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#ポストパンク
憑在論と幻想文学 アーサー・マッケン篇
まえがき何度も当note/当資料室内で述べてきたことだが、日本の憑在論と音楽の接続は、ほぼすべてマーク・フィッシャーと彼がウォーリック大学在籍時代に所属したサイバネティック文化研究ユニット経由の資本主義リアリズムが入り口になっている。それは(生活圏内に大学、クラブ、程度の差はあれど文化的な施設があるような)都市生活者のサイクルが孕む矛盾を呪い、反面その永劫的な再生産から抜け出せないという前提を受
ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック②
60年代の社会的な波瀾は、パリ、プラハ、西海岸、日本、もちろん英国にもその余波が到達した。69年までの時点でアフリカ大陸にある旧大英帝国の植民地はほぼ独立し、所謂エスタブリッシュメント(主に保守党政治家)に対する敬意めいたものが薄まっていたことは、当時人気を博したエンターテインメントの核が風刺であったことからもうかがえる。事実、63年に短期間放映されたテレビ番組『The Frost Report
もっとみるアーロン・ディラン・カーンズの眼球へ
『FEECO』Vol.3にてインタビューを快諾し、Vol.4には原田浩の映画についてのテキストを寄稿してくれたアーロン・ディラン・カーンズが、住所であるジョージア州アトランタの一ギャラリーで行なったライヴの映像をアップロードしていた。彼が言うには、アトランタで所謂「アート」のシーンの存在を強く意識する機会は少ないとのことである。ギャラリーは多目的スペースの意味合いが強く、あくまで金で時間と空間を
もっとみるGhost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで
マーク・フィッシャーが2014年に上梓した『わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来』によって、憑在論(Hauntology)の名は音楽ジャーナリズム内に広く伝播した、という前提で話を進める。憑在論とはジャック・デリダが提唱した概念で、大雑把に言えば「すでにないもの」と「いまだ起こっていないもの」、過去と未来という不在のつがいが、現在に幽霊のような普遍性を放つ状態を説明したものである。フ
もっとみる"音速のバナリスト"マーク・スチュアートを追う
先日の大阪はエル・おおさかで開かれた、パンク・ムーヴメントの歴史を辿る展示『Punk! The Revolution of Everyday Life』(ほか東京、岡山、長崎、福岡でも巡行)には大いに刺激を受けた。展示されたパンクやriot grrrl(ライオット・ガール)の成果物たるレコードやファンジンはもちろん、「自主制作」という点ではルーツと呼べるヒッピー雑誌『International
もっとみる『Live and Let Live』増補改訂版のおしらせ
2016年に自費出版した『Live and Let Live』という本に加筆・修正したものをnoteとBASEで販売します。記事単位でも購入できますが、マガジンごと買った方が多少お得です。オリジナルとの差異は
・誤字脱字の修正(随時更新します)
・2017年以降の情報を基にした加筆(全章合わせて1万字以上)
・図版の大部分とディスコグラフィーの省略(図版に関しては後日、アルバムジャケットなどを追加
ネオフォークはパンクから生まれた②CRASS
ネオフォークの原型を作り上げたDeath In JuneやSol Invictusの母体が社会主義的主張を訴えたパンク・バンドCrisisであること、その一見すると180度逆である方向転換が、70年代末英国の左派組織(SWP)やRock Against Racismのような運動への失望に起因することは前の記事で書いた。長く続けたSol Invictusをいったん凍結させ、現在にCrisisとして復
もっとみるネオフォークはパンクから生まれた①Tony Wakeford (Crisis,Death In June,Sol Invictus)
※本記事は過去に公開したものが手違いで消えてしまったため(血涙)、加筆部分込で書き直したものです。
77年のロンドンに登場し、80年5月公演(MagazineとBauhausのサポート)を最後に解散したパンク・バンド、Crisisが2017年にラインナップをほぼ一新して復活した。
レジェンドと称されるバンドの再結成は大抵が金策目的だが、Crisisの背景にはオリジナル・ベーシストであるトニー・ウ
アンドリュー・マッケンジー(The Hafler Trio)は情報と戦っている
拙著『ナース・ウィズ・ウーンド評伝』(DU BOOKS刊)にはNurse With Wound以外にも、80年代ロンドンのアンダーグラウンド・シーンで活動していたアーティスト/バンドの名が挙がる。アンドリュー・マッケンジーと、彼のプロジェクト「The Hafler Trio」についてはほぼ言及しないままだったので、補完もかねて今回は同氏について書いた。
参考資料として最も有益であったのは2020年
80sロンドン・アンダーグラウンド結合点③ COIL
80年代ロンドン地下音楽、その前線の一つであったCurrent 93ら秘教的サークルが80年代末からのレイヴ・シーンと交わることは一部を例外になかったと言ってもいい。その要因には、輪の構成者たちの多くが英国から離れていったことや、レイヴ・シーンを形成する層との世代的ギャップが挙げられる。若者に混じり、ドラッグを嗜みつつクラブで遊ぶには、彼らは少々歳をとりすぎていたのだ。
プライベートな事情を持ち出