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指導者と精神医学(6): カルト教団人民寺院の教祖"ジム・ジョーンズ"の精神医学的診断とカルトを見破る方法(後編)

【前編までのあらすじ】
カルト教団人民寺院の教祖”ジム・ジョーンズ”の生い立ちをご紹介しました。
そして彼の言動から彼の精神医学的診断を試みました。
その結果、ジム・ジョーンズは「反社会性パーソナリティ障害」「自己愛性パーソナリティ障害」の可能性が示唆されました。
後編ではジム・ジョーンズの診断に加えて、カルト対策について解説いたします!



【ジム・ジョーンズの診断 part 2】

このパートでは、ジム・ジョーンズの3つ目のパーソナリティ障害について、そしてもう一つほぼ確定的と言われる精神疾患について解説いたします。

3.妄想性パーソナリティ障害

妄想性パーソナリティ障害は他人から自分が迫害されると信じ込み疑い深く不信感を抱く傾向をもつ障害です。

小生が 以前「指導者と精神医学(2): アドルフ・ヒトラー(後編)」で紹介いたしましたが、独裁者や教祖はこの妄想性パーソナリティ障害の傾向を持つと言われております。果たしてジム・ジョーンズは、この障害に該当するのでしょうか?

妄想性パーソナリティ障害 Paranoid Personality Disorder 301.0(F60.0)
A.他人の動機を悪意あるものと解釈するといった、広範な不信と疑い深さが成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
1.十分な根拠もないのに、他人が自分を利用する、危害を与える、またはだますという疑いをもつ。
=>YES。ジム・ジョーンズは何の根拠もないのに「核戦争が起こる」と信じ、核戦争が起こっても安全と思い込んだガイアナに移住します。またジョーンズタウンが襲撃者がやってきて自分達を拷問すると思っていたようです。
2.友人または仲間の誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。
=>YES。ジム・ジョーンズは、信者たちの自分への信仰心を試すため、集団自殺の予行演習を繰り返し行なっていました(記録によると40回以上!)。さらに信者の家族からの手紙を検閲していました。
3.情報が自分に不利に用いられるという根拠のない恐れのために、他人に秘密を打ち明けたがらない。
=>YES。ジム・ジョーンズは常にCIAやFBIに自分の情報が漏れる事を恐れていた。
4.悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると読む。
=>NO。明確なエピソードはない。
5.恨みを抱き続ける(つまり、侮辱されたこと、傷つけられたこと、または軽蔑されたことを許さない)
=>NO。教団に批判的な人物には徹底抗戦を挑むも、長年恨みを抱き続けるというエピソードはない。
6.自分の性格または評判に対して他人にはわからないような攻撃を感じ取り、すぐに怒って反応する、または逆襲する。
=>YES。自分の考えに異を唱える信者を人々の前で罵倒し、拷問を加えた。
7.配偶者または性的伴侶の貞節について、繰り返し道理に合わない疑念をもつ。
=>YES。多くの信者と性的関係を持ち、一方で信者同士の性行為を禁止した。この規則に違反した者は、ジムの側近により男女を問わず強姦された。
B.統合失調症、「双極性障害または抑うつ障害、精神病性の特徴を伴う」、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
=>YES?。

American Psychiatric Association. Paranoid Disorder: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM‑5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:649-652.

基準Aにおいては7項目中少なくとも5項目が該当。しかし基準Bが該当するかは明確ではない。以上より、ジム・ジョーンズが「妄想性パーソナリティ障害であった可能性はあるが、「反社会性パーソナリティ障害」「自己愛性パーソナリティ障害」ほどの確実なものではない。


4.薬物依存症 Drug addiction

前項の「妄想性パーソナリティ障害」の項目Bは確証がありません。その理由は、ジム・ジョーンズが薬物依存症であったからです。

ジム・ジョーンズは人民寺院をカリフォルニア州サンフランシスコに移設してから、習慣的に薬物を使用していたそうです。
使用薬物には鎮痛剤や向精神薬だけでなく、アンフェタミンなどの覚醒剤も含まれていました。

アンフェタミンはご存知のように使用すると幻覚や妄想が出現いたします。

このため、彼の妄想的な考えがアンフェタミンの作用によって生じた可能性があります。

余談にはなりますが、ジム・ジョーンズの指導のもと人民寺院は宗教儀式、洗脳、そして邪魔な人間(教団にとって都合の悪い人間)を抹殺するためにさまざまな薬物を使用しております。

特に人民寺院の名を世に知らしめた"革命的自殺"の際には前編でもご紹介したように、ブドウ味のフレーバーエイドと薬物の混合物を900人以上の信者に飲ませ殺害します。

この混合物はのちに「クールエイド(kool-aid)」と呼ばれますが、毒性の高いシアン化合物に加えジアゼパム、プロメタジン、抱水クロラールなど向精神薬が含まれておりました。

