石川諭

静岡県生まれ。1985年、1台のカメラを手にニューヨークへ。地元紙で2003年まで記者…

石川諭

静岡県生まれ。1985年、1台のカメラを手にニューヨークへ。地元紙で2003年まで記者カメラマン。2004年からフリー。現在はブルックリンがすみか。旅は続きます。

マガジン

  • a Story of Thomas /NYの路上から

    これは、私がホームレスのトーマスとニューヨークの路上で出会い、社会復帰というセクセス・ストーリーをふたりで夢見た4年に及ぶ物語です。

最近の記事

ざあざあ ざー

路上映画館は雨になり ポップコーンも ふにゃけちまった 土砂降りの銀幕 ヒロインは 傘を忘れた通行人 ホワイトノイズを身にまとい 潔い良いほど濡れながら 横断歩道を渡ってく 55秒の短編のキミ                                                        La Fin  

    • 月追いかけて三月がゆく

      ある夕暮れ ワインを飲んでいた時分に コップの白ワインを揺らしたのは 銀色の か細い月 心象風景に誘われて ふと浮かんだ雲のような気持ちを書き留める。 ああ あと2週間で15番目の月 その晩は晴れるだろうか ボクの町からも見えるだろうか 月はどこに在り ボクはどこで空を見上げるだろうか 幾日かが過ぎて 道半ばの時期になり 月の旅は途中で ボクも旅の途中さ。 霧雨の夜 古めかしい映画のワンシーンのように町は静まり返っていた 雨雲にさえぎられて見えない月を夢想すれば その分だ

      • 生きる

        生きているということ  いま生きているということ それはのどがかわくということ という書き出しで始まる、詩人・谷川俊太郎の「生きる」は、日常をしっかり見つめるまなざしの価値と、素直な言葉の重さと、愛へと続く人生の旅路のありかに気付かせてくれる40行。今この瞬間に、だれの上にも平等に流れている時間が40行というバックパッカーになって、ある日ボクのまえに現れ「やあ」と声を掛けてくる。ボクも応じてみる。「やあ 友よ タビビトよ」。 しょせんモノでしかないモノに騙されそうになったり

        • 鉄人の谷 の HEART BEAT

          マンハッタン・ブリッジの上を通過する地下鉄の軋んだ金属音に包まれて、ボクは考え始める。今、DUMBOにいる。 薄汚れた銀色の車体から上へ下へと拡散する轟音が、周辺のアパートビルのガラス窓にぶつかって跳ね返り、波打っている。その鉄のパーカッションの響きは意外に安定していて、この街の心臓(ハート)が打ち出す鼓動だと思うのは、ボクだけではないはず。 ここ。 そう、「鉄人の谷」に行くには地下鉄「F」ラインに乗って「YORK STREET」駅で降り、鉄とコンクリートで出来た素材感むき

        ざあざあ ざー

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        • a Story of Thomas /NYの路上から
          8本

        記事

          晩夏のヒマワリロック

          風よ 9月の風よ ブルックリンの路上で 年老いたひまわりがギンギンに 「命のロック」を歌っているぞ 身の丈2メートルのシンガーの 大輪の瞳が 下を向く 夏の太陽を追いかけた 熱い季節に未練なし  足元を見て 歌うのさ スローバラード 歌うのさ ハスキーボイスで 歌うのさ 今だから歌える詩(うた)があるのさ 数ヶ月前まで このオイラ たった一粒の種だった。 忘れちゃいけない その事実。 だから  だから だから おごっちゃいけない 誇っちゃいけない いばっちゃいけない 得

          晩夏のヒマワリロック

          見上げれば 希望のような 青い空

          ウチに帰る途中の長い坂道は 八月終わりの 雨あがりの小道 去りゆく夏の風に揺れて ひらひら舞ったサクラの葉っぱ  コンクリートの歩道に落ちて 版画になった 絵になった  旅の終わりのモナリザよ ボクは訳もなく君の写真、撮りたくなったんだ。 ひらひら はらはら ドキドキ ぼちぼち いちねん 365日  オイラの旅はどんなだろう  おなじ坂道 行ったり来たり 暗い日 寒い日 厳しい日 時には弾む 嘉い日もあって 仕事に向かう地下鉄駅の 階段の先で ナニが待ってる 仕事帰りは心も

          見上げれば 希望のような 青い空

          奪い合うって何なんだ

          今の世の「時代」という荒野では 高笑いの声がする その陰で涙を流す人もいる   ダレかを傷つけることが当たり前のゲームにも似て 地に吹く風に聞いてみる 奪い合うって何なんだ 競い合うって何なんだ 誰が決める 誰が勝者と 奪い合うって何なんだ それは性(さが) それは陶酔 それは はっきり言っちまえば それは 自己愛なのだろう 鏡の前に立てば きっと判る 鏡に映った自分    どうだい 健やかに微笑んでいるかい   どうだい 無垢のままそこに在るかい   どうだい 君 独り

          奪い合うって何なんだ

          まるくなるというコトは・・・

          朝 お日さまが昇ってきて 昼 雲が流れて 黄昏時 気持ちがしーんとなって 夜 星が降る そんな毎日の中で 観察と思考のサイクルを繰り返して学んだコトがあります。 あたりまえに思えるコトほど あたりまえではない ・・・と思った方が うつくしいです。 たとえば 友だちが 「うん、いいよ」の一言で あたりまえのことのように こちらのお願いを引き受けてくれる そんな時の友だちは とてもさりげないけれど その「うん、いいよ」は 決してあたりまえではない だから心の中に「ありがとう」

