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エッセイのようなもの

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雑記からはみ出た、やや長めのもの。テーマを決めて書いているもの。
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街の本屋さん

街の本屋さん

用事のついでに家から一番近い商店街に足を運んだ。商店街、と言えるほどの規模があるかというとそうでもなくて、控えめなスーパー、最近オープンしたマツキヨ、その周囲にぽつぽつと点在する、美容室、和菓子屋、精肉店、小さな食堂、メインの通りを少し逸れたら、時代を生き残った銭湯、などなど。

その中にいかにも「街の本屋さん」という構えの本屋さんを見つけて、ああそう言えばここに本屋さんがあったなと、久しぶりにそ

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わかってほしいがわからない

わかってほしいがわからない

ど直球に書くと、察するという文化が苦手だ。

正確には「言わなくてもわかるでしょ」という空気に対応することが。

幼い頃、というよりもわたしは根本的に、今はステージに立っているだなんて一体どういうことですか、と自分に問いたいくらい引っ込み思案だった。

もはやどの口が言っているのかとも思うが、目立ちたくないし、人前で無駄に緊張するし(それは今でも変わらない)、人の顔色ばかり伺っているような子供だっ

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夜と負の妄想と、かつてのマウントみたいなもの

夜と負の妄想と、かつてのマウントみたいなもの

何にも満たされない夜っていうのがある。

決して満たされない状況とは言いきれない、恵まれたところもきちんとあるという自覚はあるのに、足りないものにばかり目を向けてしまう不毛な一日がある。

やることをしっかりやって、明るい明日と未来のために踏み出して、過去なんてなかったことにするみたいに駆け出そうよ、という自分で肥大化させた概念に責められて、勝手にもやもやする。

そう。誰のせいでもなく、勝手にだ

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さよなら、2022。

さよなら、2022。

これを書き終わる頃には2022が終わっているんじゃないかと思う。

そんなぎりぎりをやってしまうのがわたしらしく、2022らしかったりする。

たとえ終わりと始まりを迎えていたとしても、ありなんじゃないかなってタイトルだよねと自分をほんのりと誤魔化しつつ、励ましつつ。

冒頭いきなりですが、2022は本当にたくさんのことが起こりました。印象的なものをざっと列挙するとこんな感じ。

・配信、配信、ま

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ざわざわする煩い

ざわざわする煩い

心が騒つくとか、嫌な感じがするとか、そういったマイナスと思われる意味合いだけでなく、ざわざわと頭が胸の内が身体が動き、動かされるようなことが実は苦手だ。

「ざわざわ」には、喜びも悲しみも怒りも、あらゆる感情を含む。もちろん一応人間なので、誰かと出会ったり一緒に過ごしたりすることは楽しいし、そういった時間を過ごさせてもらえる幸福は好きだ。やや矛盾しているかもしれないが、コミュニケーションは得意では

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ふれあう、の近くで

ふれあう、の近くで

触れ合い、というものが好きだ。

正確には、触れ合うことを、その瞬間を、見ているのが好きだ。

肌のあたたかみを、伝え合う。けれどもそれは等価である場合がおそらくあまりなくて、触れたひとのその温度が、触れられたひとの方へとほんの少し多く、熱をもって、流れていくように思う。実際の肌の温度に関係なく、方向性としての、熱。

溶け合うように同じになるまでには時間が必要だから、たいていはその僅かに手前で、

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余白に呼吸する

余白に呼吸する

午後の電車は平和だ。眠りの溶け込んだような柔らかな空気に、学校終わりの女子学生の屈託のない笑顔。書籍の文字を追うひと。音楽を聴くひと。どこか遠い目をして車窓を眺める、ここにあらず、な瞳が許されている、そんな気がしてしまうのだ。日常を照らす落ちかけた陽光も建物の外壁を染め上げて、その反射は強くもあるが、朝の光とはまた異なる、僅かな寂寥と儚さとを含有して空を街をひとを包んでいる。これは、他者との程よい

