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空地

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参加している同人誌「空地」に寄せている原稿です。
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5 by 5+α〜私が影響を受けた本(藤原篇)

5 by 5+α〜私が影響を受けた本(藤原篇)

まず僕は熱心な読書家ではないことを明言したい。文芸誌でnoteを始める、だからまずは自己紹介がてら影響を受けた本やカルチャーについて書いてもらいたい、と編集長から進言があった時、僕は思案することになった。中高時代を夜遊びや非行に費やした僕は、それは今では大切な思い出となり学びが生かされているのだが、こういうことになると語ることが少なく、その読書量の無さや勉強不足に小さな劣等感を覚える。それが故に今

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家の向こう側には果てしなく海が広がっている。

家の向こう側には果てしなく海が広がっている。

整備されていない浜辺のような気分だった。
誰もいない冬の海岸で、打ち上げられた砂礫と海藻に強い潮風が吹いていて、国道沿いのアパートのベランダの鉄棒が錆び付いている、そんな凡庸な景色が浮かんだ。
人気のない浜辺では端の方で雑草が茂っていて、防波堤や港には小汚い小舟が揺れている。
僕は生活の海についての取り留めもないイメージを思い返す。

部屋のカーテンを開き、窓を開ける。
向かいの家は広いが空き家で

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帰省するということ。2023.3.25-27

帰省するということ。2023.3.25-27

桜は、人は有り難がって酒を飲みながらそれを見たりするそうであるが、白く咲いたそれは、どうにも、咲き乱れ満開であるというよりも、ぼそぼそと、ぼやけているように見える。
物悲しい、侘しい、といった日常に纏わりつく感情が、並木道の上から散りゆく花弁となって降り注ぐような、そんな気さえする。
一昨日まで、旅行と呼ぶには個人的な、いわゆる帰省というものをしていたのであった。
飛行機で上空から見たり、国道沿い

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ゴールデンウィークの分裂と断片。

ゴールデンウィークの分裂と断片。

気温が高くなった五月に逃げ場はない。

僕と、高校生の制服の、白いシャツが陽射しを反射する。眼鏡で集まった太陽が黒目を焦がす。それは虫眼鏡で紙を燃やした、あの夏に似ている。

子供が頬を紅潮させてアスファルトに座り込んでいる。何やら作戦を立てている。メガネをかけたアイツが、年下の弟分に、来い、と言って走り去る。七分丈のズボンの裾が揺れる。

銃弾が三発、僕の右肩から胸を突き抜けた。
その痛みが何か

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雨降りロマンスの準備

雨降りロマンスの準備

線状降水帯の豪雨が街灯で煙る、降り続ける雨の激しさが、水溜りのコンビニエンスの蛍光灯の反射を掻き消す、それらが強風で流されていく、僕の頼りない折り畳み傘がひっくり返る、僕は少し唖然として、濡れながらそれを直す。
台風と梅雨が重なった夜に、僕は、いつものように、くだらない放課後を過ごして、終電の丸の内線に乗って帰った。
家に着き、水没してくぐもった音のイヤホンを取って気づく、ゴーッ、鳴っている、屋根

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コインランドリーと葡萄(短篇小説)

コインランドリーと葡萄(短篇小説)

夏が終わり、秋も始まらない、その九月七日の午後に、西陽が部屋に入り込み、冷房をまだつけていて窓を開けていないのに、カーテンが少し揺れる、気がする。
君は朝起きた時、季節の変わり目の雨を見ながら、僕に、「洗濯物が溜まっているのよ」とだけ言った。僕は「コインランドリーに行ってくるよ。銭湯の隣の」と言った。君は「そのまま入ってくるの?」と言った。僕は少し迷って、
「それは贅沢すぎるな」
 と言った。
 

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