記事一覧
ジョニ・ミッチェルの『BLUE』
『Blue』は地味なアルバムだと思っていた年月が長かった。初めて聴いたジョニ・ミッチェルのアルバムは『Ladies Of The Cannyon』。高校入学したばかりの15歳の時だった。衝撃だった。こんな曲作り、こんな歌い方がこの世にあるのだと思ったし、ローレル・キャニオンの一軒家で暮らすジョニとグラハム・ナッシュに強烈な憧れも抱いた。ジョニのような才気溢れる女性の傍らで、グラハム・ナッシュみた
もっとみる映画『エリス&トム』と「三月の水」のベースライン
渋谷ユーロスペースでブラジル映画祭。『エリス&トム』を観てきた。天才二人がオフで好きな歌を歌ってるシーンとか、気絶しそうなくらい良かった。ブラジル音楽の好きな人は必見だ。
ただ、字幕は酷かった。エンジニアのフンベルト・ガティカが今の音楽はコンプレッションが強くて、と眼前に手をかざして説明してるのに、「今の音楽は要約されている」とか。果ては「三月の雨」というのが二回も出てきた。ブラジル大使館も絡
上念司との「レイシスト・フレンド」裁判で私が東京高裁に提出した陳述書
陳 述 書
東京高等裁判所 御中
高橋健太郎
2023年5月29日
1 私が音楽評論家となった経過とレイシズムについて
私は1970年代の終わり頃から音楽評論の仕事を続けています。
私にとって、音楽評論が職業として確立される大きなきっかけになったのは1982年にジャマイカに取材旅行したことでした。私はジャマイカのレゲエ音楽に強い興味を持っていました。そして
上念司との「レイシスト・フレンド」裁判、一審判決の問題点 #2 レイシストは「人種差別主義者」なのか?
上念司との「レイシスト・フレンド」裁判の控訴審が始まりました。次回日程は5月15日とされています。詳しくはツイッターなどでお知らせしていきます。
前回、書いたように、東京地裁での一審判決は思いもかけないものでした。そもそも私は上念司に対して、「レイシスト」という言葉を向けていません。私と藤原大輔は、現在の社会状況の中で音楽家の取るべき態度について、友人同士の話をしていただけです。
それでも
上念司との「レイシスト・フレンド」裁判、一審判決の問題点〜小さなSLAP訴訟が言論の自由を揺るがし、反レイシズム運動を大きく後退させかねない裁判になった #1
経済評論家の上念司が私を訴えた名誉毀損訴訟で、2022年11月15日、東京地裁の藤澤裕介裁判長は私に対して、50万円の損害賠償を支払えとの判決を下しました。
この裁判は上念司が2020年1月に渋谷クラブクアトロで開催予定だった音楽祭が、出演予定のスガダイローのグループが出演キャンセルしたことから、中止となったことに関連して、それに関わるツイートをした高橋健太郎を訴えたものです。原告は150万円の
西脇一弘ブログの虚偽記載と私に対する名誉毀損について
2022年11月21日にギタリストの西脇一弘くんがブログに「sakana biography 番外編 1997〜2009」と題する文章を上げました。その内容は多くの点で事実と異なり、とりわけ、金銭や印税についての記述はほとんどデタラメとも言っていいレベルでした。さらに、私の発言が脚色されたり、メールの文面が改変されたりすることにより、私の名誉や信用を深く傷つける内容でした。
https://me
文化芸術活動の継続支援事業 フォームの入力例(無観客ライヴ配信系の人向け 新規 A-1 20万円以内)
補助形態 → 活動継続・技能向上等支援A-1
文化芸術の分野 → 音楽
[共同申請(小規模団体・個人事業者向け)]申請 又は予定 → なし
事業の名称 → コロナ後に向けた技能向上
事業の目的と活動内容(全体概要) → 無観客ライヴの音声録音、映像撮影の準備と品質向上、無観客ライヴ配信の実施
事業実施期間(開始)→ 2020年2月26日
事業実施期間(終了)→ 2021年2月28日
ソランジュの『When I Get Home』
ある朝、気がつくと、ビッグ・アーティストの新作が世に出ているということが昨今は少なくない。3月の始めにリリースされたソランジュの『When I Get Home』もそうだった。ジャケットは前作『A Seat At The Table』と同じように何も身につけていない彼女の肩から上のポートレイト。角度も同じ。でも、肌の色はぐっと暗い。その暗さを読み込むには、少し時間がかかってしまった。
『Wh
ミュージック・マガジン2019年9月号で選盤した「50年のジャズ」の30枚
Bill Frisell / Hace A Little Faith
Bill Evans / Symbiosis
Jon Hassell / Dream Theory In Malaya
Andres Beeuwsaer / Dos Rios
Alice Coltlane / Journey In Satchidananda
Egberto Gismonti / Infancia
Ra
マイ・フューネラレル・ミックス3
全員の焼香が終わって、聖苑の職員が「お別れの時」を宣言した。あずみとまだハタチそこそこの息子の文陽(ふみはる)の手によって、棺の中に沢山の花束とレコードバッグが入れられた。蓋を閉めた棺は火葬炉の中に入っていく。火葬には約二時間がかかる。その間に参列者には会館の上にある部屋で食事が振るまわれる。食事の間、昨夜と同じように「マイ・フューネラル・ミックス」がプレイされた。ただし、今日はごく小さな音量で
もっとみるマイ・フューネラレル・ミックス2
ザ・ロフトに通い詰めながら、礼文は恐ろしい勢いでレコードを買い始めた。ザ・ロフトでプレイされるようなダンス・ミュージックをすべてコレクションしようと。
さらに同じ頃、礼文はさらにフランスから移り住んできたフランソワ・ケヴォーキアンという男と出会う。フランソワはドラマーとして成功するべく、ニューヨークにやってきたのだが、ダンス・ミュージックの胎動に触れて、DJへと転身した。ドラマーとして培った
マイ・フューネラル・ミックス
その棺桶は最近、流行しているコラボ・コフィンだった。棺桶そのものはイギリスのエコ・コフィン社がデザインしたものだ。
棺桶の側面には空に向けて細い茎を伸ばしていく植物のイラストレーションがぐるりと描かれている。蓋の部分には円盤を組み合わせた幾何学模様が。このデコレーションを施したのはイラストレーターのアルフォンソ北岡。こうしたアーティストとのコラボレーション棺桶を生前にオーダーしておく人々も増
ハース・マルチネスの『ハース・フロム・アース』 ~ Hirth From Earth - Hirth Martinez
2015年10月6日、ハース・マルチネスが死去した。あの名盤『ハース・フロム・アース』のハース…と書けば、一定数の人には話が通ずるはずである。1975年にロビー・ロバートソンのプロデュースで、ワーナーから発売されたそのアルバムは、こと日本では伝説的な名盤として語り伝えられきた。1992年にCDリイシューされた後は、いわゆる渋谷系のミュージシャンに少なからぬ影響を与えてもいる。その人気を受けて、1
もっとみる高橋悠治『エリック・サティ 新ピアノ作品集』
昨年、発表した小説『ヘッドフォン・ガール』の読者から、こんな不満を寄せられたことがある。主人公が聴いているエリック・サティがパスカル・ロジェのCDだったのが通俗的で、残念だったというのだ。通俗的というのは確かにその通り。だが、主人公が聴いているサティは物語の進行とともに演奏者が変わっていく。最初に登場するのが90年代にポピュラーだったパスカル・ロジェで、それは時代背景と合せて、入門用になりやすい
もっとみる