silence』が届いた。4月中頃に注文したことを考えれば早い。1000枚限定プレス、6月までは英国からの発送のみだそうだ。後にCDも出るとのことである。
リリースは英国のMUTE。今やNew OrderやSwans、再発でもThrobbing Gristleのような大御所を一手に受ける老舗だが、NONやLaibachのよう

もっとみる