          まるくなるというコトは・・・

          越えて行け、そこを。

          男たちが戻ってきた。 ジャズが地下道でスウィングしてる。 ここはグラセン、朝の雑踏。 見向きもしないそぶりでも、耳は惹かれる、ほんの数秒。 ボクは幸せな気持ちで立ち尽くす。 2020年の冬から始まった日々。 コロナが津波なら、ボクはカモメ。とはいかず、打ちのめされ翻弄され、翼、へし折られた日々。 「いつか、いつか」と思いつつ、暗闇のずっとずっと先に光る、ちいさな北極星をイメージして歩いた日々。 だから日記帳はいつだって暗い迷路。 そこにボクは小心者の詩を綴った。 けれど今

          越えて行け、そこを。

          「春雨じゃ、上を向いて歩こう。」

          草花に深呼吸を促すような霧雨が降っている今日 クイーンズ区のアストリアの町を歩いた。 ギリシャ人のコミュニティーがあり 日本人にも人気な地区の 何の変哲もない住宅街を。 そして 偶然 満開の花の道に さしかかる。 静かに降れば こぼれないしずくになって 花弁を飾る雨粒。 ボクの心の目は 広角レンズから接写レンズに自然に切り替わった。 体を ぎゅっと 弓なりにのけぞらして 真上を向いてみる。 すると どうだろう 光が通過した花びらは 透けて見えてくるのだから・・・。 春雨

          「春雨じゃ、上を向いて歩こう。」

          すずめのがっこう

          マンハッタン島の西を流れるハドソン川からの風が風景をいっそう青くしている。 直線だけでできたビル街を吹き抜けてゆく冬の終わりの強風に、ボクは吹き飛ばされそうになっている。 でも、ちょっと注意して耳をすませば、ガラスとコンクリートでできたパズルのような大都会に生きる・・・すずめの声が聞こえてくる。 ボクはそっとすずめのがっこうの教室のドアを開けてみる。 何羽いるんだろう、ここマンハッタンに・・・そしてこの地球上に。 星の数ほどに思えてしまう。 すずめ。 何を食べ、何を飲み、3

          すずめのがっこう

          365 QUALITY

          見えないもの さわれないもの けれど確かなもの お金では買えない 大切なもの 転んだときに見上げた空の 涙色したパステル・ブルー 見えないもの さわれないもの けれど確かなもの お金では買えない 大切なもの 起き上がったとき頬を撫でた風が そっとひらいた明日への扉 見えないもの さわれないもの けれど確かなもの お金では買えない 大切なもの 戸惑い 不安で震えた足の その傍らで咲いているユリ 命というもの 弱くて純情かつ美しいもの 人間というもの 人の間にいるから人間

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          輝け。 大根さん

          真っ白な大根さんは、黒い土の中で育つ。 暗い地中ですくすく純白。 思うんだ。 世の中がどれほど暗い場所だとしても、白さ輝く大根さんのようでありたいな。 真っ白な大根さんは、冬の冷え込み、何のその。 寒さに当たれば甘くなる。 思うんだ。 日常が寒く厳しくなるほどに苦さを離れて甘み増す、大根さんのようでありたいな。 真っ白な大根さんは、色んな料理に引っ張りだこ。 ふろふき、おでん、ポリポリ漬物、時にはさしみのつまになる。 思うんだ。 出しゃばらないけどしっかりと「自分」が誰だ

          輝け。 大根さん

          君と僕が想う町

          ある晴れた日 散歩がてら 近所のサンセットパークに出かけた クローバーの海ノムコウに すまし顔のマンハッタンが見えている ここから眺めると 僕と街の間に横たわる距離が程よくて 心地よい 摩天楼は上へ上へ 富と名声と快楽 権力さえ求めて アグレッシブに触手を伸ばしている でも今日のように気持ち良く晴れた日には もっと違った ちょっと変わった町を想い浮かべてみたくなる そこでは 野心やライバル心の影は薄い それでもみんな 向上心を持って生きている そんな人々が暮らす町のことを

          君と僕が想う町

          アサガオのカルテット

          イノセント ただ咲くほどに紫は  ため息ばかりぞ 霜月の君      今が、晩秋だということが、紫色に深さを与えている・・・ような気がする。それが心にしみて来る。いつ寒さと共に終わるのか、その命。それほど遠いことではないだろう・・・ニューヨークの冬はすぐそこ。 けれど今日が、このアサガオ四姉妹の出番だったのだ。順番が来て、ただ咲いている、それだけのことなのだが、尋ねずにはいられない。君よ、だれのために咲いているのだ、それほどまでに美しく。 ひさしぶりにバイブルの節を添えま

          アサガオのカルテット

          路上3コマ「O」の人生

          ある日、O はつぶやいた。 「最近ちょっと疲れてる」。 だって私はSTOPの O 。みんなに止まれ、止まれと言うばかり。STOPの O じゃなくて、 GO の O だったら、人生もっと楽しかったろうに。でもGOなんていう標識はないしなぁ・・・。 ある日、O は旅に出た 。気付いたらいなくなっていた。 そして・・・ココ、有名な石油会社に就職してはみたのだが。ココでもなかったようで・・・。 かくして O の旅は続く。ここではない、どこかへ。 ある日、O とバッタリ出くわし

          路上3コマ「O」の人生