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明日の手前で

明日の手前で

隣席の女の子のイヤフォンから音漏れしている、アップテンポな音楽を微かに聞きながら帰宅している。東海道線は気怠い空気の中、多くの駅をとばしてスピードに乗る。誰かの耳には心地よい音楽が、私の中には入ってきてくれない。外側ばかりが気忙しい、金曜の夜。

ターミナル駅で乗り換えて、流れる人波の中、わずかな安息を音楽に求めた。時間をほどいていくようなミドルテンポ。「出さない手紙は届かない」ふと意識に残った歌

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つらつらと、夜。書く、という行為。

つらつらと、夜。書く、という行為。

長い文章がなかなか書けなくなっている。

書きたいことは時折、ふと浮かぶのに。形にしようと思うと何かが「ちがう」と、言葉を流していく。頭のすこし上、宙に漂ってしまった半透明の文字を感覚で追って、正体のわからない寂しさのような、諦めのようなものを抱きながら、ぼんやりと惜しんでいる。なんだか絡まっているようだから、捕まえようとは思っていない。

今これは、詩を書くときに近い紡ぎ方で書いている。抽象性が

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シンプルであること

シンプルであること

最近、詩の投稿が滞っております。
少し思うところがあって、作風や表現方法、言葉の選び方を練り直ししつつ、やや意図的に、書いた載せたの直通運転をやめて各駅停車の運行をしています。当然、目的地に辿り着くまでに時間がかかるようになってしまって、けれどこういう時間も必要だと焦れる自分に言い聞かせながら、ぽつぽつと書き続けています。

作風の練り直し、と書きましたが、自分を完全に捨てることはもちろんできない

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「まるい空間」─ 体感する、ということ

「まるい空間」─ 体感する、ということ

以前舞台で共演したことのある知人の踊りを久しぶりに観て、思ったことがある。

彼女の動きはまるみを帯びている、ということ。まるい空間を作る、踊り。

包み込む、というのとはまた少し違う。それは伸ばした手の、その指の先にある空気がふわりと押し出されるような。揺れる柔らかな布が空気を含んで、ふっと膨らんでいくような。そしてするすると、彼女を取り巻くエネルギーとも言える空気が、動きと共に空間に混ぜ込まれ

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アネモネが鳴く、散歩道

アネモネが鳴く、散歩道

玄関先のアネモネが綺麗に咲いていたので、大橋トリオ『アネモネが鳴いた』を聴きながら散歩をしています。大橋さんの歌詞は奥様が書かれているとのこと。柔らかく、美しい言葉が好きで、詩としても素敵だなと思います。

夕暮れはやさしい。歩調に、ゆるやかに流れていく景色が言葉をくれることが多くて、あるく、というのはとても好きです。景色と気分に合わせて聴いている音楽を変えていくと、いつも見ている景色も違う顔を見

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東京、22時。

東京、22時。

乗車している電車と並行して走る、すし詰めの車両を見ていた。今日一日を過ごしてきた人々の、疲れた顔が並ぶ。どの表情も、感情を押し込めた「のっぺらぼう」のようで少し恐くなる。東京、だけではないのだろうけれど、これがこの街の日常だ。そう感じてから、ふと思う。

のっぺらぼうだ、なんてレッテルを貼ってしまった彼らひとりひとりの、今日一日を当然ながら私は知らない。朝のラッシュに加え、夜にまで遅延によりパーソ

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風景からはじまるうた

風景からはじまるうた

言葉がやんわりと浮かんでくる瞬間というのは、私にとっては風景に触れて、何かが響いたときが多い。

心の琴線とは、とても素敵な言葉だと思う。音楽を奏でるかのように、繊細な弦が共振する、震える様子が目に浮かぶようで美しい。

ぽろんぽろんと鳴るような。和音を奏でられるほどできた琴ではないと思うけれど、私の中にもそのようなものが一応は備わっているのでしょうか。拙いなあと思いながら、内側の音に導かれて言葉

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