かなもと

ポテトサラダが好きです。おうちでパーティを開いたら必ずだします。我が家に来てくれれば、…

かなもと

ポテトサラダが好きです。おうちでパーティを開いたら必ずだします。我が家に来てくれれば、バスタブいっぱいのポテトサラダでお出迎えします。ぜんぶ食べてください。それと、noteで小説を書きます。

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    30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。

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月面ラジオ { 1: "夢やぶれし月美" }

◇ この世でもっとも顔の大きい人間がいるとしたら? その栄光は、私の姉に輝くだろう。 月美の姉「西大寺陽子」の顔が、アパートの壁一面にひろがって映しだされていた。 中古の「壁紙スクリーン」を月美は買ったばかりだった。 普段はただの白い壁紙だけど、好きなときに映画や衛星放送を映せるというすぐれものだ。 タバコで黄ばんだ壁紙をかえるついでに、部屋をまるごとデジタル化してみたわけだ。 せっかくだ。 試しになにか映してみよう。 そう思った矢先に姉の陽子から映像通信で電話が入った

    • { 52: ミドさん }

      { 第1話 , 前回: 第51話 } ◇ ロウが扉を叩くと、部屋の中から体の大きな老婆が出てきた。老婆は、ひと目見るなりロウを殴りつけた。 「ロウ、あんた! 今まで、どこ行ってたんだい!」 ロウは吹き飛ばされて尻もちをついた。春樹は、唖然としながらふたりを交互に見た。 「おうイテぇ……」  ロウがお尻をなでながら立ち上がった。 「やっぱりまだくたばってなかったか。ババアのくせに元気だな、あいかわらず……」 「いきなり家を出ていったかと思うと、二年間も顔を見せないで

      • { 51: 変電所(3) }

        ◇ { 第1話 , 前回: 第50話 } 春樹とロウは、「二十二階の街」の夜道を歩いていた。巨大な塔の中に作られたこの街は、たとえ昼間のうちでも、どこもかしこも薄暗く、深夜ともなればなお暗かった。住民の姿が見えなくなるだけで、あたりはこんなにも不気味になるのか…… ふたりが目指している場所は、中央回路北側からさらに奥まったところにある。ロウの家は回廊南の大通りにあるので、目的地までかなり歩かなければならない。そうしてたどり着いた先は、生臭い匂いを放つ工業地帯だった。

        • { 50: 変電所(2) }

          { 第1話 , 前回: 第49話 } 「子どもの頃、電線をずっと辿って行ったことがあるんだ」 ロウ特製の晩餐をすっかり平らげると、春樹は食器を片付けながら昔の話を始めた。 「自転車に乗って、家から電柱を辿り、郊外の鉄塔を順番に巡ったんだ。秋人を連れてさ。ちょっとした冒険だったな。電線が、どこまで続くのか気になったんだ」 「発電所まで続くんじゃないか?」  ロウは言った。 「僕もそう思った。でも、たどり着けなかったんだ。発電所は遠すぎて、子どもが自転車で行けるような所

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        月面ラジオ { 1: "夢やぶれし月美" }

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          { 49: 変電所 }

          { 第1話 , 前回: 第48話 } ロウの部屋に戻ると、炒め油と香辛料の匂いが春樹を出迎えた。 食卓……と呼ぶにしては、あまりに小ぶりな折りたたみ式の丸机には、ソース味に炒めた菜っ葉と、魚肉団子の揚げものとが湯気を立てていた。ロウは、コンロの火を消すと、今しがた調理していた炒メシを鍋から大皿へと盛った。春樹のお腹がギュルギュルと鳴った。 「遅かったな? ちょうど、晩メシの準備ができたところだ」  何ごともなかったかのように、ロウが元気に言った。 「もう大丈夫なのか?

          { 49: 変電所 }

          { 48: 一日楽医院(4) }

          { 第1話 , 前回: 第47話 } ◇ 「なるほど……悪夢の話といい、血の話といい、君には秘密があるようだ。シュオではない人間の君に、特別な秘密が……」 塔に連れて来られた経緯、それとカンパニータワーでユウナ博士から聞いた話を春樹が伝え終えると、ヒトヒラ先生は背もたれに体をあずけ、天井を仰ぎ見て息を吐いた。それから椅子に深く座り直した。 「教えてください、先生」  春樹は言った。 「そもそも、シュオとはいったい何なんですか?」 「ふむ、難しい質問だが、私ならこう答

          { 48: 一日楽医院(4) }

          { 47: 一日楽医院(3) }

          { 第1話 , 前回: 第46話 } その日、春樹はひとりで電気工事の仕事をした。ヒトヒラ先生は「いたって健康」と太鼓判を押してくれたものの、あの状態のロウを仕事につれていく気には、到底なれなかった。ロウに訊きたいこともあったけれど(ケモノの戦士になるとはいったいどういう意味だという疑問が、さっきから台風さながら春樹の中で渦巻いている)、そのことを胸にしまい、春樹はロウを部屋に残して出かけた。ロウをひとりにしておくのは心配だが、さりとて看病の必要があるわけでもなく、食い扶持

          { 47: 一日楽医院(3) }

          { 46: 一日楽医院(2) }

          { 第1話 , 前回: 第45話 } ロウの口の中に、平たい金属の用具を突っ込みながらヒトヒラ先生が言った。 「舌をだして、『アー』と言ってごらん」 ベッドに腰掛けたまま診察を受けていたロウは、先生に言われたとおり舌を出した。 「アー……」 虚ろな表情で唸るロウは、全身が青ざめていて、陶器の人形のように見えた。先生は、ロウの胸に聴診器をあて、手首で脈拍を測り、口や喉の様子を観察し、風邪の患者を診る時にはおよそやるであろう検査を一通り終えた。 「ど……どうですか?」