これまた余談ですが、米国のスラングで「クールエイドを飲む(Drinking the kool-aid)」は、「盲信する」「無批判に従う」という意味だそうです…。

↓市販のクールエイドはこんな感じの飲みのだそうです…。


【鹿冶の考察】

<カルト教祖とパーソナリティ障害>

以上のように現代の診断基準に照らし合わせると、ジム・ジョーンズが反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、妄想性パーソナリティ障害の3つのパーソナリティ障害であった可能性が高いと考えられます。

またパーソナリティ障害以外としては薬物依存による妄想状態が鑑別疾患として挙げられます。

ところで「3つもパーソナリティ障害の診断がつくことがあるのか?」と驚く方もいると思いますが、パーソナリティー障害は互いにしばしば併存するため、ジム・ジョーンズが複数のパーソナリティー障害を抱えていたと言うことはそれほど不思議なことではありません。

それに実は指導者とパーソナリティ障害は密接に関係すると言われております。

例えば反社会性パーソナリティ障害はいわゆる「サイコパス」に近い性格傾向であり、「軍人」「社長」など強いリーダーシップを要する職業の人にみられることがあります(場合によっては、非情な判断を要する立場なので…)。

また自己愛性パーソナリティ障害は指導者によっては必要条件ともいえます。

そもそもナルシズム(自己愛)、すなわち「自分大好き!」「俺、最高!」という強い自己肯定感がなければ、「俺について来い」なんてことはいえないですよね?

そして妄想性パーソナリティ障害については、前述の通り「独裁者の病」とも言われ、ヒトラー、スターリン、毛沢東などがこの疾患に該当していたと言われております。

パーソナリティ障害が先か、あるいはその地位が人格を歪めたのか不明ですが、指導者を人格(パーソナリティ)の側面から分析することは、今後多くの被害者を産まないためにも重要なことだと小生は感じます。


<カルト教祖とカリスマ性>

それにしても、なぜ"カルトの教祖"は誕生するのでしょうか?

この疑問は宗教学だけでなく精神医学、心理学そして社会学の観点からも論じられてきましたが、共通して指摘されるのは「カリスマ」です。

“カリスマ”の語源は「神の賜物」であり超自然的、超人的な資質を意味します。

現代においてカリスマ性とは様々な定義がありますが、「人を惹きつける力」といって差し支えないでしょう。

そして、非常に有能で献身的な人物にカリスマが加われば、「名君」「英雄」「聖人」が生まれます。

一方、パーソナリティ障害のように偏った特性にカリスマ性が加わると、カルト教祖という「怪物」を生み出すのではないでしょうか。


<カルト教祖とカエルの王様>

昔森の中にある小さな池にカエルたちが暮らしていました。
蛙たちは毎日が退屈で仕方がありません。
ある日のこと若い蛙がこう言いました。
この池には王様がいないから退屈な生活になるのだ
そこで蛙たちは 神様の所へ行き、私たちに王様を与えてくださいとお願いしました。
すると神様は蛙たちに一本の"木の棒"を与えました。
カエルたちは木の棒を王様に見立てしばらくは遊びますが、
「これでは張り合いがない」
不平不満を言い始めます。
その様子を見て腹を立てた神様は、代わりに大蛇を王様として池につかわせます
結果、カエルたちは蛇の王に皆に食われてしまいました

出典: イソップ物語「王様を欲しがるカエル」


カルト教祖が生まれるためにはカリスマ性以外にも、もう一つの要素が必要です。

それは教祖を求める人々の存在です(崇める人々)。

当時、 黒人や障害者など社会的弱者たちは自分たちを救ってくれる指導者を求めておりました。

そこへ社会的弱者を救済し、平等な社会を築くと言う理想を掲げた男がやってきたのです。

当然、社会的弱者たちはこの親切な男を熱烈に支持します(イソップ物語のカエルたちのように!)

要するに社会的救済を求めるという需要がなければカルト教祖は誕生しなかったでしょう。そして、おそらくカルト教祖はこういった社会的弱者を探すのが上手いのではないでしょうか?

↓ビートたけし原作の「教祖誕生」、以前観たことがあります。


<カルトを見破る方法>

小生は宗教自体を否定するわけでは決してありませんが、カルト教祖による一方的搾取は絶対に許せません

「本人が良いならそれでいいじゃん」と思うかもしれませんが、周囲特に家族を悲しませることになります。

記憶に新しい安倍晋三元総理大臣の暗殺事件も、某カルト教団を盲信した母親が原因でしたよね?

このような悲劇を繰り返さない為に、最後に「カルトを見破る方法」をご紹介して本稿を終えたいと思います!

カルトからご自身そして家族を守る為にも是非ご参考にしてください

尚、この方法は小生が以前、「カルト対策」に関する講演を聞いた内容のメモをもとに作成しております。

なぜ小生がカルト対策の講演を…?と思われるかも知れませんが、それはまた別の機会に…。

1.正体を隠して近づいてきた場合はカルトと思うべし
本当に素晴らしい神の教えを広める宗教団体であれば最初から「私たちは●●を信じています。あなたもどうですか?」と言って勧誘します。
しかし、最初は別の目的で近づいて「実は私たちは…」とあとで正体を表す場合は、カルト団体を疑いましょう。
事実、小生の家内はPTAで知り合った女性に「素敵な集会があるから来ない?」と誘われついていったところ、宗教団体の集会所だったそうです…😇
とにかくそういった勧誘はハッキリと「興味ありません!」と言いましょう。

2.特定の個人を崇拝する場合はカルトと思うべし
「●●という神は素晴らしい!」ではなく、「XXさんという知人がいるけど、すごく為になる話をしてくれる」や「XXさんはとても尊敬できる人」などと特定の個人を崇拝しているケースもカルトを疑うべきでしょう(神ではなく個人を崇拝)。これはカルト教団の教祖のカリスマ性、そして際限ない賞賛を求める自己愛性パーソナリティ障害が関与しています。
その団体が一個人に心酔しているようであれば要注意です!