          { 46: 一日楽医院(2) }

          { 45: 一日楽医院 }

          { 第1話 , 前回: 第44話 } 階下のフロアへ移動するのは、「黒い塔」からの脱出を試みる春樹にとって悲願の第一歩だった。でも、その感慨にふけっている時間はどこにもなかった。 ドンドンドンドン! どんどん! 春樹は、深夜にもかまわず「一日楽医院」の扉を力いっぱい叩いた。 「二十一階の街」の病院も、二十二階と同じように大通りに面していた。病院の正面に大きな看板が掲げてあったので、大階段を降りて間もなくここを見つけることができた。春樹はそんな奇跡に感謝しながら、一日楽医

          { 45: 一日楽医院 }

          { 44: ジューケー(2) }

          { 第1話 , 前回: 第43話 } なんの変哲もない……といっても、中央に手すりを設置するくらいには幅のある……階段を降りても、「二十一階の街」にたどり着くわけではなかった。代わりというわけではないけれど、これまでとはうってかわって、騒がしい地下広場に到着した。 広場には、先客がいた。それも、わりかしたくさん。みんな荷物を抱えていて、春樹には彼らが行商人のように思えた。二十二階の名物である魚肉団子をダンボールに詰めて運んでいる若者たちが、その中でも目立っていた。野菜を袋

          { 44: ジューケー(2) }

          { 43: ジューケー }

          { 第1話 , 前回: 第42話 } ドンドンドンドン! どんどん!  深夜にもかまわず、春樹は、「一日楽医院」の扉を力いっぱい叩いた。でもどんなに「助けてくれ!」と叫んだところで、白衣をまとったヒトヒラ先生が聴診器と薬の入ったカバンを提げて病院から飛び出てくるなんてことはなかった。 「やっぱりまだ来ていないのか……」 この街で診療する日になると、ヒトヒラ先生は、下の階の街から登ってきて、屋台で朝食を済ませてから病院を開けるそうだ。さっきうどんをすすっているとき、ロウ

          { 43: ジューケー }

          { 42: 路地、再び(2) }

          { 第1話 , 前回: 第41話 } 春樹とロウは、連れ立って表通りに出た。春樹は、左手首を反対の手でつかみながら、早足で歩くロウについていった。春樹の左手の血は止まらず、ズキズキと鼓動に合わせて痛みが走った。すれ違う街の住民たちは、春樹の血だらけの手に目を見開いていた。 たしかにロウの言うとおりだ。さっさと手当をしなければ、まずいことになりそうだ。今ばかりはニショウと名刺のことを忘れて、傷の治療に専念したほうがいい。 「待ってくれロウ。確認しておきたいことがある」

          { 42: 路地、再び(2) }

          { 41: 路地、再び }

          { 第1話 , 前回: 第40話 } コンテナのような大きなゴミ箱の蓋をあけると、生ゴミの匂いでむせ返りそうだった。パンパンに膨れたゴミ袋を取り出しては投げ、取り出しては投げているうちに、いくつかが破れてしまった。その拍子に、リンゴの皮だの、お茶っ葉のカスだのが手についたけど、春樹はかまわず続けてゴミ箱を空にした。 顕になったゴミ箱の底を隅から隅まで見回したけれど、お目当てのものは見つからず、春樹は声をあげた。 「ない!」 春樹は体まるごとゴミ箱に入ると、長年かけて染

          { 41: 路地、再び }

          { 40: 戦士(2) }

          { 第1話 , 前回: 第39話 } 黒い塔で最初に目覚めた時、春樹は、この犬面の大男の声に聞き覚えがあると思った。その時は何となくそう思っただけで、理由はついぞわからぬままだった。でもたった今その理由に気づいてしまった。 この男の声は、カンパニータワーを襲ったテロリスト、イッショウの声と凄まじく似ているのだ。声だけじゃない。イッショウとニショウ……名前さえ似ているじゃないか。そして、両者ともおなじ犬の仮面をかぶっている。声が似ているなら、年齢も似たようなものだろう。もし

          { 40: 戦士(2) }

          { 39: 戦士 }

          { 第1話 , 前回: 第38話 } 春樹は、「黒い塔の住民」と「ケモノ面のテロリスト」がおなじ種族かどうかわかっていなかった。どちらも赤い目なので同じものだと予想はしていたけれど、でも「ほんとうにそうだろうか」という疑問はつねに鎌首をもたげていた。塔の住民とテロリストの間には、見ただけですぐに分かるような大きな違いがあったからだ。それも二つも…… たとえば巨体という点で、ケモノ面のテロリストたちの右に出る者はない。春樹がこれまで遭遇したテロリストはたったの三名だけど、そ

          { 39: 戦士 }

          { 38: 魔窟の探索者(2) }

          { 第1話 , 前回: 第37話 } 「どんな道にも、抜け道や裏道はあるってことさ」  ロウが続けた。 「大階段の他に道があるってことかい?」  春樹は思わず前のめりになった。 「非合法につくられた隠し階段がな」  ロウはうなずいた。 「ただし、その階段がどこにあるのかわからない。なにしろ隠されている上に非合法とくる……おっと俺に聞くなよ? 俺だって、詳しくは知らないんだ。そりゃ場所のウワサくらいなら聞いたことはあるが……とにかく、知らないことにしておいてくれ」 「ど

          { 38: 魔窟の探索者(2) }