3.集会が閉鎖的な環境であればカルトを疑うべし
もし皆様が何らかの理由で怪しい集会に参加した場合どうしたらよいでしょうか?
「何だか変だな…」と思い始めたら、その集会の環境を観察しましょう。
比較的狭い部屋に多めの人数、出口が少なく、窓はなく(あってもカーテンが閉められている)、集会中にトイレに行くのも憚られる…、すなわち集会が閉鎖的な環境でのであったらカルトである可能性が高いでしょう。
カルト教団は、集団催眠的な手法をしばしば用いますが、すぐに逃げられず外界からの刺激を遮断し、参加者の意識が演者(教祖)に集中するようにしむけます。

4.集会で教祖が参加者を罵倒しはじめたらカルトを疑うべし
これもカルト教団の常套手段ですが、集会中に特定の人物を指名しその人に過去を語らせます。すると教祖はその人物を罵倒し、徹底的にこき下ろします。要するに皆の前で指名された人物を辱めるのです(生贄のようなもの)。このようにすることで、「教祖に逆らうと痛い目に遭う」という恐怖心を参加者に植え付けるのです…。
反社会性パーソナリティ障害の傾向のあるカルト教祖は、相手を罵倒したり侮辱したりすることを厭わず、むしろ快感を得ます。
こういった罵倒パフォーマンスがあった場合、カルト教団である可能性があります!

5.集会で教祖”奇跡”を見せ始めたらカルトを疑うべし
カルト教祖はしばしば自分の力を誇示する為に”奇跡”を起こして見せます。ジム・ジョーンズも"歩けない"車椅子の老女が立って小躍りするパフォーマンスを聴衆の前で披露しました。
「いまどきこんなベタな”奇跡”を信じる人がいるのか?😅」
とお思いの方、ご注意ください!
周りの人間がその奇跡に歓喜し、興奮状態になるとその場の雰囲気に飲み込まれ”奇跡"を信じてしまう可能性があるのです。
教祖が”奇跡”のパフォーマンスをおっぱじめたらカルトと思ってください。

6.教祖が恐怖心を煽ってきたらカルトを疑うべし
もし教祖が教団の外部に「敵」がいて、その敵からみんなを守る…というような話をし始めたらカルト教団の可能性が高いでしょう。ジム・ジョーンズも信者に対して、教団を壊滅しようとする組織がいる、子供たちが狙われている、ジョーンズタウンの外には猛獣だらけ…、などと言ってと恐怖心を煽っていました。
これは妄想性パーソナリティ障害に基づく教祖の猜疑心を信者たちに植え付けるのが目的かも知れません。
教祖が恐怖心を煽り始めたらカルトに間違いありません。

【まとめ】

カルト教団人民寺院の教祖ジム・ジョーンズについてご紹介しました。
・ジム・ジョーンズが起こした「人民寺院事件」は当時の米国を震撼させました。
・ジム・ジョーンズを精神医学的に診断すると、反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、妄想性パーソナリティ障害に該当すると考えられます。
・また鑑別疾患として薬物依存も挙げられます。
・これらのパーソナリティ障害にカリスマ性とカリスマを求める民衆によってカルト教祖は生まれると思います。
カルトに引っかからないよう皆様もご注意ください!
・ちなみに家内は参加した集会が「やべえ」と思った瞬間、雰囲気に飲み込まれず集会を生暖かく観察しはじめたそうです(第三者視点で俯瞰😑)。

↓大学におけるカルト対策の本です!


【参考文献など】

1.Biography of Jim Jones, Leader of the Peoples Temple Cult.

2.Jim Jones: A Case Study in the Relationship Between Antisocial and Narcissistic Personality Disorders. Martin T, 2019

https://scholarcommons.sc.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1303&context=senior_theses

3.The Violence of Jim Jones: A Biopsychosocial Explanation. Lys C. Cultic Studies Review, 2005

https://www.researchgate.net/publication/259932347_The_Violence_of_Jim_Jones_A_Biopsychosocial_Explanation

4.Jim Jones: wikipedia

5.Peoples Temple: wikipedia

6.Jonestown: wikipedia

7.American Psychiatric Association. Antisocial Personality Disorder: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM‑5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:659-663.

8.American Psychiatric Association. Narcissistic personality disorder: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM‑5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:669-672.

9.American Psychiatric Association. Paranoid Disorder: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM‑5), 5th ed. Washington, DC: American Psychiatric Association, 2013:649-652.

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